57話 幼女とお見合いパーティー
オディリアさんのお見合いパーティー当日。
「ママがほしいなら、俺がなる!」
「そんな海の王様みたいな格言いらないですから」
ずーっと、ユーリさんはうるさかった。
そんな悪ノリだけで参加するようなパーティーではない。失礼だ。ましてや、五歳の幼女が参加するような集まりではない、と。
……ごもっともである。
公爵家の、一人娘の伴侶が決まるかもしれない大事なパーティーだ。
しかも、婿養子になり、ゆくゆくはオディール公爵家ならびに関係親族や事業を率いていく次期当主を決める、大事な集まり。物見遊山で子どもが社会科見学していい場所ではない。
でも、わたしはばっちりミハエル殿下に用意してもらったドレスを着て、一緒の馬車に乗せてもらっていた。
ちなみに、膝の上のコアラも赤い蝶ネクタイをつけている。かわいいね。ひげに寝ぐせがついてしまったときはどうしようかと思ったけど、メイドさんたちに協力してもらって、なんとか直すことができた。
「てかユーリさん、もう諦めましょうよ」
ユーリさんだって隣で馬で並走して、護衛騎士スタイル決めてるじゃん。
めちゃくちゃわたしたちの護衛として参加する気満々じゃん。
前髪をあげて、カッコイイマントまでなびかせて。
普段地味な男が、パーティー仕様になるとイケメンが露呈するやつあるよね。どこの女性向けラノベのヒーローですか? そのままヒロイン(オディリアさん)を奪いにいってほしい。
……実はそのつもりだったり?
と、わたしはニヤリと探ってみる。
「めっちゃ会場内までついてくる気じゃないですか」
「そりゃあ、ルルティアの護衛を俺がしないでどうするの」
「せめて殿下の護衛しようぜ」
ほんと、頭固いなー、この男。
かというミハエル殿下は、いつもの三割増しでキラキラしている。
色男のパーティー仕様だ。輝きだけで何人の令嬢を倒すつもりだろう。
「あ、もうすぐ公爵家が見えてくるよ」
陽が沈みかけた夕暮れ。
橙色の明かりが照らす白亜の豪邸が、今日のわたしの勝負場所である。
「ぐもおおおおおおおおおおお」
うん、コアラは通常運転だけどね。
「やあ、オディリア嬢。今日はお招きありがとう。今日は一段ときれいだね」
ミハエル殿下が片膝をつき、赤いドレスを身にまとったオディリアさんの手の甲にキスを落とす。
ドレスアップしたオディリアさんは、文句なく美しい。こんなに縦ロールと赤いドレスが似合う十代なんて、彼女しかいないのではなかろうか。
まあ、今日は彼女のお見合いパーティーだからか。参加者は男性ばかりだった。ミハエル殿下のキラキラ被害者は使用人のメイドさんのみである。しかし、さすがは公爵家の使用人。表立って倒れるような人はいないけれど。(でも、みんな二度見はしているから気持ちはわかる)
ともあれ、ミハエル殿下の美貌は会場一だった。
他の参加者もそれなりのイケメンが揃えられているようだけどね。殿下のキラキラには叶わない。しかも、開口一番にこんな膝をつく男も殿下くらいなものである。
通常のラノベなら、ヒロインは頬を赤らめてきゅんとする展開。
しかし……肝心のオディリアさん、にっこりと完璧な愛想笑いだ。
「ふふっ、お褒めいただき光栄ですわ。ですが、見目麗しい殿下に言われると、かえって恐縮ですわ」
「そんな謙遜しないでよ。僕も君みたいな可憐な花を手に入れたいと思って、足繁く通った男のひとりなんだから」
立ち上がったミハエル殿下が、オディリアさんに片目を閉じる。
それでも、オディリアさんは「うふふ」と愛想笑いを続けるだけ。
その様子に、殿下は心配になったのかわたしに耳打ちしてくる。
「まったく彼女の胸に響いてないようだけど……これで本当によかったの?」
「いいんですよ。ターゲットはオディリアさんじゃないんで」
そう、この手の甲キス作戦は、わたしが殿下に伝授したものだった。
ザ・わかりやすくヒロインを口説く当て馬大作戦!
それに、思わずヒーローが嫉妬してしまう展開、よくあるでしょ?
他の人のモノになってしまうと、ようやく自分の恋ゴコロに気付くのだ!
……と、期待して隣のユーリさんを見上げる。
嫉妬してるかな?
自分の本当の気持ちに気が付いちゃったかな?
「俺、心底この人に息子になったこと後悔している」
……とんでもねージト目だなー、おい。
ちょっとお知らせです。
昨日から別作品を短期連載してます。
「悪役戦姫ノア、男装皇帝に嫁入りする」
https://ncode.syosetu.com/n2289kr/
はじめて百合っぽい作品に挑戦してみました。
結婚するのでチューしたりいっしょにお風呂入ったりするくらいです。
来週半ばには完結まで掲載できるので、よければ読んでみてくださいね!





