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ちみっこ魔女転生~使い魔がコアラだったので、たのしい家族ができました~  作者: ゆいレギナ
5章 すっごい魔法

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38話 亡国の王子

「どうしたんだ!?」


 わたしが叫んだからだろう。

 ユーリさんが、慌てて部屋に入ってきてくれる。チラリと外を見やれば、廊下で無尽蔵に伸びた枝に絡まる人々がうめき声をあげていた。……苦しそうだけどね。でも大怪我もしてないし、当然死んでいる人もいなさそうだから、コアラより平和的なユカリさんである。


 ともあれ、わたしは炭となった手記を見下ろす。


「コアラが手記を燃やしちゃった……」

「読みたい場所は読めたの?」

「ざっくりと」


 ユーリさんは一息ついてから、わたしの頭を撫でてくれた。


「虐待を受けた理由はわかった?」

「わかった」

「この涙の痕は手記を読んだから? それともコアラが原因?」

「手記です。コアラは今更ですし」


 親指で目の下を拭われる。

 あーあ、また泣いてたのがバレちゃった。


 いいんだけどさ、今のわたしは四歳児だし。子どもは泣くのが仕事だもの。

 そう自分を誤魔化していると、ユーリさんがさっぱりと言い切る。


「なら、ルルちゃんが嫌な思いをするものなんて、この世から燃やしてもいいんじゃない? これを証拠に両親に刑罰を処したいとかあった?」

「うーん……どうなんだろう」


【わたし】はともかく、【ルルティア】としてはどうなんだろう。


 悲しい体験をしていたことを、公にしたいのだろうか。

 両親に罰を下したいのだろうか。


 前者はともかく、後者は証拠がなければ難しい。その証拠は、今、コアラが燃やしちゃったわけで。当時の使用人たちから証言を集めるという手もあるけれど……それは本当にスッキリするのかな。


 そう耽るわたしをよそに、コアラはわたしに抱っこしてと言わんばかりに前に移動して、丸くなろうとしていた。こいつ、そろそろ寝るつもりだな?


「コアラはちょっと反省しようね?」

「ぐも?」

「はあ……わたしもコアラみたく、本能のままに過ごしたいよ」


 わたしがやれやれとため息を吐いたときだった。


「いや、四歳児がなに大人みたいなこと言っているんだ?」


 ユーリさんが苦笑している。


 そうか……わたしは今、四歳なのだ。

 四歳なら、わたしのやりたいようにしていいんだよね。


 わたしの、やりたいことは――。


「なら、ちょっとミハエル殿下にお願いしたいことがあるので、やっぱり王宮に戻っていいですか?」

「構わないけど、俺じゃダメなこと?」

「多分、ミハエル殿下のほうが専門なんじゃないかなーと……」


 そうと決まれば、話は早い。

 わたしはユーリさんと話をしながら、父親の部屋から外に出る。


 だけど……そうだね。大人しく帰してくれるはずがないよね。

 ユーカリの枝葉に拘束されている父親が、わたしの姿を見るやいなや叫んでくる。


「ルルティア、お父さんを許しておくれ! 閉じ込めてしまって申し訳なかった! おまえを愛するがゆえだったんだ。ただ、おまえを彼女の悪意から守りたくて――」


 うん、さすが侯爵。ウソではないけど、本心ではない訴えがお上手なこと。

 もしも、わたしにアラサーの経験がなかったら騙されていたかもしれないね。


 さて、なんて言い返そうか。

 何も言わずコアラパンチでもいいんだけどね。毎度それだと、芸がないと言いますか。


 わたしが悲しい理由で困っているのだと思ったのだろう。ユーリさんがそっとわたしを引き寄せて、父親に向かって剣先を向けていた。


「黙れ。この子を泣かすことしかできない男が、父親を名乗るんじゃない」


 おーこわ。今までで一番の気迫である。

 やっぱりユーリさんに申し訳ないので、ここは一発コアラパンチで解決しようかなと、こぶしを握ったときだった。


「わしたち家族の仲を切り裂くな! 亡国からの生贄のくせに!」

「ぼうこくからのいけにえ……?」


 突如父親から出てきたファンタジーな単語に、ユーリさんは気まずそうに下唇を噛んでいた。

 わたしがきょとんとしていると、父親はわたしがワードの意味を理解していないと思ったのだろう。とても丁寧に説明してくれる。


「こいつは、十五年前に無謀にパルキア王国に攻めてきた小国の王子なんだ。本当は一族郎党全員処刑となるはずだったんだが……まだ物心もつかぬこいつだけ、王弟が可哀想だからと引き取ってしまってな……いつ、我らに恩を仇で返すかわからない男なんだぞ。ほら、ルルティア、怖いだろう? 早く、そんな男から離れてこちらへ来なさいっ!」


 戯言だったら、ユーリさんはすぐに反論するだろう。この人は優しい人なれど、理不尽を見過ごすような弱い人ではない。


 それなのに、ユーリさんは俯いたまま、何も答えない。

 だからわたしは、即座にユーリさんの袖を引いた。


 なぜって? 

 そりゃもちろん、胸のときめきを伝えるためですとも!


「亡国の王子とか、めっちゃカッコいいですね♡」

「ルルちゃん?」


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