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ちみっこ魔女転生~使い魔がコアラだったので、たのしい家族ができました~  作者: ゆいレギナ
7章 公爵令嬢の初恋

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62話 幼女と石板

 かつて魔王を倒した秘術。

 それって……簡単に言い換えたら、『すっごい魔法』ということにならないだろうか!


 そんなの、すっごい魔法使いを目指すわたしが追い求めるべきものでは!?


「どんな魔法ですか? ドラゴンも一撃で吹き飛ばすような魔法とか!?」

「まあ、魔王も倒せるんだから、ドラゴンも倒せると思うけど……すごいテンションの上がり方だな」

「ユーリさんは、わたしの夢をご存知でなかった?」

「ご存知だよ。すっごい魔法使いでしょ?」


 自称パパを名乗るなら、わたしの夢を応援してもらいたいところなのに。

 ユーリさんは、小さく鼻で笑い飛ばす。


「ま、これが読めたらの話だけどね」


 たまにユーリさんが『祠』と言っていたことが、ちょっと気になっていた。


 祠って、神様を祀る(やしろ)のことでしょ?

 突入したのは洞窟じゃんって。


 でも、たしかに洞窟の奥のここには、小さなお社があって。

 その社の中には、何やら石板が置かれている。


「ユカリさん、何かあったら、俺よりもルルちゃんたちの防御を優先させろ」


 その命令に、リンリンとした鈴の音が応じてから、ユーリさんはその石板を取り出した。


 わたしが固唾を呑んでも、特に祠が爆発することもなく。

 ユーリさんが安堵の息を漏らしてから、その石板をわたしに見せてくる。


 当然、コアラの鼻ピカーで照らしますとも。

 石板には、パルキア交語でない言語が刻まれているようだ。


 わたしはその石板を見ながら、ユーリさんの言葉を聞く。


「あいつらは、この魔法を使って、パルキア王国から祖国を取り戻したいようだが……こんな読めもしない板を手に入れたところで、どうするのか知らないがな」

「これは、おべし語でもないと?」


 ユーリさんが「おべし語?」と眉根を寄せつつも、わたしが言いたいことは伝わったらしい。


「魔王がいた時代は、千年以上前のことだ。さらにこの秘術は、その時代から『古代』といわれていた時代の代物らしい。言語が変わっていても、何もおかしくはないよね。正直、俺も辛うじて祖国の言葉は話せても、読み書きはほとんどできないしさ」


 国が失われるということは、文化も失われていくということ。

 ユーリさんの祖国が、どうして無謀に戦争なんて挑んだのか、それはユーリさんもわからないのだろう。わたしにはもっとわからない。


 ユーリさんが苦笑する。


「魔法ってほんとなんだろうね。魔法は生きていくうえで、なくてはならない力だ。だけど、悪用する者が出てくることは避けなければならない。そのためにも、やはり俺は――」

「ま、魔法なくても、なんとかなりますよ」

「えっ?」


 わたしの否定に、ユーリさんが目を見開く。

 ここはシリアスなシーンだ。


「人間、不思議な力なんかなくても、頭使ってどーとでもなるんですよ」

「ルルちゃん……」


 だから、見た目は五歳、中身はアラサーのわたしが、色々なものを背負っている十八歳のユーリさんに名言を告げて、今から全責任を無駄に背負おうとしているユーリさんを励ます名シーンを作らなくてはならない。


 だけど、わたしは冷や汗でダラダラだった。


「ルルちゃん、どうしたの? お腹痛い? それとも何か怖いものでもあった?」


 いや、ちゃんとね、シリアス名シーン頑張ろうとしたのですよ。


 魔法なんかに頼らなくても、平和は築けるよ、と。

 現に、わたしの元の世界に魔法なんてなくて、頭使って科学を発展させて、この世界よりももっと便利な世の中になっているよ、と。だから、ユーリさんももっと肩の力を抜いて、亡国の王子なんて肩書き捨てても、なんとかなるよ、と。全部は説明できなくても、転生者らしくいいことを言おうとしたのだけど……。


「ぐも?」

「ユーリさん、わたし、早くここを出たいです」


 わたしはコアラをぎゅっと片手で抱きしめながら、ユーリさんの袖を引く。


「うん、そうしようね。ぎゃぎゃっと、おべし! おべし! おべし!」

「おべーし……」


 ユーリさんが声を張り上げると、過激派の人たちが落胆したおべしをあげながら、とぼとぼと帰路につく。わたしもユーリさんが石板を祠に戻してから、その背中をどんどん押した。


「ちょっとルルちゃん!?」


 なぜ、わたしがこんなことをしているのかって?

 理由は簡単――あの石板が読めてしまったからに決まってるでしょうーが!


 もうね、古代おべし語、まんま日本語だったんですよ。ひらがな!

 えー、日本語が進化したらおべし語になるとか、ちょっとショックなんですけどー。


 ……とか、そんな文句はさておいて。


 中身は、もっと問題がありまして。

 こりゃあ、世に出ちゃまずい魔法だなーって、さすがのわたしも思っちゃいまして。


 だから、洞窟を出てから、わたしはコアラにお願いする。


「いけ、コアラ! ちゅどーん!!」


 ちゅどーーーーーーん……と、滝の洞口が爆発することはなかった。

 わたしはピシッと指さしたのに、何も起こらないただただ痛い少女。


「ルルちゃん、本当にどうしたの?」


 気が触れたのかと心から心配する目は勘弁してほしい。


 だけど、それより前にコアラがわたしの腕から飛び降りる。

 そしてトコトコとひとりで洞窟の中へと入っていく。


「ついて行かないでいいのか?」

「た、たぶん……?」


 そのまま、しばらく待っていると、コアラがやっぱりトコトコ戻ってくる。


「ぐも!」


 その背中には、例の石板を背負って。


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