44話 幼女とお弁当
溺愛とか浮気とか、だから娘に対して言う台詞じゃないと思うんだが?
だけど、目の前のお重はとても美味しそうだ。
花より団子。イケメンよりごはん。
わたしは五歳の欲望に正直になることにする。
「そんなことより、これ食べていいですか?」
「『パパだいすき』って言ってくれたらいいよ?」
「子離れをしてくださいよ」
「五歳なんてまだまだカワイイ盛りでしょ」
どうやら、ごはんはまだお預けらしい。
このままだとお昼休みが終わってしまうので、どうにかこの偏屈一〇〇〇歳パパを丸めこもうと視線を巡らせる。
すると、窓の外に馴染みある楽しげな姿を見つけた。
「かわいい甥っ子はいいんですか?」
校庭の隅っこで、金髪王子カーライル殿下が、ニワトリを抱えたメガネ少女ニコちゃんと岩を眺めていた。そして殿下はニコちゃんを下がらせてから、岩をひっくり返して、ぎゃああああと叫んで逃げている。なんだありゃ?
そんな光景に、ミハエル殿下も気がついていたらしい。
「さっきニワトリの餌には何をあげたらいいのか相談されてさ。虫がいいよ、て教えたから、それを探しているんじゃないかな?」
「なるほど?」
ちゃんとカーライル殿下は頼れる大人に頼った上で、目的を遂行しようとしているらしい。なかなか頑張っているじゃないか。
「ちなみに、このお弁当は誰が作ったんですか?」
「僕だけど?」
「違いますね。ユーリさんですよね」
「……わかっているなら、聞かないでくれる?」
「嘘つきの言うことを聞く義理はないので、いっただっきまーす!」
ユーリさんのお弁当なら、間違いなく美味しい。というか、量からしても殿下一人分とは思えないので、わたしの分も含まれていたのだろう。子どもが好きそうなおかずのほかに、新鮮なユーカリの葉も添えられているしね。でもコアラは爆睡中なので、今日の夜食になりそうだけど。
一応、わたしには殿下の口座引き落としな学食があるのだが……正直、学食よりもちょっと庶民感の残るお弁当のほうが口に合うので、わたしはありがたくウマウマする。
「亡国の王子が料理上手って、女性受けを狙いまくりな設定ですよね」
「不老不死の王弟もなかなかのものだと思うけど」
「リアルで胡散臭い人は、ちょっとなぁ~」
そんな中身のない会話をしながらのランチタイムが、いい気晴らしになったのは内緒だ。
そして、放課後。
わたしはようやくカーライル殿下たちに合流することができた。
ぐもおおおおと寝ているコアラを抱っこしているわたしに、ニコちゃんは興味津々のようだ。「撫でる?」と聞こうとしたとき、先にカーライル殿下が口を開く。
「ルルティア、今日の授業はちゃんとついていけたか?」
「多分大丈夫かとー」
任せろ。実践授業がコアラ次第な分、座学はバッチリだ!
なのでわたしがにっこり答えると、カーライル殿下は真面目な顔で言ってくれる。
「わからないことがあったら、すぐにオレに相談するんだぞ。四年までの学習内容はすべて済ませてあるからな」
「さすが王太子。すごいですね」
わたしが心のままに褒めると、カーライル殿下が少し照れながら鼻の下をこする。それで顔が汚れてしまうところがかわいさ十倍。さらに「ニコルどのも、遠慮なく相談してくれていいからな」なんて気遣いをしてしまうのだから、感心も十倍だ。
「あなた、本当にカーライル殿下ですか?」
「どういうことだ?」
「いやあ……去年、困っている四歳児相手に嫌みと僻みを全力でぶつけてきた少年と、同一人物とは思えなくて……」
言ってから、わたしは「しまった」と気づく。
失言だったな。カーライル殿下が視線を落としてしまった。前世よりも思考が口に出やすいのは事実だけど……そろそろ子どもの身体を言い訳にするのも、大人げないよね。
だけど、わたしが取り繕うよりも早く、カーライル殿下が立ち上がる。
「……ルルティア、今日の成果を聞いてくれるか?」
懸命に口角をあげている殿下の凜々しい顔に、わたしも自然と嬉しい気持ちになる。
ああ、彼はあれから成長したんだな、と。
「もちろんです!」
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