53話 コアラのひげ
さて、オディリアさんはどこに行ったのだろう?
わたしも無駄に有名人だからなぁ。下手に『生徒会長どこですか?』なんて聞いて回って、おかしな噂が立つのも遠慮願いたい。
「ぐも」
そんなとき、コアラがパッと目をあける。
よーく見れば、ひげがピクピクと動いている?
なんだろう。明かりを求めると鼻が光るみたいに、じつはこのひげにも特殊能力があったりとか? ダウジングみたいに目的地を示してくれる的な?
「ぐもーぐもー」
そんなコアラが「あっち」と言わんばかりに指さす方へ行かない理由がないよね!
ぐもーぐもー進んだ先は校舎から離れたグラウンドだった。たまに決闘しているところだね。
普段は訓練をするための場所で、放課後も自習する生徒のために開放されている。事故があったら困るため、生徒会に申請しなければ勝手に利用することはできないのだけどね。
そんな場所を申請なしにいきなり使える者がいるとすれば、ただ一人。
生徒会を治める長くらいのものだろう。
「雷撃ッ!」
短い言葉から、放たれる稲光はとても大きかった。
グラウンドの塀の外にいるのに、わたしの髪がなびくほど風圧が強い。バチバチとした音とともに、わたしの肌もピリピリする気がする。
「すごい魔法だね、コアラ」
「ぐも」
「でも、わたしたちの『ちゅどーん』も負けてないもんね」
「ぐも!」
まあ、負けず嫌いはおいておいて。
オディリアさんが雷撃を撃つたびに、コアラのひげがピクピクと動いている。
もしかして、ただこの雷に反応していただけだったり?
ダウジング機能は、ひげにはなかった?
そんなことを考えていたときだった。
「あのわからずやあああああああ!」
オフィリアさんのそんな怒声とともに、目の前がピカッと強く光る。
目を閉じても、世界が白い。白すぎる。
あれ、これはもしかして、やばいやつ?
オフィリアさんの雷が、わたしに向かってきたとか?
そんな直感にわたしは思いっきりコアラを抱きしめる。
「ぐも」
しかし、衝撃はこない。ただコアラの一鳴きが聴こえただけ。
代わりに、バシャーンッとした音が鼓膜を大きく揺るがした。
ゆっくり目を開けると……わたしたちを囲うドーム状の障壁のまわりを、バチバチと稲光が走っている。これは……わたしの相棒が最高ってやつだね!
「コアラ、ぐっじょぶ!」
「ぐっぐも!」
「大変申し訳なかったですわ!」
わたしたちが親指を立てていると、オディリアさんが慌てて駆けてくる。
彼女は、今にも泣きそうな顔をしていた。
「まさか、わたくしが照準を誤ってしまうとは……本当に、いくら謝っても足りませんわ……」
もっと気品と自信に満ちた、ザ・令嬢だと思っていたんだけどね。
こうしてみると、本当にただの少女だ。
失恋して、落ち込んでいたときの八つ当たりまでも失敗してしまい。
このまま自己嫌悪で夜も眠れなくなってしまう、そんなただの女子高生。
そんなショボショボのお姉さんに、わたしとコアラは「ぐも」と胸を張る。
「まあ、わたしたちすっごい魔法使い目指してるんで?」
「ぐも?」
オディリアさんが「すっごい魔法使いとは、具体的にどういった魔法使いのことですの?」と小首をかしげる。
改めて真面目に聞かれると、ちょっと困ってしまうのだけど……。
こう、幼児のノリといいますか……。
だけど、オディリアさんの意識が失恋から逸れてくれたなら、ちょうどいい。
本人がすでにしていたことだけど、失恋のあとはストレス発散に限るよね。
美味しい物をたらふく食べたり。
めちゃくちゃ運動してみたり。
それも、一人より二人のほうが楽しいよね!
とりあえず、わたしはこの場を誤魔化すために、お願いごとをしてみるにした。
「わたしたちの特訓に付き合ってもらえませんか!?」





