63話 幼女と秘術
その後は、けっこう大変だった。
まず目覚めていたオディリアさんに怒られた。
「わたくしを助けにきたですって! 子どものくせに何危ないことをしてますの!?」
それでも、洞窟から出てきたわたしをぎゅっと抱きしめて、「怪我はありませんの?」などとずっと心配してくれた。それには思わずわたしもだらしなく笑っちゃうよね。
そんな顔をしていたら、わたしに何を言っても無駄だと悟ったのか、怒りの矛先がユーリさんたちへと向かった。
「ユーリ様もどうして連れてきたんですの!?」
「いや、俺は戻るように忠告したのだけど……」
「でも実際に連れてきているのだから、父親としての責務を放棄していることに変わりないですわ! それに、本物の父親は何をしているんですの!? ミハエル殿下、あの場所にいらしたわよね! 子どもを止める実力がない方とは言わせませんわよ!?」
そんな責任の所存を、ユーリさんも気になっていたらしい。
「そういや、ミハエル殿下はなんて?」
「空飛ぶための道具を用意してくれました……」
わたしがおずおず答えていると、胸に抱いたコアラが大あくびをしている。
あ、石板はけっきょくユーリさんが預かることになったんだけどね。ちゃんとミハエル殿下に渡すということを約束して。
その直後にこれだから……この石板、コアラにとってよほど大切なものなのかな?
ともあれ、いまさら寝る気まんまんのコアラを気にする者はいない。
ユーリさんもオディリアさんも、殿下に対する怒りでいっぱいのようだ。
「殿下は本当にルルティアさんを育てる気があるんですの!?」
「教育方針を改めるまで、毎日殿下の嫌いな献立ばかりにしてやる!」
ま、夕飯抜きよりはマシなのかな?
そんなことを考えていると、コアラが本格的に船を漕ぎ始めた。
それにしても、本当に二人はこのまま別れちゃうのかなぁ?
プンプン怒っている二人に、今はそんな話をしても無駄そうだけど。
そして、わたしたちはオディリアさんの屋敷へと戻る。
過激なおべし族たちも、ユーリさんの説得に応じて、公爵家に同行することに。
「罪は罪だ。ちゃんと償わせないとね」
「今後下手な悪事を働いて恩情くれないお貴族様の監視下に入るよりは、ユーリさんが仲介して信用できるお貴族様に捕えてもらったほうが、よほどこの人たちもいい生活ができそうですもんね」
「それ、五歳児が考えることか?」
ともあれ、ユーリさんにとって、オディリアさんのお父さん、オリオール公爵は信用できる人らしい。屋敷に戻った途端、ユーリさんはオディリアさんと一緒に報告と、頭を下げに向かっていった。
え、なんでわたしが他人事かって?
そりゃあ、ミハエル殿下に捕まったからですよ。
もう陽はすっかりと落ちているのに、わたしはよそのおたくで美味しいご飯をもらった、その直後。お茶で一息つかせてもらっているときに、タイミングよくミハエル殿下がやってくる。
「おかえり、ルルティア」
「あ、ただいまです……」
コアラはわたしの腕の中で「ぐもおおおおおおおおお」と挨拶をする。
そんな大いびきのコアラをミハエル殿下は「寝ているときは撫でたい放題でいいよね」と嬉しそうに撫でてから、わたしに向かって小首を傾げた。
「それで、なにか発見はあった?」
「はて、発見とは?」
なんとなく嫌な予感がして、わたしは目を逸らす。
だけど、対面に座る殿下には筒抜けだったらしい。殿下が魔法で取り出したのは、件の石板だった。
「やったね。すっごい魔法使いに、また一歩近づいたね」
「いやあ、そんな物騒な魔法は五歳児の荷に重いですよねー」
……わたしも、疲れていたのだろう。
思わず口を滑らせたと気づいたときには、もう遅かった。
「読めたんだね?」
「読めましたね」
わたしが観念すると、ミハエル殿下が苦笑する。
「これ、僕がかつて魔王を退治するために使う予定だった魔法なんだよね」
「はい?」
思わず目も口も開くわたしに、殿下は頬杖をつきながら呑気に言い放った。
「僕、自分の命を燃やして魔王を倒すつもりだったの」
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