41話 幼女と復学
「コアラぱーんちっ!」
わたしは手近の大岩を幼女のパンチで粉砕した。
学園の一年生の進級課題は、小石を飛ばす魔法と、小石の攻撃を防ぐことの二点である。
わたしが大量に生んだ『小石』は、まるで散弾銃のごとく、試験官を務める学園長に襲い掛かる。当然、学園長はこんな小石の魔法なんて軽々防ぐ。
それは問題ない。むしろ、学園長が一年生の魔法を防げなかったほうが大問題だ。
「……では、今度はこちらからいきますね」
深くため息を吐いてから、学園長が小石をわたしに飛ばしてきた。
もちろん、威力は最小限。石のサイズも子どものこぶし小。当たってもたんこぶができるかできないかの程度の大きさだ。速度も、五歳の目で追える程度。
そんな小石をギリギリまで引き付けて、わたしは叫ぶ。
「またまたコアラぱーんちっ!」
そんな小石を、わたしはパンチで粉砕した。砂となった石の残骸がサラサラッと風に流れる。ふっ、またつまらないものを殴ってしまったぜ。
わたしが術後で熱を持っているこぶしを「ふっ」と冷ましていると、学園長が再度ため息を吐く。
「……ルルティア=フォン=パルキアさん」
「はい、ルルティア=フォン=パルキアです!」
わたしは、ルルティア=フォン=パルキア。最近五歳になりました。
旧姓はルディールという侯爵家生まれながら、訳あって王弟ミハエル=フォン=パルキア王弟殿下の養女となった転生美少女魔法使い見習いです。
この『マジカルティア』という世界では、魔法を使うためには使い魔の協力が必要不可欠。
そんなわたしの使い魔は、今日も「ぐもおおおお」とよく寝ていた。
当たり前だが、使い魔が寝ていては、主の魔法使いは魔法の使用が制限される。
その中で、唯一使える魔法が、武器に魔力を込める術だ。わたしの場合は、こぶしに魔力を込めているというわけだね。
「一年生の課題は、小石を生成して飛ばすこと……ということは理解していますね?」
「やってみせたとおりです!」
五歳幼女のドヤ顔である。かわいくないはずがない!
……屁理屈は百も承知だけどね。
だって案の定、試験の時間にコアラが寝てしまっているんだもの!
魔法世界のコアラであれど、生態はかなり前世の地球のコアラと酷似している。
そのため、一日の睡眠時間は二十時間。餌はユーカリの葉オンリーというかなりのぐーたらわがままボーイ。それがわたしの使い魔のコアラである。ちなみに、コアラという存在はこの世界では唯一無二らしいので、結局そのまま『コアラ』と呼んでいる。
てか、なんだよコアラ。昨日あれだけたくさんお昼寝させたのに、けっきょくこれかい! わかっていたけど! どうせコアラはそうだろうと思っていたけれど!
だけど、『詰んだ……』と絶望するだけのわたしではない。
もうコアラとの生活も二年目なのだ。わたしも学ぶのである。
コアラに頼るより、幼児のかわいさに甘えるほうが勝てる。
今日もわたしの左腕にひっついたコアラは「ぐもおおおおお」と爆睡している。
さりげなく、わたしはコアラを学園長に見せつけた。
どうすりゃいいんだよ、と。
使い魔がこれなんだぞ、五歳児ができるかぎりのことをがんばった結果が、これなんだぞ、と。
ちなみに学園長は、去年の段階のコアラ起床時の魔法も見ている。
大岩を軽々と生み出し、大きな火球を軽々と反射している姿を。
そして、筆記テストでは、ほぼ満点。
さらに、保護者兼兼職員兼王族であるミハエル王弟殿下からの『使える魔法の種類はまだ少ないものの、威力やコントロールは学生レベルを超えている』というお墨付き。
「こんな子を一年生に入れたら、他の生徒が危ないですね……」
そういうわけで、わたしは無事に二年生として復学することが認められた。
ちなみに、カーライル殿下も一年生レベルは十分に履修済みとして、一緒に二年生になることが決まりました。
「せっかく去年は始め以外は平和だったのに……今年は苦労しそうですね……」
学園長の愚痴が聴こえたような気がするが、五歳のわたしにはさっぱり意味がわかりません!
コケコッコーと、隣の部屋からニワトリの声がする。
今日もいい天気だ。一緒に入学した使い魔がニワトリの子も、元気に学校生活を満喫していそうだな。
そんな嬉しい予兆に夢を膨らませつつ、学園生活初日。
ルンルンと身支度し、やっぱり「ぐもおおおおおお」しているコアラを左腕にくっつけて、いざ学び舎へ出発である。
「本当に帰ってきたんだ……」
「あのコアラ、やっぱり寝ている」
「あいかわらず小さいね……」
「王弟殿下の養女なんだよね……」
行き交う同級生らが、わたしたちを見てガヤガヤとしていた。
そりゃそうだよね。ただでさえ五歳の飛び級。
しかも休学から出戻りで、王弟の養女で、左腕に今朝も「ぐもおおおおお」なコアラ付きだ。注目を浴びないはずがない!
だけど、そんなわたしのほうが注目する光景が、寮のすみっこにあった。
ニワトリを抱えた小さな女の子が、同級生の女の子に囲まれているではないか。




