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ちみっこ魔女転生~使い魔がコアラだったので、たのしい家族ができました~  作者: ゆいレギナ
4章 王宮の亡霊

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22話 幼女と立ち話

 ベンジャミンさんが熱弁する。


「我がサーガレス家はそこまで大きくはありませんが、豊かな領土を所持しております。普段は王宮に用意してもらっている館でお過ごしいただくかと思いますが、行楽の季節には領地に戻って多くの自然をご堪能いただくことが可能です。そして私の稼ぎですが、余るほどの給金をもらっております。元の侯爵家の生活と遜色ない生活をご提供できるかと。当然使用人もおりますので、ルルティア嬢に不便をかけることはございません。溺愛体勢は万全でございます。もちろん私も不肖ながら子爵の爵位はいただいておりますので、各地のパーティーに参加することもできますよ」


 コアラも呆れる事態に、後ろからわたしの服を引っ張ってくる男が二人。

 紹介のタイミングを逃していたユーリさんと御者さんである。


「ルルちゃん……まさか、俺を捨てるなんてことないよな?」

「またよその男をたぶらかすなんて……これ以上僕を怒らせないほうがいいよ?」


 なんだよ、このカオスな状況は。

 もうツッコむこと放棄していいですか?

 わたし、コアラだけで手いっぱいなんです。四歳なんです、勘弁してください!


「ぐもぅ……」


 コアラもわたしが悪いように睨んでこないでくれる?


 とりあえず、わたしは冷静に現状把握に努めることにする。


「あの……どうしていきなりそんなことを言いだしたので?」

「だって、かわいいじゃないですか」


 あまりにシンプルな返答に、わたしは「はい?」と疑問符を返すことしかできない。


「なんですか! ただでさえやたら美少女だなと思っていたのに、その腕についている動物は!? 四歳児がくっつけるには大きいでしょう!? しかも、ゆるくてまるいフォルム! あぁ、撫でまわしたい。愛でたい! ふたりまとめてお世話したい! こんなかわいすぎるコンビを廃嫡した侯爵家は潰していいですよね!? 血祭りしてきていいですよね!?」


 実家は正直どうなっても構いやしないが、ナイス紳士がハァハァしだすのはいただけない。

 ルルティア&コアラの絵面の良さは合意だけどね。わたしも前世でこんな漫画があったら読みたかったよ。自分が渦中にいるのはご遠慮したかったが。


 ともあれ、親から見捨てられておよそ二か月。まさか逆ハーレムでも、パパハーレムになるとは予想外だったわたしである。しかも一人なんて、ただの御者なんだが?


 さらに、そこに割って入ってくるのが一度は婚約破棄を申し出てきた婚約者。


「オ、オレの婚約者にいきなりなにを言っているんだ!?」

「殿下には関係ないでしょう? 結婚はさせてあげますよ、私の目が黒いうちに、私を倒すことができればね!」


 何度も言うが、ベンジャミンさんはかつて英雄とまで言われた騎士である。

 怪我で引退したとはいえ、今も、カーライル殿下に剣を教えていたはず。いわば師匠だ。


 それなのに、カーライル殿下は肩に載る黒猫シェンナちゃんをわたしに預けてくる。


「だいぶ元気になったが、まだ病み上がりなんだ。預かっていてくれ」

「それは……構いませんけど……」


 わたしの腕の中にきたシャンナちゃんは、左腕のコアラを見て少し震えているようだった。そうだよ

ね、大怪我負わせた張本人だもんね。短めの黒い体毛は色つやもよく、手入れもしっかりされているようである。カーライル殿下、ちゃんと可愛がってあげているんだなとわかって、わたしは安心である。


 そんなシェンナちゃんを、コアラがひとなめ。

 すると、意を決したように、シェンナちゃんもコアラの腕をペロペロしだした。


「ぐもも」

「にゃーん」


 ……これは、コアラが「ごめんなさい」をしたのかなー!?

 それに、シャンナちゃんが「いいよ」したのかなー!?


 かわいい! 種族の垣根を超えた使い魔同士のやりとり、すごくかわいい!


 ユカリさんとコアラは仲悪そうだったからね。わたしはこういう微笑ましいモフモフたちのやりとりを求めていた。あぁ、癒される。アニマルセラピーは正義。


「い……今、倒してやろうじゃねーか!」

「いい度胸です!」


 そんなね、無意味な決闘なんて、ほんとどうでもいいのですよ。

 なんか真剣な面持ちで始めるも、案の定、三秒で負けるカーライル殿下。


 わたしがシェンナちゃんを下ろしてあげると、シャンナちゃんは真っ先に殿下の元へ向かい、ペロペロと傷口を舐めてあげている。


 よし、これでようやく立ち話は終わったね。せっかく王宮にきたのだ。ミハエル王弟殿下に燃える森の報告をしなきゃなんだけど……その前にお茶の一杯くらいもらいたい。


 ……というか、自ら養父になったくせに、ミハエル殿下はお迎えにもきてくれないので?


 そんなあいだにも、鼻息荒いベンジャミンさんを、なぜか御者さんがツンツンしていた。


「次、僕の番でいいかな?」

「あ……あなた様に、私ごときが剣を向けるなど……」

「安心してよ。僕の代わりに彼が戦うから」


 そうして、御者さんが差し出すのはユーリさん。


「俺!? どうしてあんたの代わりに……」


 本当、なんでそんなカオスが起こっている?

 しかも、御者さんの間近にきたユーリさんが、異様に驚いて青白い顔をしているじゃないか。


 なんだろう? 何が起きているんだろう?

 とりあえず四歳のわたしは疲れてきたので、くだらない決闘は終わらせていいかな?


「コアラ、なんかほどよく吹き飛ばしてもらえる?」

「ぐもおおお!」


 ちゅどーん。

 その爆発は、ちょうど倒れているカーライル殿下やシェンナちゃんに当たらない程度の威力だった。よしよし、いいこだコアラ。あとでたんまりユーカリをあげよう。


 でも、その前に。


「わたしの親を、わたしの許可なく決めないでください!」


 仁王立ちで見下ろすわたしとコアラに、伸びた男たちは「ごめんなさい」と言ってくれたのだった。



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