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ちみっこ魔女転生~使い魔がコアラだったので、たのしい家族ができました~  作者: ゆいレギナ
8章 お父さんの誕生日

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67話 幼女とひげ


 その後、わたしはカーライル殿下のもとへ向かった。


 たとえば陛下の趣味が乗馬とかだったら、関連の小物をあげるでもよし。

 たとえば陛下の好物が甘い物とかだったら、手作りお菓子をあげてもいいかな、なんて思ったのだ。消え物だったら、ちょっと異世界チート知識を使っても、『愛情というスパイスです♡』で誤魔化せるかもしれないしね。


 わたしが図書室で自習中のカーライル殿下に会いにいくと、殿下が嬉しそうに顔をあげてくれた。使い魔の黒猫シェンナちゃんも小さな声で「にゃ」と挨拶してくれる。


 普段はコアラのいびきが迷惑になるかと、なかなか足を踏み入れない図書室。本屋や図書館の紙の匂いは、日本もファンタジー世界も変わらないんだなーと思いつつ、「すぐに聞いたら帰ってくるからね」「ぐも」とコアラを図書館の入り口に転がして、急いで殿下のもとへ。


「コアラどのは……大丈夫なのか?」

「コアラの面倒さは学園で有名だと思うので、わざわざ盗もうなんて人はいませんよ」

「……シェンナ。悪いが、コアラどのの見張りを頼めるか」

「にゃーん」


 カーライル殿下に頼まれて、シェンナちゃんは嬉しそうにコアラのもとへ。前足でコアラを突っついては、「ぐももも」と身震いさせるコアラ相手に楽しそうだ。


 そんなかわいい光景を確認してから、カーライル殿下は再度わたしを見上げてきた。


「それで、どうした? 勉強でわからないことでもあったか?」

「いえ……国王陛下の好きなものや、好きなことを殿下にお尋ねしようと思いまして。ほら、もうすぐ陛下のお誕生日会でしょ?」


 わたしが問うと、殿下の表情がとたん暗くなる。


「悪いが、オレは何も役に立てそうにない」

「どうして……」

「知らないんだ。父上の好みを、何も……」


 そこで、わたしは思い出す。

 そういやカーライル殿下、父親との仲が悪かったんだっけ……?


 お母さんとは、去年もお化け屋敷体験(犯人:叔父のミハエル殿下)のあとに一緒に寝たりと、それなりの親子関係のようだけど……父親は常に公務で忙しいと、一つ屋根の下で暮らしながらも疎遠になっていたはず……。


 しょんぼりとする、まだ十一歳のカーライル少年の姿を見て、わたしも自己嫌悪。

 ごめん……。わたしの配慮が足りな過ぎた……。


 でも、ここで五歳児に謝罪されても、余計に殿下が惨めに思えてしまうかもしれないよね。

 代わりにわたしは無理やりにでも、会話を明るい方向へと持っていく。


「では、カーライル殿下は何を贈るつもりなんですか?」

「一応、無病息災に効くという術具を作ろうかと……」


 おずおずと、殿下が差し出してくるのは、今読んでいたらしい分厚い本。紙の色も黄ばみ、インクの掠れも目立つような古い本だ。


 その中の一ページに、クリスタルのような道具が載っていた。

 材料は、不死鳥の羽根と、妖精の鱗粉、地底湖の水、双前歯目のひげ。


「去年はよくある既製品の飾りピンにしたんだが……今年はせっかく学園に通っているんだし、こう……学業の成果を見せられるものにしたほうが、次期国王として臣下たちにも安心してもらえるかと思って……」

「ごにょごにょ理由つける必要ないと思いますよ。単に、お仕事ばかりのお父さんの身体のことが心配なんですよね?」

「そ、そんなことは……!」


 否定するときの大声に、司書さんの鋭い視線がこちらを射抜いてくる。

 わたしたちが揃ってペコリと頭を下げてから、テクテクと図書館の入り口へ向かった。


 そして、今もシェンナちゃんにお腹をフニフニ踏まれながら「ぐも……ぐもも」とニヤニヤ寝ているコアラを冷たい目で見下ろし……そのひげを思いっきり引き抜いた。


「ぐもおおおおおおおお!?」


 コアラの絶叫を尻目に、わたしは再びカーライル殿下のもとへ帰る。

 そして、コアラのひげをカーライル殿下に渡した。


「ルルティア……?」

「知ってましたか? コアラって、哺乳綱双前歯目コアラ科コアラ属に分類される有袋類なんですよ」


 動物の分類が地球と同じことにちょっとびっくりしたけどね。

 それでも、うちのサボり魔であるコアラが役立つなら何よりである。


 なにより、こんな大事な材料を提供してあげたのだ。

 わたしがこう提案しても、何もおかしくないはず。


「一緒に作りましょう! きっと国王陛下も喜びますよ!」


 わたしがにっこりと笑うと、カーライル殿下も嬉しそうに目を細めてくれる。


「そうだ……そうだな。一緒に父上へのプレゼントを作ってくれるか、ルルティア!」

「もちろんです、カーライル殿下!」


 騒がしくも微笑ましい幼い王太子カップルに、司書官や他の利用者も苦笑で流してくれた。


 しめしめ、これで合法的にプレゼントの件は解決しそうだぞ。

 大激怒しているコアラにはね、あとで大量のユーカリの葉を贈呈することにしよう。


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