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ちみっこ魔女転生~使い魔がコアラだったので、たのしい家族ができました~  作者: ゆいレギナ
4章 王宮の亡霊

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27話 幼女と亡霊

「おい、ルルティア、どうした!?」


 この世界は中世ヨーロッパ風。ランタンの中身は蝋燭である。

 落ちて燃え広がったら大変だね。カーライル殿下がわたしを心配しながらも、足でガシガシと火を消してくれていた。ありがとう。それだけでもついてきてくれた甲斐があったよ。


 だけど、ちょっと困惑しすぎてまともにお礼を言う余裕がない。


 ミハエル殿下の生誕が、千年前?

 もしかしたら昔の偉人から名前をもらうなんて、王族ならありそうな話だよね。ルイ何世とか、そういうノリでさ。


 もう一度、わたしは銅像を確認しようとする。でも、暗くて何も見えない。

 こういうときの使い魔だよね。


「コアラ、明るくすることはできる?」

「ぐも」


 すると、コアラの鼻がピカーッと光る。

 目からじゃないんだ。たしかに鼻のほうが大きいもんね。

 ……ま、いっか。それどころじゃない。おかげで明るさは十分だ。


 その明かりで確認すると、やっぱり銅像に書かれた名前は、わたしの知るミハエル王弟殿下のもので、生誕は今から千年前。没年は書かれていない。


 つまり、もしも本当のミハエル殿下の銅像だったら、彼は千歳以上ということだ。


「まさか……まさかね」


 背筋に寒気を感じる。

 いくらファンタジーの世界でも、そんなことってないよね?

 少なくとも、わたしがこの世界で生活してきた二年間では聞いたことがない。


 そのとき、窓から大きな風が吹く。

 窓なんて、開いてたっけ?


 コアラの鼻を窓に向けようとしたときだった。


「夜更かししている悪い子は誰だぁ~」


 低い声音。おどろおどろしい喋り方をしているようだけど、ナマハゲよりは怖くない。

 白く揺れるカーテンがいびつに歪み、迫ってくる。


「王宮の……亡霊……?」


 そんな最中、わたしは手を引かれる。


「ルルティア、逃げるぞ!」

「……大丈夫です」

「ルルティア!?」


 カーライル殿下の善意を、わたしは振りほどく。

 大丈夫だ、わたしは左腕にコアラを装着する。


 コアラも理解したのだろう。わたしの右手にあたたかい魔力がこもった。


「コアラぱーんちっ!」

「うぐっ!!」


 ドスンと壁に何かがあった衝撃音とともに、膨らんでいたカーテンが萎んでいく。

 手の残る生々しい感触に、わたしは小さくごちる。


「またつまらないものを殴っちゃったね、コアラ」

「ぐも」


 わたしはコアラと共に、振り返った。


 当然、コアラの鼻ピカーッも消す。

 これで、わたしの背後でうずくまる亡霊の姿は、カーライル殿下から見えないだろうから。


「さて、王妃様に報告に行きましょうか!」


 わたしは笑顔で、目をぱちくりさせているカーライル殿下に告げる。


 亡霊はコアラぱんちで撃退した。

 これにて、王宮の亡霊事件は解決である。




 ……なんてね、こんな八百長で騙せるのは、十歳児くらいまでだよね。


 王妃様に報告すると、ケラケラ笑って「ご苦労様」と労わってくれた。これでコアラのことはご破算にしてくれるらしい。そして、カーライル殿下は、今日はお母さんと一緒に寝るとのこと。わたしも添い寝を誘われたが、ベッドが狭くなるのでと、ご遠慮させていただいた。




 それは、わたしが寝室に戻って、すぐのことだった。

 静かなノックに「はい」と応えると、ひとりの男が入ってくる。


 ミハエル=フォン=パルキア。わたしの養父、その人である。

 その人は、今日もニコニコと笑っていた。


「僕に、なにか聞きたいことがあるでしょ?」

「はい……お怪我は大丈夫ですか?」

「あれね~、コアラパンチは人に向けちゃダメだからね。僕が不老不死じゃなかったら、普通に内蔵のひとつやふたつ潰れていたからね」


 ……もうちょっと、誤魔化そうとしてくれませんかね。


 わたしは身を固くしながら、再び寝ているコアラを撫でた。

 丸くなったコアラは今日もわたしの左腕に抱き付いて気持ちよさそうに寝息を立てている。


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