55話 幼女と公爵令嬢②
ずっと気恥ずかしそうにしているオディリアさんを観察していたい気持ちはさておいて。
ここはメンタル年長者として……わたしが話しかけるべきだよね。
「ジュース、おいしいです」
「それはよかったわ。本当に、あなたの魔法はすばらしいことに違いはないから。わたくしに通用しないくらいで落ち込まないでちょうだい。むしろ、わたくしが対処できないほうが問題でしょう。二年生に生徒会長がやられるなんて、わたくし個人だけの問題ではなく、学園の威信に関わる――」
早い早い。そんな必死にフォローされてもわたしが困る。
勝手に挑んで、勝手に先行きが不安になっただけなのだから。
「大丈夫です! フォローありがとうございます! これからも生徒会長を超える魔法使いを目指してがんばります!!」
なので、わたしが慌てて敬礼を返すと、オディリアさんが苦笑した。
「わたくしなんて、あなたなら簡単に超えられるでしょう? 王太子妃殿下? それとも王弟殿下のご息女とお呼びすればいいかしら?」
「あっ……」
呼ばれて、すっかり忘れていたことを思い出す。
オディリアさんは公爵令嬢兼生徒会長で、すっかり偉い人の気分だったけど……わたしはもっと偉い人だったね。普段、まったく自覚ないからね。カーライル殿下もミハエル殿下も、すごい人というより『あなたたち大丈夫ですか!?』て感じの人たちだし。
それが顔に出ていたのだろう、くすくす笑うオディリアさんの顔は、ただの優しいお姉さんだった。
「あなたは、どうしてここに来てくれたのかしら?」
「あの……一応、あなたを励ますつもり……でした。役立たずでしたが」
気まずさに視線を下げると、オディリアさんがわたしの髪を耳にかけてくれる。
あ、髪の毛がジュースに入りそうだったんだね。
そんなわたしを見つめながら、オディリアさんが目を細めてくれた。
「ありがとう。おかげでいい気晴らしになったわ」
「それなら嬉しいのですが……」
「気を遣ってくれたついでに、わたくしの話を聞いてもらえる?」
ぶっちゃけ、わたしの主目的はそれでした。
訓練はおまけというか、導入のつもりでした。
なので全力でコクコク頷くと、オデリィアさんが遠くを眺める。
「来週ね、わたくしのお見合いパーティーが開催されてしまうの」
ちなみにコアラは、わたしの隣で大人しくユーカリの葉を食べている。
そのまた隣のたれ耳うさぎが、鋭い目をしていることに気が付いていない様子だ。
「わたくしは公爵令嬢。家のため、国のために結婚しなければならない……そのため、騎士団を破門になったような男は、わたくしの伴侶に相応しくないと。しかも、ユーリ様の気持ちすらないんですもの。年貢の納め時ですわね」
そんなモフモフたちの攻防を注視しているのは、オディリアさんもいっしょらしい。
だけどお互い口に出すのは、自分たちの境遇についてだ。
「結婚は……確定事項なんですか?」
「貴族の子として生まれたからには、当然の責務よね」
「でもほら……魔法騎士団から推薦がきてるって……」
魔法騎士団は、当たり前だけど、お国のピンチを守るために集められた魔法の先鋭たちらしい。オディリアさんは、この魔法学園の首席である。男とか女とかおいておいても……夢に描いたことはあるんじゃないかなぁ。むしろ結婚が優先されるなら、別に首席をとる必要はないわけだし。
それなのに、オディリアさんは小さく苦笑するだけ。
つまり、オディリアさんの描く未来に、そんな夢はないということだ。
「では、あなたが将来、わたくしの代わりに魔法騎士団へ入団してはいかがでしょう。悪いやつらをちゅどーんし放題ですわよ?」
「それ、すごくいい!」
代わりに提案された夢を、わたしは即座に思い描く。
カッコいいよね、『転生したら、魔法騎士団のエースでした! withコアラ』みたいなの。
なんともチート転生っぽい生き方!
かわいいコアラを左腕にひっつける美少女騎士が、わるいやつらを合法的にちゅどーんしまくるのだ。
たのしい……それ、ぜったい楽しい!
だけど、頭によぎるのは拗ねているカーライル殿下の顔。
『ルルティアは……おれと結婚するんじゃなかったのか……』
『あっ……』
王太子妃と、魔法騎士団……両立ってできるのかな?





