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ちみっこ魔女転生~使い魔がコアラだったので、たのしい家族ができました~  作者: ゆいレギナ
4章 王宮の亡霊

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閑話 カーライル殿下の事情④・後

 今も岩石がぷかぷかと浮かんでいる。

 ルルティアが心底信じられないといった顔でコアラと見つめ合っていた。


「まじで、コアラ? 案外いいやつだとは思っていたけど……そんなダメージ食らってまで、今まで勝手にちゅどーんしてたの? だからよく寝ているとか?」

「ぐも?」


 しかし、肝心のコアラは何のことかわからんとばかりに首を傾げる。


 つぶらな瞳。不釣り合いな大きな鼻と耳。

 何度見ても緩くて、不細工な生物と、かわいくて小さいルルティアが真面目な顔で向かい合っている。無償にかわいい。もちろんルルティアが。


 そんなルルティアが、真顔のまま叔父上に向き直る。


「なんかコアラは違う気がします」

「そうだね。僕も長いこと使い魔の研究はしてきたけど、コアラくんは例外な気がするよ」


 ミハエル叔父上がそう言うなら、オレも同意だ。

 コアラは本当に規格外の使い魔なのだろう。


 というか、ルルティアがコアラというからコアラと皆が呼んでいるが、コアラの種族名はなんなのだろうか。オレも王城の司書官に聞いてみたり、自分でも調べてみたりしたが、コアラに似た動物を知る者はいなかった。魔道官いわく、ドラゴンのような精霊の一種だろうという見解だ。


 ルルティアは、使い魔が召喚される前から天才魔女と見込まれていた少女だ。

 きっと、コツさえ掴めば、初級魔法などあっという間に使いこなしてしまうのだろう。


「とりあえず、もう一回やってみようか」

「もう一回……」


 浮いていた岩石が、どすんとルルティアの前に落ちる。

 そしてルルティアはコアラを抱き直して、何度もお願いしていた。


「コアラ……ちょっとだけだよ。小さくていいんだからね」

「ぐもも」


 うん、ふたりのやり取りがかわいい。

 だけど、ルルティアたちは真剣だ。

 オレは彼女の婚約者として、この挑戦を真面目に見届ける義務がある!


 再び目を閉じたルルティアに、オレとシェンナは固唾を呑む。

 彼女のかわいくも凜々しい声が、裏庭に響き渡った。


「小石よっ!」


 ルルティアの目の前に、今度は叔父上より大きな岩が爆誕した。

 さっきよりも大きい岩である。

 そこからのルルティアの行動は早かった。


「コアラぱーんち!」


 ルルティアの拳が、大岩を一瞬で粉砕する。

 まるで、目の前に大岩なんか生まれなかったといわんばかりに。


 粉々になった岩の欠片を拾ったルルティアの笑顔は百点満点だった。


「小石ができたよ♡」

「ルルティア?」


 しかし、ミハエル叔父上の笑みが怖い。

 怒っていることにルルティアも気がついたのだろう。即座に弁明を始める彼女は、やはり聡明だ。


「わたしじゃない! というか、魔力の調節ってなに!? ちゃんとカーライル殿下の魔法を真似しているつもりだが!?」


 オレの魔法が、ルルティアの手本になっているだと……?

 思わず、鼻の下をこすってしまう。


 こらシェンナ、ニヤニヤとオレを見てくるな。

 これからももっと鍛錬を詰んで、すごい魔法を使えるようになってやろうな!


「今度こそ……大丈夫だよね、コアラ?」

「ぐも!」


 ルルティアが再びコアラと向かい合う。

 コアラを抱く手がわなわなと震えていた。対して、コアラは自信満々である。


「いくよ、コアラ!」

「ぐもおおおおお!」


 そして、山かと思うほど大きな岩が爆誕した。

 ルルティアのパンチが即座に粉砕する。


 咳き込みたくなるほど大きな砂煙が舞った。


「……コアラ、言うこと聞いて?」

「ぐも?」


 ルルティアが泣きそうだ。

 対するコアラには、なんも響いてなさそうだが。


 ここは……婚約者であるオレの出番ではなかろうか!?


「おい、コアラ! ご主人様の言うことを聞け!」


 オレはコアラを殴ろうとする。あくまでもフリだ。ちょっと驚かすだけ。


「ぐも」


 だけど、次の瞬間、コアラのつぶらな瞳が光ったように見えた。


「えっ?」


 ちゅどーん。

 あれ、空がやたら近いぞ?


「コアラあああああああああ!?」


 あぁ、ルルティアのかわいい声がする。

 今日も青い空がきれいだ。そりゃそうだ。王宮の屋根よりも高く飛ばされてしまったのだから。

 鳥がオレを見てびっくりしている。そうだよな、空を飛ぶのは鳥かドラゴンくらいだ。


 もしも人間が空を飛べたら、どんな気持ちなのだろう……。

 ふとそんな考えが頭をよぎるけれど、オレは苦笑する。


 人間が空を飛べないなんて、当たり前だろ。

 だって今も、どんなに手を伸ばしても掴めない雲が、だんだんとオレから離れていくのだから。


 どすんっと落ちると、当たり前だが尻と背中が痛い。

 目を開けてみると、叔父上が感心した様子であごを撫でていた。


「大丈夫そうだね。いつも思うけど、コアラくんの絶妙な手加減は、本当秀逸だよね」


 たしかに身体は痛いけど……なぜかそれ以上の怪我はないのが不思議な話だ。


 本当、コアラは何者なんだ? 

 魔法の訓練に飽きたのか、ルルティアの左腕にくっついていびきを搔き始めたけれど。


「コアラ……自由すぎるよ、コアラ……」


 あぁ、ルルティアが泣いている。


 それでも未だ現実味がなく横たわったままのオレの頬を、シェンナがやさしく舐めてくれる。


 なんだか、オレも泣きたい気持ちになった。

 ルルティアには悪いけど……オレ、おまえが使い魔で本当によかったよ……。


次話からちゃんと5章開始です。小説1巻が5章でおわるイメージで設計しています。

なので、その前に1日だけお休みください。

今まで書いた部分の見直しと微修正いれておきたいと思います。

(なお、物語自体はまだまだ続きます。あくまで一区切り、というイメージです)


最新話までお読みいただきまして、誠にありがとうございます!

ご感想やリアクション等に、いつもやる気をもらっています。

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