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ちみっこ魔女転生~使い魔がコアラだったので、たのしい家族ができました~  作者: ゆいレギナ
6章 学園リベンジ

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48話 王子とアフロ①

 もしも、殿下が決闘で大怪我をしたら?

 そこまでいかなくても、殿下が決闘で敗北したなら?


 名誉棄損だ。ただでさえ昨年、当時四歳の幼女相手に敗北しているのだ。今度は年上とはいえ、また負けたとしたら……不名誉な功績は、ずっと語り継がれてしまうだろう。殿下には兄弟がいないから王太子の剥奪はないとしても、将来、反乱などが起きやすくなる可能性がある。国王に弱いイメージなどあっていいはずがないのだから。


 さて、困ったぞ。

 わたしはガヤの中から、勇ましく決闘に挑むカーライル殿下を見守っていた。今日も殿下の使い魔である黒猫のシェンナちゃんが肩に載っている。背筋も伸ばして、とってもカッコいい。そんなシェンナちゃんが……また大けがを負ってしまったらどうしよう……。


「やはり、背後からこっそりちゅどーんすべきか……」

「余計なことはしないほうがいいと思うよ?」

「ミハ……先生!?」


 人前で、殿下呼ばわりは避けるべし。

 アラサーの本能がそう叫んだのでとっさに言い換えると、気配なく近づいてきたフード付きミハエル殿下がにっこりと微笑んでいた。


「ルルティアが手を出したら、それこそカーライルのプライドが折れちゃうからね。いい女なら、ここは大人しく見守るべきだ」

「わたし、まだ五歳ですが?」

「五歳の女の子にカッコいいところも見せられない十一歳のカーライルかわいそー」

「それはたしかに」


 ミハエル殿下の妙に女々しい発現には納得しつつも、さらに隣にやってくるのはユーリさん。おー、両隣を固められてしまった。


「余計なことするなよー。ルルちゃんはすぐ大事にしちゃうんだから」


 つまり、パパたちは揃ってわたしが余計なことをしないようにと見張りにきたようである。我ながら信用ない娘だなー。まあ、五歳だからいっか。


「でも、本当にいざとなったらいくからね、コアラ」

「ぐも」


 それでも、最初にケンカを売ったのはわたしなのだ。

 けじめをとる覚悟はいつでもできている。


 運動場の中心に、近づいていくのは立会人の縦ロール生徒会長。

 会長はカーライル殿下とアフロン両人をそれぞれ確認してから、威勢良く声を張り上げた。


「それでは、決闘……はじめっ!」


 前世でたとえるなら、中学生と小学生。

 アフロンはもう成長期も超えたのか、かなりがっしりしている。使い魔はどこだろうと目を凝らしたら……アフロの中にヒョコッと顔を出すスズメがいる。かわいいな?


 遠くから見ると、カーライル殿下の小ささが余計に引き立っていた。

 だけど、殿下の声はいつもより勇ましい。


「いけ、シェンナ! 火炎乱舞っ!」

「にゃおーーーーーんっ!」


 シェンナちゃんの鳴き声に合わせて、アフロンの周囲でいくつもの火炎が踊り始める。

 聞いたところによると、殿下は火の魔法が得意らしい。最初から全力投球の殿下に対して、アフロンは火に囲まれながらニヤリと笑ったように見えた。


「かわいそうになァ……恵みの雨よ!」

「ピィィィィィィィィィ!!」


 アフロンとスズメが叫んだときだった。

 じわじわと、雨が降ってくる。ポタポタとした雫から、ザーッと横なぶりの雨になるまでにかかった時間は十秒足らず。だけど、突然の天候の変化にカーライル殿下も驚いたのか、彼が放った炎が消えるまで、彼はまったく動けずにいた。


 だけど、わたしが雨に濡れることはない。

 天気が変わったのは、運動場のごく一部……まさに決闘している二人の頭上だけだからである。


「お天気を操るとかってあり!?」

「厳密にいえば、小さな雲を低い位置に作って、ごく小範囲にのみ降らせているだけだけどね。それでも……まあ、さすが生徒会役員ではあるかな。学生としては難しい魔法を頑張っていると思うよ」


 ミハエル殿下の言うとおり、アフロンが生み出した雨雲は少し視線をあげたらプカプカしている。こうして離れた場所から見たら、存外可愛いものだ。


 そう――北風のぴゅーっとした一吹きで、吹き飛んでしまいそうなくらいには。


「なら、あの雲をちゅどーんと吹き飛ばしちゃえば……」


 わたしがコアラにお願いしようとした口を、手で塞いでくるのはユーリさんだった。


「だから、邪魔しちゃダメだろ」

「でも……」


 そんな合間にも、アフロンは勝負を決めるらしい。


「恨まないでくださいよ……雷撃ッ!」

「ピィッ!」


 それは、シンプルな雷の魔法だった。

 水は電気を通しやすい。真水ならむしろ電気を通さないが、雨水には色々な不純物が含まれている。それは魔法による雨でも同じらしい。


 アフロンの手から放たれた稲光は、殿下に届くまでに数倍に膨れ上がっていた。

 カーライル殿下はとっさにシェンナちゃんを守るように抱きかかえ、背を向けることを選択したらしい。


「ぐはっ!」


 当然、その雷は殿下の背中に当たる。

 猫の悲痛な悲鳴が響く中、わたしは叫びそうになる口を押さえるだけで精一杯。


 ダメなの……? 

 これ、本当に見ていることしかダメなの?


 そんなわたしの頭を、ミハエル殿下が背中を押してくる。


「ほら、出番だよ」

「ちゅどーん……」

「違うだろ」


 ユーリさんに苦笑されるも……まあ、さすがのわたしも察するよね。

 わたしは覚悟を決めて、フェンスに手をかけながらギリギリまで身を乗り出す。


 そして、苦しそうに膝をつくカーライル殿下に向かって、思いっきり叫んだ。


「がんばれええええ、カーライル殿下ああああああ!!」

「ぐもおおおおおおお!」


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