49話 王子とアフロ②
あぁ、叫びすぎて喉が痛い。
しかも、こういうシンプルに応援するというのが、元アラサーとして恥ずかしい。
それでも、コアラも一緒に叫んでくれたのがけっこう嬉しいな。
そんなわたしたちの声援に、カーライル殿下も喜んでくれたらしい。
「くっそ……王太子妃が……んな大声で叫ぶな……」
いやいや殿下、気が早い。わたし、まだ五歳。
それでも、よれよれと立ち上がった殿下に、アフロンは舌打ちする。
「倒れておけばいいものを……」
そうだよね、まさかアフロンも、本気で王太子殿下を大けがさせるわけにもいかないもんね。
そんなアフロンに向かって、殿下はシャンナちゃんを抱えたまま走り出した。
もしや、シェンナちゃんパンチか!?
コアラじゃあるまいし、なんか無理ある気がするぞ!?
わたしと同様、アフロンも瞠目している。そりゃそうだ。体格で圧倒的に劣る殿下が肉弾戦で挑んでくるなんて、さすがの彼も予想外だろう。
だけど、これなら手加減しやすいと判断したのか、アフロンもファイティングポーズで待ち伏せる……そのときだった。
「小石生成……!」
「にゃおーーーーんっ!」
自身の前で爆誕させた小石……という名の岩を、カーライル殿下が魔力のこもったパンチで打ち砕く。
あれは……わたしの散弾岩!?
至近距離でのあれは痛い!
というか、破片が目に入ったらめっちゃ危ない!
アフロンもさすがは生徒会役員。とっさに障壁を張って、顔面直撃は防いでいる。
しかし……衝撃はそれなりだったらしい。
「は? ……なんだ、今の……」
腰を抜かしたアフロンがガタガタと震えて、立ち上がらない。
そりゃそうだよね。目の前で散弾銃をぶっ放されてビビらない中学生はいない。それでも怪我せず済んだのは、この学園の防御優先な学習指導の賜物だろう。
そこで、立会人の生徒会長が声をあげた。
「勝負あり! 勝者、カーライル=フォン=パルキア!」
大歓声が、運動場に響き渡る。
王太子とはいえ、二年生が四年生という上級生を倒した。その光景はなかなかカッコいいものだ。わたしも心からの拍手を送っていると、ボロボロになったカーライル殿下が、足取りしっかりわたしのもとまで歩いてくる。
「ルルティア、改めて謝罪させてほしい」
「……なにをですか?」
「本当はニコどのではなく、去年、こうしておまえを守ってやるべきだったのに……ごめん。本当にごめんな」
決闘に勝ったのに、殿下が泣きそうな顔でわたしを見つめてくる。
間違いなく、殿下の言っていることは、わたしたちが入学直後、コアラの飼育に困るわたしを罵倒したあげく、嫉妬から浮気と宣われ、婚約破棄をかけて決闘した事件である――思い返すと、なかなかひどい。
それでも、わたしはこの一年を共に過ごして、とっくに許していた。というか、記憶からも薄れていた。だって去年の決闘のあとに、ちゃんと謝ってもらってたしね。
それでも、今の今まで、殿下がその罪悪感を持ってくれていたならば。
わたしが言うべきことは、ひとつだけ。
「殿下、すごくカッコよかったですよ」
「なっ……オレのことが好きだと!?」
誰も、そんなこと言ってないってば。
だけど、今それを口にするほど、空気を読めない精神年齢をしていない。
だから、わたしは殿下の抱えたシェンナちゃんを撫でながら、ニッコリと微笑んであげておくことにした。
別に婚約者だしね。
五歳の好意でこんなに嬉しそうな顔をしてくれるなら、悪い判断ではなかっただろう。
「ぐも~?」
「カーライル、あとでちょっと話いいかな?」
「ルルちゃんはこっちおいで。俺が予習手伝ってあげる」
コアラはなぜか、不満げで。
突如わたしの背後に現れた保護者どもが、怖い笑みを浮かべていたけれど。




