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ちみっこ魔女転生~使い魔がコアラだったので、たのしい家族ができました~  作者: ゆいレギナ
7章 公爵令嬢の初恋

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64話 自称パパの恋の行方①

 命を燃やす呪文……?

 そんなの、某有名ゲームでなかったっけ?


 ようは自爆だ。魔法使いひとりの命で、魔王を倒せるなら安いってか?


「それ、旧ジャパニーズの今の価値観的にアウトだから!」

「じゃぱにーず?」

「とりあえず、物騒すぎるってことです!」


 あの石版に、そんな危ない魔法が書かれていたの?

 え、それをわかっていてコアラは持って帰ってきたの?


 ちゅどーんしろよ、そんなもん!


「コアラパンチしていいですかね?」

「したいならしてもいいよ?」


 コアラは「ぐもおおおおお」とお休み中だけど、コアラパンチなら使い魔が睡眠中でも使用可能な魔法である。


 なので、ミハエル殿下に例の石版を瓦のように持ってもらい、わたしは構える。


「はああああああああ……コアラ、ぱああああああんちっ!」


 気合いとかけ声と雰囲気は十分だった。

 なのに……ぺちっと石版にパンチがぶつかっても、わたしの五歳児なおててがジンジンと痛いだけ。


 わたしは真っ赤に腫れた手をミハエル殿下に見せた。


「殿下、すげー痛いのに割れないのですが!?」

「コアラくんが壊すのに反対なんじゃないかな?」

「なぜ、コアラ!?」

「ぐもおおおおおおおおおおお!」


 わたしがどんなに思いっきり揺すっても振ってもぶん回しても、コアラは「ぐもおおおおお」をやめるつもりはないらしい。


 起きてから聞くか?

 でもこいつ「ぐも?」以外に話してくれるのか?


 わたしが悶々と悩んでいると、ミハエル殿下がわたしの頭を撫でてくる。

 思わず、わたしは殿下の顔を見上げながら尋ねた。


「どうして、泣きそうな顔をしているのですか?」

「そんな顔をしているのかい?」

「鏡を持ってきましょうか? わたしにそんな憂い帯びた目を向けても、何も出ませんよ? コアラくらいしか」

「大切な使い魔出しちゃダメでしょ」


 そんなこと言われても、わたしの個性って使い魔がコアラなことくらいしかないしなー。

 そんなときだった。


「だから、わたくしと結婚してくださいませっ!!」


 そんな女性の大声が、部屋の中にまで聞こえてくる。


 この声は……オディリアさん?

 つまり、やっぱりユーリさんとの結婚で今も揉めているということ!?


 うずうずしてきたわたしの背中を、ミハエル殿下が押してくる。


「ほら、気になるんだろう? 行っておいでよ」

「五歳児を大人の修羅場に突撃させる親がいていいんですか?」

「いいんだよ。僕はなんたって偉いんだからね」


 まったく、こういうときばかり胸を張るんじゃないよ、1000年生きる王弟殿下よ。


「じゃあ……遠慮なく!」


 それに甘えるわたしも大概なんだろうけどさ。

 ともあれ、わたしは遠慮なく廊下を駆け、偉い人の執務室っぽい部屋の前へ。


 こっそ~り、ゆっく~りと扉を開くと、オディリアさんが涙目でユーリさんに訴えていた。


「わたくしは、あなた以外の殿方と一緒になるつもりはないんです!」

「だから、俺なんかのどこがそんなにいいのですか」


 執務机に座って、遠い目をしているのがオディリアさんのお父さん、オリオール公爵だろう。


 娘の熱烈な求婚を見るのって、どんな気持ちなんだろうね。

 しかも求婚相手は、自分が一度娘の相手に相応しくないと破談させた相手だ。

 さらに、この男自体も破談に納得しているのだ。


「俺なんかと卑下しないでくださいませ!」


 ねぇ、それでも娘が本気で恋しているのを間近で見なければならないって、どんな気持ち?

 煽っているのではなく、どんまいに近い意味で。


「ミハエル殿下の厚意に甘えることなく、常に精進続けるあなたを尊敬しておりました。たとえ魔力がなくても、血豆が潰れるまで剣で道を立てようとするあなたを!」

「それは、きみだって変わらないだろう。魔法の訓練を怠ったきみの姿など見たことがない」

「あなたを真似ていただけです! だから、そんなあなたに魔力が発現したことを、わたくしはとても嬉しく思っておりました。今までの努力が実ったのだと、まるで自分のことのように」


 そんなお父さんを蔑ろにしながら、熱烈な告白を続けるオディリアさん。

 ユーリさんのしがらみのせいで誘拐されたことなど、まるで気にしていない様子だ。


 対して、ユーリさんはオディリアさんから視線を逸らす。


「だけど、俺は逃げた」


 見るからに、ユーリさんが後ろめたさを抱えている。

 根性なしめ。わたしがコアラパンチで目を覚ましてやろうか。さっきは不発だったけど。


 そんなタイミングを見定めるべく、わたしはユーリさんの言葉を待つ。


「俺はもうきみから逃げたんだ、オディリア。結局おかしな魔法に振り回されて、騎士団から追い出され、そのまま逃げた。きみのお父さんから婚約破棄を言われて当然の情けない男だ。こんな男にすがったところで、きみの輝かしい将来を汚すだけ――」

「ごちゃごちゃうるさいですわ!!」


 容赦のないオディリアさんの一喝とともに、あたりにバチバチと火花が飛びちる。

 感情の昂ぶりのために魔力が溢れてしまったのだろう。まあ、オリオール公爵も魔法には長けているのか自然と防護壁を貼っているし、ユーリさんのまわりもユカリさんのリンリンで問題なし。


 わたしも……「ぐもーお」とコアラが大あくびをしながら防御してくれていた。うん、熟睡中に起こしてごめんよ、コアラ。さっきはあんなに振っても起きなかったのに。


 そんな我らはさておいて、オディリアさんの目から大粒の涙がこぼれた。


「わたくしはただ、あなたが好きだと言っているだけなのです……どうしてそれを、受け入れてくれないの……」


 その涙に、ユーリさんの表情が歪む。

 そして、とうとう苦しそうに、ユーリさんが本音を吐露しはじめた。


「すまない……俺、もう子持ちなんだ」


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