56話 幼女と公爵令嬢③
「あの……王太子妃と騎士団って、両立できるものなんですかね?」
「だったら、わたくしもどこかの夫人と騎士団の双方を選んでもよさそうだけど」
「たしかに~!!」
贅沢な悩みと言われそうだが、当事者からしたらけっこう深刻な問題だね。
お家のための、結婚。
そこに、自分の意志はない。
将来の伴侶を、自分で選ぶ権利もない。
それでも、わたしは他人事に対しては諦めが悪いほうらしい。
「この際、失恋の腹いせに騎士団に入っちゃうのはどうですか?」
「それはすごくステキな提案ね」
オディリアさんがにこりと微笑む。
だけど、その笑みが愛想笑いなことに、わたしはすぐに気がついてしまった。
そうできる立場じゃないんだろうなぁ……。
それに引き換え、わたしはどうなんだろう。
たとえば、カーライル殿下に、そしてミハエル殿下に『騎士団に入って悪いやつらをちゅどーんしまくりたいです!』と言ったら、どんな反応を返してくれるんだろう。
カーライル殿下は散々ごねた後に『ルルティアが満足するまで待ってる』とか言ってくれそうだし、ミハエル殿下も『じゃ、手続き進めといてあげるね』とあっさり了承してくれそうな気がする。なんならユーリさんが『危ないだろう!』と一番反対してきそうだ。
わたしは、ものすごく『人』に恵まれているのだろう。
そう思ってコアラを抱きしめたくなるも……コアラは絶賛格闘中。
ベンチのはじっこで短い腕を伸ばすコアラ。
その先には……オディリアさんの羽根つきうさちゃんが、コアラのユーカリを咥えてくるくると空を飛んでいる。なんてかわいい光景なのだろう。
「ごめんなさいね。ミミ、ああ見えてけっこういたずらっ子なの。やめさせましょうか」
「いえ、ほっといて結構です。コアラにも適度なストレスは必要だと思うので」
だって、いつも食っちゃ寝しているコアラだもん。
たまにはおまえも悩んで大きくなってもらいたい。
そうして眺めていると、オディリアさんが穏やかな顔で微笑む。
「かわいいわね」
「はい」
アニマルセラピーは、異世界でも通じる。
どうかこのひとときが、オディリアさんの失恋を癒やしてくれますように。
……なーんてね。
このわたしが、このくらいで引き下がると思ったか?
あんなかわいくて優しいお姉さんの将来を、詰ませてなんてなるものか!
「ミハエルパパ~♡」
「なんだい、僕の愛娘♡」
消灯時間前に『父親』に会いに行ったわたしは、にっこり顔でおねだりする。
「わたし、ママがほしいなぁ♡」
わたしのおねだりに、ミハエル殿下もニヤリと口角をあげる。
「そういや、最近お見合いパーティーの招待状が届いてたね。一人娘がもうすぐ学園を卒業するから、そのまえに婚約者を見つけたいとかいう趣旨のやつ」
わたしの養父、ミハエル=フォン=パルキア王弟殿下は独身である。
そりゃそうだよね。1〇〇〇年以上生きる不老不死者が結婚していたらびっくりだ。なぜか養子はふたりもとっているけど。
それでも、建前上はこれでも未婚の麗しき王弟。某公爵家からしたら、これより優良な婿候補はいない。ダメもとでも、招待状くらいは送っていると思ったのだ。
ミハエル殿下もニヤニヤしているということは、わたしの意図が伝わってるのだろう。
「お当たり前だけど、わたしも娘としてママの選別に参加させてもらうからね」
「まったく、わるい娘だねぇ」
「それをわかっていてニヤニヤしているお父さんも同罪……」
と、わたしたちが楽しい親子の会話をしていたときだった。
「ちょっと待ったあああああああああ!」
どこから聞きつけたのか、はたまた普段は見えないユカリさんの告げ口なのか。
わたしの義兄兼自称パパであるユーリさんが、殿下の部屋に飛び込んでくる。
だけど、時すでに遅し。
わたしとミハエル殿下が、ニヤニヤを治めるはずがなかった。





