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ちみっこ魔女転生~使い魔がコアラだったので、たのしい家族ができました~  作者: ゆいレギナ
4章 王宮の亡霊

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24話 幼女と再会

「ご、ご無沙汰しております、ミハエル王弟殿下……」

「たったの数時間ぶりでしょ?」

「へ?」


 理解できないわけではない。理解したくないのだ。

 それなのに、相変わらず金髪キンキラ、さらにおめかしして眩しくなった王弟殿下が自身を指さす。


「僕、御者。一緒に旅してたでしょ?」


 あーあ、合点がいってしまった。


 ミハエル殿下ね、一応、わたしの養父ということになっているわけで。

 そのくせ、いきなり森林火災が頻発する森の発火調査に行けと命じてきたり、生きているだけでユーカリの木を爆誕させる男を連れて来いと命じてきたという、問題ありまくり養父である。そもそも、わたしが実家から捨てられた遠因もこいつだ。


 そんな養父に向かって、わたしは叫ぶ。


「王弟が御者してんじゃねーよ!」

「あはは、四歳じゃなかったら王弟相手に許されない言葉遣いだねー」


 今日もミハエル殿下は楽しそうだ。

 そんな殿下は、わたしにずいっと顔を近づける。


「パパ、ショックだなー。ルルティアはパパよりほかの男がいいんだね?」

「誰がパパですか……」


 抱っこされている分、普段より距離が近いせいか顔が近い。

 至近距離のイケメンに目を逸らす。好みは時代劇俳優といえど、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。


「僕がれっきとしたパパでしょー。そこの自称パパ面している息子じゃなくてね」


 ……ん、今こいつ、なんて言った?


 わたしの脳が再び処理に時間をかけている最中、わたしを抱っこしているユーリさんが不満を隠さず口にした。


「まともにご自身で面倒みれないのですから、おじいちゃんで納得したらいかがですか?」

「僕、ちゃんと面倒みれるもーん。ね、ルルティア? 学園では僕が髪の毛乾かしてあげてたよね?」


 仮にも相手は王弟殿下である。なのに敬語とはいえ、ユーリさんの言葉には妙な軽さが。

 ……ユーリさん、わたしが見るからに常識はある人のはず。


 なのに……え? 息子……?

 二人の年の差はいくつだっけ!?


「四歳の頭じゃ難しいのですが……」

「きみの知能で難しいのなら、全世界の人が難しいと思うだろうから気にせず聞いてくれて構わないよ」


 うわーん、今はそんな賛辞嬉しくないよー。純粋な四歳でいさせてよー。


 だけどここは王宮のパーティーのど真ん中。しかも抱っこ中。

 逃げる場所などどこにもないと、覚悟して二人をキョロキョロ見比べる。


「ユーリさんが息子って、なんの冗談ですか?」

「言葉のとおりさ。ユーリも僕の養子なんだよ。だから、ルルティアのお兄さんってことになるね」


 ここまで笑みを一度も絶やさないミハエル殿下に対し、ユーリさんは「俺がついさっきまでルルちゃんが養子なんて知らなかったけどね」と嘆息する。


 なるほど……つまり、情報がこじれていたのも、やっぱり全部ミハエル殿下のせいだったわけで……。

 そろそろ、わたしも文句いってもいいよね?


「節操ナシはおまえじゃねーかっ!」

「子どもを二人養子にしているだけで節操ナシか~。歩くたびにパパを増やす娘に言われたくないなー」


 わたしは頭を抱える。知らないやい。勝手にまわりが「パパになりたい」って言ってくるんだい。あれか、やっぱり幼女×コアラのコラボはこの世に生まれてはいけない代物だったのか……。


 そんなコアラはすでに飽きたのか「ぐもおおおおお」と寝始めている。こんないびきは貴族の皆様には衝撃らしく、ぎょぎょっと目を丸くされている。


 この程度で驚いていては、数時間でユーカリの木を爆誕させると男についていけないぞ……とユーリさんを見て、ふと閃いてしまった。


 そういや前世では、とある事情で養子縁組制度を利用するカップルもいたな。

 私はミハエル殿下にこっそり訊いてみる。


「お二人は……実は恋仲だったり?」

「やめてくれる? そういう趣向の人を否定するわけないけど、ただユーリもなかなか可哀想な境遇だったから、僕の養子ってことにして匿っただけだからね?」


 ユーリさんを見やれば、どうやら本当らしくコクコクと頷いている。

 あー、頭が痛い。ボーイズラブ展開のほうがラクだった。好んで読むほどではないけど、読めないタイプでもなかったもの。


 というかユーリさん、いつまでわたしを抱っこしているんだ?


「ユーリさんが御者さんの正体に気が付いたのも、ついさっき?」

「そうだね……なんで正体隠しのローブを着てたんですか。あれ、国宝ですよね?」

「父として、息子の成長と新しい娘の性格を見極めようと思ってねー。それなのにさー、兄妹ではなく、なぜか親子し始めるしさー。これはどっちが悪いんだろう? ユーリ? ルルティア? 僕はどっちを叱ればいいの?」

「ご自身をを叱ればいいと思いますよ」


 そんな家族団らん(?)をしていたときだった。


「ふふっ、ずっと楽しそうに三人でお話して……わたくしにも今日の主役に挨拶させてもらいたいわ」


 わたしはこの豪華絢爛な女性を見たことがある。

 王妃殿下だ。カーライル殿下のお母さんだね。


 王家っぽく彼女もたおやかな金髪を上品にまとめており、ドレスの色は落ち着いているものの、装飾がひとめで高級品そのもの。そんな恰好を嫌みなく着こなしている女性は、婚約者のお母さんということもあって、わたしも面識があるのだ。


 大物が出てくると、ようやくわたしを下ろしてくれるユーリさん。そしてユーリさんやミハエル王弟殿下に倣って、わたしも挨拶のお辞儀をしようとしたときだった。


 妃殿下に、わたしがやさしく抱擁される。

 香水のいい香りと、女性特有の柔らかさに、わたしは思わず目を見開いた。


「話は聞いているわ。苦労したわね……」


 あぁ、わたしを労わってくれているんだ。

 嬉しいな……そうだよね。わたし、四歳の身体でこの数か月すっごく頑張ったもんね。

 思わず、四歳の涙腺が緩ませると、妃殿下が優しい声音で告げる。


「もうコアラくんと一緒にわたくしの娘になりなさい」

「待って??」

「ぐも」


 まばたきする暇もなかった。

 その瞬間、コアラの爪が妃殿下のドレスを引っ掻く。


 ……お怪我はなさそうだね。でも、ドレスのお胸の部分が裂けてしまったね。お胸のぽろりは免れたものの、高そうなビーズたちがポロポロと床の上に転がる。


 妃殿下が控えめな悲鳴を上げる中、わたしは思いっきり息を吸った。


「寝てたんじゃねーのかよコアラあああああああ!」





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