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ちみっこ魔女転生~使い魔がコアラだったので、たのしい家族ができました~  作者: ゆいレギナ
4章 王宮の亡霊

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26話 幼女と肝試し


 王宮の亡霊。

 それは何年も前から王宮内を、いないはずの王族が徘徊しているという噂から生まれた言葉らしい。

 その王族は不遇の死を遂げた何世代か前の国王とも言われるし、生まれた直後に亡くなってしまった昔の王太子とも言われている。


 ようは王宮内におばけが出るので、その正体を解き明かしてほしいという依頼である。

 ……前の燃える森の調査より、よほど四歳児向けだね。


 どうせ、夜に空いている窓の風でカーテンが揺れたとか、夜中に見た絵画が動いているように見てたとか、その手の話が大仰に広まっただけだろう。


 前世と違い、今はファンタジーな世界だから本当に幽霊とゴーストなるものがいるのかもしれないけれど……王妃様のニコニコ顔からして、危ないことはなさそうだ。


 そう、たとえ王宮の人々が寝静まった深夜でもね。

 ランタンはお借りしたし、そもそもメンタルアラサー。

 ビルの消灯時間が過ぎたあとに徹夜で仕事したことなんて何度もあるぞ!


 だから、仮眠もとったし、夜の王宮探検なんてどうってことないんだけど……。


「ルル、ルルティアは、オレが守るからな!」

「ぐもおおおおおおおおお」


 というわけで、なぜかついてきたカーライル殿下。

 使い魔のシェンナちゃんは病み上がりということで、夜はしっかり睡眠をとらせているという。


 本当はユーリさんがついてきたがっていたのだが「大人はダメよ?」と王妃様から笑顔で止められていた。たしかに、ユーリさんがいては肝試しにはならないもんね。


 その点、カーライル殿下はある意味お供に最適だ。

 わたしの前に立ちながらも、足がブルブル。

 声も震えていて、わたしの手を握る手がとても汗ばんでいる。


 がんばれ、十歳の男の子。

 付き添いを言い出したのは、きみだ。


「王妃様は、わたしの付き添いになんともおっしゃられていないのですか?」

「むしろ、オレが言いださなければ、婚約を破棄させるところだったと言われた。そんな甲斐性なしにルルティアは任せられないとのことだ」

「ぐもおおおおおおおおおおおおお」


 王妃様、それはわたしの親が言うセリフであって、殿下の親が言うのはおかしいと思うのですが……。


 しかし「かいしょーってなんだかわからんが」と殿下が小首を傾げているあたり、さすが十歳。わたしも「なんでしょう?」「ぐもおおおおおお」と一緒に首を傾げつつ、ゆっくり進むのは王宮の廊下だ。


 二人でゆっくりとテクテク。今日は少し風が強いらしく、窓がガタガタ揺れるたびに殿下が足を止めているのがおもしろい。こんな長い廊下、見張りの兵士さんがいてもおかしくないと思うんだけどね、あえて、身を隠すように指示がされているのだろうか。


 こうも堂々と子どもの声量を抑えない会話+コアラのいびき付きで進んでいるのだ。兵士さんもきっとかくれんぼしやすかろう。


「殿下は今まで、亡霊に会ったことはあるんですか?」

「ない! 亡霊の噂は昔から聞いていたが……今まで危害があったという話は聞かなかったから、母上がオレを脅すためのウソかと思っていた」

「早く寝ないと亡霊が出るぞ~、みたいなやつですか」

「よくわかったな」

「ぐもおおおおおおおおお」


 これまた、よく母親が子どもを教育するために使う方便のようだ。

 つまり、ますますただの肝試しである可能性が上がったな。


 王妃様の話では、亡霊は王宮の渡り廊下の先の離れによく出現するらしい。

 離れはあまり使うことがなく、物置になっている部屋が多数。たまに客人が多いときには部屋を掃除する、といった具合らしい。


「離れは殿下もあまり利用されないんですよね?」

「基本的にはな。でも叔父上の部屋もあるから、叔父上がお戻りのときはよく遊びに行っているぞ。叔父上が集めた希少な魔導書や伝統工芸品がたくさんあるんだ!」

「じゃあ、亡霊の正体がミハエル殿下ってオチもありそうですね」

「ンなわけなかろう!」


 カーライル殿下は即座に否定してくるが、けっこうありそうな話だと思う。


 だって似合うもん、キャラ的に。

 どうせ今から、白いシーツでも被って驚かしてきそうだもん。

 喜んでやりそうだもん、あの人なら。偏見は認めるけれど。


「ぐもおおおおおおおおおおおお」

「ほら、コアラもこう言っています」

「爆睡しているだけだと思うが?」


 ともあれ、離れに到着したわたしたち。

 お誂え向きに、とある部屋の扉が少しだけ開き、風でキーキーと揺れている。


「も、もしや……あの部屋に亡霊が……」

「覗いてみますか」


 カーライル殿下により力強く手を握られ、四歳の柔肌には少し痛い。

 それでも黙って部屋に入ったときだった。


 ガタンッ!


「ぎゃああああああああああああ」


 おおう、カーライル殿下の悲鳴で耳が痛い……。

 しかも、わたしに抱き付いてくるではないか。かわいいなー、おい。


「大丈夫ですよー、殿下。なんか像みたいなのが倒れただけのようですよ」

「む、無理をするなルルティア! オ、オレが必ず守ってやるからな!」


 大丈夫です。いざとなったら、今の殿下の悲鳴で「ぐも」と目覚めたコアラがちゅどーんしてくれると思います。王宮ごと。それこそわたしの首は飛ぶかもしれませんが。


 ともあれ、わたしは殿下にちょっと離れてもらって、倒れたものを直そうとする。

 背後の「あ、あぶないぞ!」というカーライル殿下はさておいて、これで高価なものを壊して、わたしたちのせいにされたら大変だからね。


 倒れたのはそれなりの大きさの銅像のようだ。これは四歳のわたしが起こすのは大変だな。

 等身大ではないものの、四分の一スケールくらいの男性の彫像である。


 服装からして、昔の王様だろうか。


 ……と、ここまでは余裕だった。

 問題はこのあとだ。


 土台に書かれたプレートを見て、わたしは「ひえっ」とランタンを落とす。


 そこに書かれていた名前は『ミハエル=フォン=パルキア』。

 いっしょに書かれた年は、今から千年前の年号だった。





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