32話 幼女と家族会議
二人に対して、わたしは笑みを作る。
「珍しいですね。お二人そろってなんて」
「揉めるからタイミングをずらすようにしていたんだけどね。さすがに、今は俺もこの人も譲りたくなかったから」
苦笑するユーリさんに、ミハエル殿下が口を尖らせた。
「そういや、ユーリも僕のこと『パパ』って呼んでくれたことないよね。遠慮しないでいいんだよ?」
「……さて、ルルちゃん。気持ちは落ち着いたかな?」
ユーリさんの完全どスルーに、ミハエル殿下が不満を喚いているのはさておいて。
ユーリさんは躊躇うことなくベッドのわたしの隣に腰かけると、そのままわたしを膝の上に載せてくる。わたしの膝の上にはコアラがいるから、なんかの三兄弟スタイルだ。
「あの両親、今もルルちゃんとの面会を求めているんだけど……無理やり追い返すことはできないのか? 言いづらいけど、ろくでもないやつらなのは明白だろう」
どうやら、わたしの失態はユーリさんの耳にも入っている様子。
そうだよね、そうでもなきゃ、二人そろってわたしの顔を見に来ることなんてないものね。
当たり前だけど、ユーリさんの膝の上に載せられても、まるで怖くない。
むしろ落ち着くくらいだ。元騎士らしく肉厚な体をしているから、安定感も抜群だし。
コアラも異論がないようで、ユーカリをもちゃもちゃし続けてる。
ミハエル殿下も、そんなわたしたちの隣に座ってくる。
「ま、おそらく、ルルティアがコアラを手懐けている話をどこからか聞いて、手放すのが惜しくなったって算段だろうね。一族から魔女が出たら、数代は安定だから」
「そうなんですか?」
わたしが問いかけると、殿下が「よいしょ」とわたしの脇を持ち上げる。
着地地点は、ミハエル殿下の膝の上。
「名声はもちろん、うちの国、昔から偉業にはかなりの金銭で報いているんだよ。それに、カーライル殿下がルルティアにご執心という話も、こないだの派手な出迎えやパーティーで広まっている。未来の王太子妃の親……その地位を捨てたい貴族なんていないんじゃないかな」
なるほど、わたしはかなりの金ッ゙ルらしい。
そんなわたしをとられて、ムッとしているユーリさん。
ミハエル殿下はどこか得意げだ。
「陛下が僕の娘にしておくよりも、侯爵家の娘にしておいたほうが結婚後にラクだからという理由で、彼らを迎えたらしいね」
ミハエル殿下の膝の上も、悪くない。適度に細くて幼女の足としては跨ぎやすい。
我ながら、二人にはだいぶ懐いたものだなぁと思っていると、殿下がわたしの顎の下を撫でる。
「それに陛下は、やはりルルティアも実の両親を恋しがるのではないか、とお考えのようだ。まあ、普通の四歳なら、そうだよね。普通の子どもならそうだと僕も思うよ」
わたしは猫ではないのだが?
そう抗議する意図も兼ねて、わたしはミハエル殿下を見上げた。
「やたら『普通』を連呼してますね?」
「安心して、普通の子どもは両親をちゅどーんしないから」
くっそ、キラキラ笑顔が引け目のせいで、いつも以上にまぶしい。
こうなりゃ、わたしはもう一人のパパに甘えるしかないじゃないか。
「ユーリパパぁ♡」
「こういうときだけ甘えてくるんじゃない」
全然痛くないデコピンをしてくるけど、一瞬嬉しそうにしたのを、わたしは見逃していないぞ。それでもすぐに気を取り直す真面目さが、ユーリさんの良いところだ。
「ルルちゃんの好きにしていいんだぞ。俺らのそばが良ければ、大きくなるまでいくらでも面倒みてやるし、実家に帰りたいなら、もちろんそうしていい。俺らに気兼ねする必要はないからな」
その二択を迫られて……わたしはゆっくりと深呼吸をした。
コアラをぎゅっと抱きしめて、腹を括る。
「……わかりました。じゃあ、実家に帰ります」
「ルルちゃん……」
「ルルティア……」
寂しそうなミハエル殿下と、心配そうなユーリさん。
だけど、わたしの決意は固いのだ。
「それで堂々と、過去の遺恨をちゅどーんしてきます!」
おいこら、パパたちよ。揃って頭を抱えるんじゃない。
なんやかんやそっくりな二人に苦笑してから、わたしはコアラを向き合う形で抱き直す。
「悪いけど、付き合ってくれるかな、コアラ」
「…………ぐも」
食事に夢中だったコアラが、一瞬だけわたしを見上げて返事をくれる。
ずっとウジウジしていても、仕方ないしね。
憶測だけするなんて、四歳児には難しいのだ。
ぜーんぶスッキリしてから、今後の身の振りを考えましょう!





