23話 幼女とおめかし
「あらあら、噂通りのかわいい子」
「一度、こうしてお風呂に入れてあげるのが夢だったの~」
「見て、このコアラくん。濡らしたらシナシナになってる」
わたしたちは王宮のメイドさんに大人気だった。
わたしも誰かにお風呂いれてもらうのなんて久々である。極楽だ……まぁ、メンタル大人なんだから、それが普通なんだけどさ。それでも長旅の疲れでエステ気分は最高である。
コアラは……すっごく困った顔をしているけどね。
濡れるとゆるい顔がとても情けない姿になるんだけど、それを他人に見られるのが恥ずかしいらしい。いつもより固くなっている姿がかわいいね。
「ぐもぅ」
「はいはい、終わったら今度こそユーカリ食べようね」
「ぐも」
そんな優雅なアワアワタイムのあとには、ピカピカ美幼女ルルティアができあがりました。ドレスも借りて、まさに絵本の中のお姫さま。
だけど個人的には、モッフモフのコアラのほうがポイント高いけどね。あ~モッフモフ。わたしも学園では一生懸命に洗っていたけど、やはりプロの手は違う。蝶ネクタイも着けられちゃって、コアラはいつもよりも不愛想だけどね。
そんな状態でのお茶会はたのしい。生クリームたくさんのふわふわケーキやミルクたっぷりのお茶も久々である。野宿は少なかったとはいえ、やはり旅は幼女の身体にきついものがあったのだ。このままおいしいご飯を食べて、フカフカのベッドで眠たいなー。なんか仕事があった気がするけど、今のわたしは四歳だもん。後回しでいいよねー。
お世話してくれるメイドさんらの「きゃわいい~♡」という黄色い視線をスルーしつつ、わたしとコアラがそれぞれ目の前のケーキやユーカリの葉を堪能していたときだった。
「ほら、ルルちゃん。また口のまわりが汚れているよ」
登場そうそうパパ発現してきた人物に、わたしは思わずフォークを落とす。
えらいイケメンが登場したな。
こげ茶の髪も整えられて、さらに育ちの良さが際立っていた。正装も姿勢の良さから上手に着こなし、まさにどこかの御曹司。
……ま、懐から取り出した白いハンカチで、まっさきにわたしの口を拭いてくるのは、まさしくユーリさんなんだけどね。
わたしは拭き拭きされながらも口を動かす。
「ユーリたん、かっこいいでしゅ!」
「それはどうもありがとう。ルルちゃんもすごくかわいいよ。お姫様みたいだ」
「ありがとうございます」
拭き拭きが終わって、今一度ユーリさんの全身を確認する。
お姫様と言われたのなら、王子様と返したいところ。
だけど、どうにもその言葉が出てこなかったのは……あれかな。ずっと肌が汚れていただけで気にしてなかったけど、元から肌の色がわたしたちと少し違うらしい。褐色とまでは言わないけれど……まさに懐かしい黄色人種といったところか。
「ユーリさんの肌の色……」
「……うん、ルルちゃんとは違うね。変かな?」
「いえ、むしろ落ち着きます」
なんたって心は今もジャパニーズ。元からハリウッド俳優よりも、時代劇俳優に密かに憧れていたくらいである。よく友達から渋いと言われてたっけ……。
そんな昔を懐かしみながらも、これからは前世無縁だったパーティーである。
カーライル殿下が、わたしを歓迎するために用意してくれたんだって。
今度はどんなドッキリが起こるんだろう……。モブ貴族たちが一斉に踊り出したりするのだろうか。
「よっと」
そして、当たり前のようにユーリさんに抱っこされるわたしとコアラ。
「……え、なんで抱っこ?」
「だってエスコートするにも、身長差がありすぎるし」
「手を繋げばいいのでは!?」
わたしの身長は、ユーリさんの腰に届くか届かないか程度である。そりゃあ、よくある男女が腕を借りて……みたいなポーズはできないだろう。
だけど、抱っこ!?
人前で、お貴族様のパーティーで抱っこ!?
「子どものお披露目ではよくあることだよ?」
そんなさも当然のように言われても、あなたは自称のパパでしょうが!?
なんてジタバタしても、元騎士さんの束縛から逃げられるはずもなく。
パーティー会場の扉が開かれると、思っていたよりは素朴な拍手に迎えられる。とはいっても、三十人くらいのお貴族様がいるけどね?
ど真ん中にウエディングのようなビックサイズなケーキが聳え立っていた。なるほど、十歳児が四歳児を歓迎するに微笑ましいサービスである。
その横でどや顔のカーライル殿下が待ち構える一方、わたしは周囲をキョロキョロ。
「御者さんはいないんですね」
ここまで一緒に旅してきたのだ。最後はうっとうしかったが、パーティーで美味しい物を食べてもらいたかったし、なんやかんやお礼もお別れも告げていない。
でも、あくまで御者さんが貴族のパーティーに参加するのもおかしな話だよなぁ……。
「いるよ?」
その声に、わたしは振り返る。
とってもにこやかなミハエル王弟殿下が、そこにはいた。





