51話 へんてこ家族の会議
「わたくしはオディリア=オリオール。あなたの母になる女ですわ」
生徒会長にいきなり言われて、わたしは即座に家族会議を要請した。
だってさー、いきなり十六歳の子に「あなたの母ですわ」と言われましても。
以前、カーライル殿下のお母さんから母発言を頂戴したことはあるけど、それはまあ、わかるよね。婚約者のお母さんなんだし。いつかは義母になる存在なのだから、家庭環境が思わしくなかったわたしを慮って、先んじてくれただけと言えるだろう。前向き解釈。
だけど、今度は生徒会長だ。まだ未成年……かつ、あなたはわたしのなんですか?
百歩譲って、わたしのことを好いてくれたからだとしよう。
……そんな好かれるようなこと、わたし、しましたっけ?
箒に乗って、生徒会室に殴りこんだだけですが?
「というわけで、生徒会長さんって何者ですか?」
「あー……」
いつものミハエル殿下の特別研究室。
放課後にミハエル殿下とユーリさんと家族三人集まれば、ユーリさんがいつになく途方に暮れた声を発しながら、天井を見上げている。
え、これはユーリさんが原因のトラブルなの?
いつも通り、ニコニコ顔のミハエル殿下ではなく?
「ルルティア。どうして僕のほうを『信じられない』って顔で見ているの?」
「いやぁ、過去にミハエル殿下がやり捨てた女なのかなとか思ってまして」
「五歳の女の子が『やり捨て』なんて言葉をどこで覚えてきたの?」
はい、すみません。アラサーだったころの前世で覚えてきました。
「じゃあ、生徒会長さんをやり捨てたのは……」
それはともかく、わたしはユーリさんが作ってきてくれたクッキーをしゃくしゃく食べながら、未だ呻いているユーリさんを見やる。クッキーは美味しい。しかもコアラの形をしている。合わせる飲み物は牛乳と、五歳の女の子が喜ぶ最高のおやつセットだ。
このユーリさん、今は学園の用務員として、しっかり働いているらしい。ニワトリ小屋の制作のみならず、ちゃんと学園内の清掃やゴミ捨て、灯りの管理や備品の整備など、復学してからサボっているところを見たことがない。
それなのに、お昼休みの終わりに『放課後集まろうね』と話したら、こうしてお手製クッキーを用意してきてくれる始末。普段一生懸命に働いているから、同僚の人たちもこうしてクッキーを焼いたり、家族会議の時間を確保させたりしてくれるのだろうけど……。
こんなパパ力が高い人が、かつて公爵令嬢な生徒会長をやり捨てただと?
「ただでさえ亡国の王子なのに、チャラ男な過去も追加とか設定盛りすぎにも程があるでしょ!?」
「ルルちゃん。それは思っても口からに出しちゃダメなやつだぞ」
呆れたように苦言を呈してから、ユーリさんがゆっくりとため息を吐く。
そして、わたしを見ながら苦笑した。
「でも、一つ設定を忘れてる。俺、彼女の家から婚約破棄されているから」
「あっ!」
そうだった!
この人、とんでも魔法(いつでもどこでもユーカリの木が爆誕)のせいで騎士団を追放&婚約破棄されたせいで傷心し、ユーカリの森でやさぐれていた人だったんだ!
じゃあ、そのときの婚約者が……?
「そう……俺と婚約していた相手が、オディリア=オリオール。オリオール公爵令嬢だったわけ」
その後のユーリさんの説明によると、オリオール公爵家には嫡男がおらず、一人娘であるオディリアさんは婿をとることが義務付けられていたらしい。
そこで、身元保証人がミハエル殿下であり、天涯孤独のユーリさんに白羽の矢が立ったのだという。下手に後ろ盾がないことが乗っ取りなどの懸念もなく、当時はユーリさん自身の魔法の素養がなかったことも、領地運営に注視してくれるだろうとかえって高評価だったらしい。
「だけど……いきなり制御できない魔法が発現してしまい、話が代わってね……魔法の制御もできないような男に大事な娘は任せられないと、婚約は破棄されたってわけ」
「なるほど……」
おなかも膨らみ、今日も「ぐもおおおお」といびきを搔いているコアラを撫でながら、わたしはその話を聞いていた。
オリオールのお父さんの気持ちは、わからないでもないよね。毎日屋敷をユーカリの木で壊されちゃたまったもんじゃないし、大事な跡取り娘の伴侶がそんな男というのは御免こうむりたいだろう。
ちなみに、ユーリさんは最近も一日一本はユーカリの木を爆誕させている。
でも、学園の郊外にあった物置小屋を部屋に改良させてもらったおかげで、ユーカリの木が爆誕しても被害はあまりないらしい。むしろ、しばらくすれば何もなかった更地の緑地化に成功し、戦闘訓練に活用したり、サバイバル的な訓練に使えるのではないかと、学園長もあたたかく迎え入れてくれたということだ。
そんなときだった。「失礼しますわ!」といきなり部屋の扉が開かれる。
そこには、渦中の生徒会長、オディリア=オリオール嬢が真剣な顔で声を荒げていた。
「婚約破棄は、父が勝手に決めたことです! わたくしは同意した覚えがないのですわ!」
これは……ロマンスの雰囲気というやつですか?
思わずにやけたわたしに、ミハエル殿下が耳打ちしてくる。
「ルルティア、こういうロマンスけっこう好きなの?」
「年頃の女の子ですからね」
「五歳のくせに?」
そうは言われましても、殿下もけっこう楽しそうである。
殿下がわたしを膝の上に乗せてくるけど、今は許そう。
ふたりで楽しく、お兄ちゃんの恋路を見守ろうではありませんか!?
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