65話 自称パパの恋の行方②
ユーリさんが子持ち……?
嫌な予感がする。いや、ユーリさんがチャラ男で残念だったとかではなくて……。ものすごく面倒な気配がビンビンする。
しかし、オディリアさんは何か合点がいったらしい。
「それって、もしや……?」
オディリアさんからの問いかけに、ユーリさんが大きく頷く。
白熱する二人に挟まれた紳士……たぶんオディリアさんのお父さんと目が遭った。
いや、パパさんよ。五歳児に助けてといわんばかりのつぶらな目を向けてこないでくれ。好奇心でのぞきにきたとはいえ、わたしだって後悔している。
そんなわたしが、コアラと一緒にひょいっと持ち上げられた。
誰が持ちあげたのか……当たり前のように、その人物はユーリさんだ。
一瞬「また変なことに首を突っ込んで」的な視線で睨まれたものの、その目はすぐ真摯にオディリアさんに向かう。
「この子に出会う前なら、きみからの好意を受けいられたかもしれない。だけど……もうルルちゃんの先行きが心配すぎて、俺、自分の恋だの結婚だのに気を回す余裕がないんだ……!」
おいこら、自称パパ!?
ちょっと本気でわたしのこと大切にしすぎじゃなかろうか!?
あなた、義兄!?
わたしの面倒をみる責任はミハエル殿下だからね!?
「最初は、俺もこの子のことを面倒だなと思ったこともある。だけど……どうにも、幼い頃の自分と重ねてしまうんだ。まともな親に恵まれず、こんな小さいのに自分の幸せを諦めてしまっているルルちゃんを……俺は幸せにしてやりたい。それを見届けるまでは、俺は自分の幸せなんて考えられないんだ」
ユーリさんの態度が急変した時期があったよね。
たしか、盗賊をちゅどーんする快感に目覚めたあたり。
わたしがコアラとふたりっきりで、盗賊退治に行ったのだ。
だけど案の定、わたしはピンチになって。
そこを、助けに来てくれたユーリさんに助けてもらって。
『わたしなんか心配する人がいない』と言ったら、すごく叱られた。
『それなら、俺がパパになる』と、ユーリさんが保護者のようにふるまうようになった。
結局、わたしにはちゃんと養父もいたし、それがユーリさんの養父と同一人物で、しかもどうにも頼りにならない人だから、こうしてユーリさんが『自称パパ』化してしまったのだけど。
ユーリさんも複雑な生い立ちゆえ、ごく普通の子ども時代を過ごしていない。
親から愛されて、守られるのが当然の子ども時代。
それは、わたしは前世でも未経験ゆえ、やっぱりどんなものかはわからないのだけど。
だけど、唯一わかるのは。
それを持たざるユーリさんだからこそ、きっとわたしに与えようとしているのだ。
真面目だけど不器用な、ユーリさんなりに。
それが、寂しい思いをしてきた自分も救うことだと信じて。
「わたしと自分を重ねないでくれますか?」
「相変わらず、変なところだけ聡いな。……気が付かないでくれよ、まだ子どもだろ?」
そういわれましても、過去に別世界とはいえ三十年生きた経験がございますので。
「ユーリさんだって、ちゃんと親いるじゃないですか。ミハエル殿下だけど」
「殿下に恩義は感じてるよ。でも、やっぱりあの人に普通の父親感を求めるのは無駄じゃないか。ミハエル殿下だから」
わたしたちが困った養父を持った兄妹だからこその諦めを共有していると。
オディリアさんがわたしを見下ろしながら言った。
「じゃあ、待ちますわ」
「なにを、ですか……?」
思わず、わたしが聞き返すと。
オディリアさんが清々しいまでにきっぱりと言い切る。
「ルルティアさんが結婚するまで、ですわ!!」
その発言に、誰よりも目を見開いたのはオデリィアさんのお父さんだ。
いや、気持ちはわかるよ、お父さん。
公爵家の立派なご令嬢が、男の都合であと十年以上結婚しないって……けっこう心配だよね!?
だけど、すぐに言葉も出ないようだったから、わたしが代わりに追及してあげる。
「待って?? わたし、まだ五歳! わたしが結婚するなんていつになるか――」
「もう婚約者はいらっしゃるではありませんの。それに、普通のご令嬢なら十六で卒業するところを、あなたは十歳で卒業できますのよ? 今から十年後ならカーライル殿下も二十一歳……ちょうどいい婚期でございましょう?」
つまり、わたしにゃ十五歳で結婚しろってことですか?
早くない? 元現代のジャパニーズとしては、婚姻制度的にもアウトですよ?
このファンタジー世界じゃ、合法なのかもしれないけれど。
「えぇ……と、その頃のオディリアさんは……」
「二十六歳ですわね。行き遅れと言われるかもしれませんが、望まれればそこから十人でも二十人でも子どもを産んでやりますわ!!」
それに噴き出すのは、ユーリさんだ。顔を赤くして……何を想像したことやら。なんやかんやちゃんと十八歳しているよね、ユーリさんって。
そんなユーリさんが、心底信じられないとばかりに目を丸くする。
「本当に……それでいいのか?」
「わたくしがいいと言っているのです。ねぇ、お父様、異論はないでしょう!? ユーリさんが嫁いでくるまで、家督はわたくしが女当主として守ってみせますわ!」
ようやく話が回ってきたオリオール公爵。
「まあ、私もまだ引退するつもりはないんだけどね……」と呆れながら。
オディリアさんのお父さんは、どこか嬉しそうに苦笑していた。
そんな公爵の顔に、ユーリさんも安堵したのだろう。
ほっと息を漏らしながらも、わたしを抱き上げている手に力がこもる。
「それなら……ルルちゃんには早く結婚してもらわないと。でもなぁ、それはそれで、寂しいよなぁ……俺、耐えられるかなぁ?」
うーん、ユーリさんに人形みたいにほっぺすりすりされるのは、まったく嫌ではないんだけどね。でも、わたしが独り立ち(結婚)しないかぎり、ユーリさんとオディリアさんの結婚を待たしてしまうというのはね、プレッシャーでもあるといいますか。
でも、ここでまたわたしがごねて『だったらやっぱり婚約解消で』なってしまったら、珍しく無邪気に喜んでいるオディリアさんも可哀想だし。
わたしは「早く一人前になれるようにがんばりましゅ」と言うしかできなかったのだ。
7章はこれにて終了です!
マイペースに連載してますが、ここまで追ってくれて本当にありがとうございます!
「おもしろい!」「続きが楽しみ!」「ファンタジー世界でも二十代後半で結婚してもいいよね!」
などと、少しでも思っていただけましたなら、
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8章はまたルルティアの婚約者、カーライル殿下まわりのお話です。
箒に乗って冒険する予定なので、乞うご期待でお待ちください!!





