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ちみっこ魔女転生~使い魔がコアラだったので、たのしい家族ができました~  作者: ゆいレギナ
3章 乙女のあこがれ

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19話 幼女とパパ


 コアラの悲痛に満ちた雄たけびが聴こえる。

 そうか……コアラ、こんなにもわたしのことを大事に思ってくれてたんだ。


 嬉しいな。それだけで、わたしが生まれなおした甲斐があった気がするよ。


 なんてセンチメンタルに、ひとしずくの涙が零れたときだ。

 今も、コアラが「ぐもー!」と騒いでいる。


 なんだろう、他に言いたいことがあるのかな?

 というか、いつまで経っても痛くもなんともないぞ?

 衝撃もこないぞ?


 わたしは顔を上げてみる。


「もしかして、コアラがバリアを張ってくれていたり……」

「コアラじゃなくて悪かったな!」


 そこには、鼻息を荒くしたユーリさんがいた。

 愛用らしい剣を肩に担いで、足元には斧を落とした盗賊さんを転がして。


 これは、ユーリさんが助けてくれたという展開ですかね?


「ありがとう……ございます……?」

「疑うことなく感謝の言葉を受け取らせていただくよ」


 なんて厭味ったらしい「どういたしまして」だこと!

 だけど、そんな文句を言う隙もなく、ユーリさんがわたしを睨んでくる。


「なんで俺が怒っているか、わかるか?」

「……わたしが、盗賊さんを何の事情も聞かずにぶっ飛ばしたから……」


 盗賊さんの「生活費」という言葉で、わたしはハッとした。


 盗賊さんと呼ぶからには、盗むことを生業としている人々である。盗難はこの世界でもれっきとした犯罪だ。大きな街中なら、憲兵や自警団を呼んで牢屋に連れていってもらうような罪。それが僻地だからといって、無実になるはずがない。


 ならば、どうしてそこまでして『生活費』を稼いでいるのか。そもそも、どうしてこんなモンスターもでるような村の外に住んでいるのか。


 ……簡単な話だ。前世でいうなら浮浪者たちなのだ。

 まともな仕事に就くことができず、それでもなんとか生きていくために集団で悪いことをして、命を繋いでいるにすぎないのだ。


 みんながみんな、そうでないのかもしれない。

 ただの娯楽でお宝を集めている盗賊だっているだろう。


 でも、それだけでない可能性を考えなかったわたしの落ち度だ。

 ……わたしは、ただの四歳児でないのだから。


 己の浅はかさに視線を落としていると、ユーリさんが短い言葉を放つ。


「ちがう」


 コアラがいつもの定位置に戻ってくる。反射的に左腕のコアラをいつものくせで撫でたが、ユーリさんはそれに関して何にも苦言を呈さなかった。


「たしかにそれも良くなかったが、それ以前だ。俺はルルちゃんに結界から出るなと言ったよな?」

「……はい」

「何かあったらどうするつもりだったんだ!?」


 これは……心配させてしまったのかな……?

 やっぱり真面目でいい人だ、とわたしは苦笑する。


「そうですよね……こうして、コアラを巻き込んでしまったわけだし……」

「違うよ。むしろコアラくんを置いていっていたら、それこそ俺は泣いていたよ」


 ユーリさんが泣く? ……意味がわからない。

 それなのに、ユーリさんの「な、コアラくん?」との問いかけに、コアラも「ぐもぐも」と頷いている。


 そんなやりとりをキョトンと見つめていると、ユーリさんのジト目がより険しくなった。


「ほーら、ルルちゃんよりコアラくんのほうが賢いなぁ?」

「あの……本気でどういうことかわからないのですが……」

「ルルちゃんの身に何かあったら大変だったでしょ! と言いたいの!」


 その強い言葉に、わたしは目を見開いて。驚いて。


 だって、ルルティアは両親から勘当されているし。一応ミハエル殿下が養父になってくれたけど……まぁ、こんな調査に単身で送り出したくらいだし。あとは婚約者のカーライル殿下だが……子どもの頃からの知り合い以上の関心はないだろう。たとえわたしの身に何かあっても、時が経てばすぐに忘れる。子どもとはそういうものだ。


 だから、わたしは乾いた声で笑う。


「でも……わたしに何かあって悲しむ人なんて誰もいないですし」

「俺が泣くけど?」


 それでも、ユーリさんは真顔で言い切った。


「俺が泣く。めちゃくちゃ悲しむ。まだ数週間の短い付き合いとはいえ、こうして二人で旅をしていて愛着が湧かないはずがないだろう。それにそもそも、四歳が『自分に何かあっても悲しむ人がいない』なんて悲しいこと言うな。諦めるな。今ここに、きみが心配でいても立っていられなくて、助けに来た男がいるんだから」


 そして、すっごく真面目に諭された。

 こんなこと、前世の三十年でも、一度も言われたことないのに。


 ……まだ、ユーリさんが若いということなのだろうか。十八歳だもんね。

 だから、わたしは笑って躱そうとしてみる。


「そんな、わたしのパパでもあるまいし」


 こう言えば、ユーリさんはすぐに引くと思ったのだ。

 だけど、ユーリさんはむしろわたしに迫ってきた。


「じゃあパパでいいよ」

「え?」

「俺がルルちゃんのパパになる。はい、決定ね。ほらほら、かわいい俺のルルちゃん、一緒に野営地に戻ろうねー」

「え? え??」


 戸惑っているあいだに、わたしはあっという間に抱っこされてしまって。

 わたしの首のうしろに抱き付いたコアラが大きなあくびをしている。


 ユーリさんはさすが騎士さんなだけあって、四歳児を運ぶことなどどうってことないらしい。

 たくましい足取りによるやさしい揺れと、あたたかい腕のぬくもり。


 恥ずかしくて、いたたまれなくて。

 わたしは顔を隠すように眠ったふりをするだけで精一杯だった。




 そして、次の日。

 無事に道中を乗り越え、今晩は小さい宿に泊まれるようだ。

 背伸びしながらユーリさんの筆を覗くと、宿帳にはこう書いてある。


 ユーリ=クロウリー。

 ルル=クロウリー + コアラ。


 そんなわたしたちを微笑ましく見つめながら、おかみさんが話しかけてくる。


「かわいい娘さんですね」

「はい、自慢の娘なんです!」


 あっさりと応えたユーリさんがドヤ顔でわたしを見下ろしてくる。

 だからわたしは、むくれながらユーリさんの手を繋いだ。


「だらしない顔しないでよ、パパ」


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