31話 幼女が転生したとき
わたしが転生したときは、魔力の発現と同時だ。
周囲にいた人たちが『まさか、この年で魔力が発現するとは……!』と驚いていたところから、わたしの二度目の人生がスタートしたのだ。
いきなりのことで、わたしもそのときは気が動転していた。だって疲れ果てて眠るように目を閉じたと思ったら、見知らぬ西洋風な場所にいたわけだし。手足は小さいし、自分の声も違ってたし。混乱しながら状況把握に務めるだけで精一杯だったのだ。
しかも、魔力の発現と同時に、食事を持ってきてくれたメイドさんにけっこうな大怪我をさせてしまったらしい。腕から赤い血がダラダラ滴る姿を見て、わたしが『ごめんなさい』と近づこうとすると、魔力の操作が今よりできないから、余計に怪我する人たちを増やしちゃって。
最終的に、魔法使いの偉い人が来てくれて、魔力の抑え方を教えてくれて、なんとかその場は収まったんだよね。その偉い人が誰だったのか、わたしはよく覚えていないけれど。
それでも、わたしが多くの人を怪我させてしまったのは事実だ。
何度も何度も謝ろうとするわたしを、お父さんが『いいんだよ』と言ってくれた。魔力の発現時にトラブルが起こることはよくあることだそうで、発現時が幼ければ幼いほど、大きな問題になる傾向が高いという。
だから、無傷だったお父さんは『代わりに、将来有望な魔法使いに……魔女になってくれ』なんて嬉しそうにしていたけれど……そのとき、お母さんはなんて言っていたっけ?
ずっと離れた場所で見ていたのは、お父さんと同じ。
だけど、騒動が落ち着いてからもわたしに近づくことなく、ずっと口元をハンカチで押さえていたあの人は、去り際なんて言っていたっけ?
『やっぱり、バケモノだったのね』
そして今、わたしはお部屋でひとりコアラを抱きしめる。
「コアラ~、あんま思い出したくないことを思い出したよ~」
「ぐも~」
「実の娘に『バケモノ』呼ばわりする親なんて、絶対ろくでもないじゃん~」
「ぐも~」
「どうでもいいでしょ、コアラ?」
「ぐも~」
「ユーカリ食べる?」
「ぐも~!」
わたしが保存袋からユーカリの葉を取り出すと、嬉しそうにもちゃもちゃ食べ始めるコアラが今日もかわいいなー! ……はあ。
窓からもう夕陽が差し込んでいる。
あれから、わたしはいつの間にか寝落ちしていた。
泣いたら、寝る。なんとも幼児クオリティー。
だけど、おかげで目が覚めたら、心も体も落ち着いていた。
「さぁて、これからどうするかねぇ……」
別に、書類上は縁が切れている親なのだ。
このままミハエル殿下やカーライル殿下、それこそ王妃様などに泣きついて、追い返してもらえば済む話。向こうがどんなにわたしに接触しようとしても、わたしの身の振り方ひとつで、いかようにも逃げることは可能だろう。今も、これからも。
「でも、本当にそれでいいのかな……」
前世のわたしに、親はいなかった。
いたにはいたけど、向き合おうとしても、向こうはわたしを見てくれなかった。
ひもじい思いをしなかっただけ、マシだったのかもしれない。
あのときのわたしに今みたいな伝手や養父がいたら、間違いなく『逃げろ』と言っている。
でも、それは親がクズな理由と経緯が明白だったから。
母親が不倫をして出ていった。
それに嘆き苦しんだ父親が耐え切れず、自分も他に女を作って逃げたから。
クズたちの理由がわかりやすかったから、わたしも諦めることができたし、身の振り方を弁えることができたのだ。理由がわからなければ、子どもだって対処ができない。なにより気持ちの整理がつかない。
もちゃもちゃ幸せそうに餌を食べるコアラを撫でていると、静かにノックされる。
小さく返事をすると、なんとわたしの今の家族が揃っているではないか。
ミハエル殿下とユーリさんである。




