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ちみっこ魔女転生~使い魔がコアラだったので、たのしい家族ができました~  作者: ゆいレギナ
3章 乙女のあこがれ

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17話 幼女のこぶし

 あの決闘のとき、ガチで詰んでいた可能性があったんだなぁ……。

 ただでさえコアラに悪戦苦闘しているのに、そのうえ片腕幼女生活とかハードすぎる。わたしはもうちょっと優しい異世界生活を満喫したい。できたらぐーたらやっほいな溺愛らくちん生活を過ごしたかったくらいだ。


 通りすぎた恐怖に背筋をぞわぞわさせていたときだ。

 誰かに背中をツンツンとつつかれる。ユーリさんはすでに経験済みと知らないせいか、今も急に頭を抱えだしたわたしにポカンとしていて……他にいるのは、この人くらいか。


「僕の見立てだと、コアラくんはそんなヘマしないと思うよ?」

「へ?」


 御者さんである。

 失礼ながら、モブでいいと思っていた人。というか、そうであったほしかった。適度な他人行儀で「お茶飲みますかー?」「ありがとうございますー」だけで済むような希薄さがありがたいときもあるんだよ。濃すぎる毎日を過ごしていると。


 そんなネームドなしの御者さんがニコニコと告げてきた。


「コアラくん、ぞんざいなようできみのことは大事にしているようだから。前にこぶしに魔力を込めたときも、何重に防御魔法をかけていたしね」

「ぐもぅ……」


 御者さんの言葉に、コアラが恥ずかしそうに顔を逸らしている。

 えっ、コアラの照れ顔、初めて見たんだが? 普段はふてぶてしい分、かなりかわいいのだが? なぜこの世界にカメラがない!?


 だけど、わたしの心はアラサー。御者さんの発言の違和感に、ツッコまずにはいられない。「御者さん……わたしが決闘したの、見てたんですか?」


「うん。学園にちょっとした仕事で伺っていたとき、たまたまね」


 えー、この御者さん一発屋じゃないのかなー。

 こわいなー。本当にそんなたまたまあるのかなー?


 だけど、今もスライムはぽよんぽよんしている。退治しないと進めないし、ここでわたしたちがやらないと、ユーリさんは二度と退治に協力させてもらえない気がする。


 そんなのは悲しいよね。幼女は勢いだ!

 せっかく二度目の人生、魔法使いになれたんだもん!


「いくよ、コアラ!」

「ぐも!」


 すると、右手があたたかな魔力がこもっていく。

 これよ、これ。わたしはちょうどぽよんぽよんしてきたスライムに向かって、こぶしを叩きつけた。


「コアラぱーんちっ!」


 ぶふぉおおおおおおおおっ!!

 ブシャアアアアアアアアッ!!


 幼女が放ったとは思えないパンチの風圧と、スライムの爆砕の仕方に、ユーリさんが人外をみるような目でわたしとスライムを見比べてくる。


 なんとなく気まずくて、前世の人生では決して口にしないようなことを言ってしまった。


「またつまらぬものを殴ってしまったね、コアラ」

「ぐも」




 ともあれ、わたしとコアラはやっぱりけっこう強いらしい。

 しかも、モブだと思っていた御者さんが有力情報を教えてくれたのだ。


「魔力を武器に込めるだけだったら、コアラくんが寝ていてもできると思うよ。

「そうなの!?」


 コアラが寝ていても戦えるなら、かなり融通が利く。

 その後の道中もモンスターはたびたび現れるので、スライムを殴り、大ネズミを殴り、ゾンビ犬は触りたくなかったので爆砕し、ちまちまクリスタルを集めて換金していたら、宿代&修繕費はなんとか賄えるくらいの稼ぎになっていた。


 それでも長い道中、お金の問題ではなく、宿にありつけないこともある。


「いいかい、この結界の中から絶対に出ちゃダメだよ? 外にはモンスターはもちろん、盗賊らもここらを根城にしているって話だから。でもこの結界の中にいれば、気配すら感じとられず安心だからね」

(これでもアタシ、元は聖女だったのよ!)


 森の中で忽然と現れたユーカリの木々。当然、これはユーリさんとユカリさんの魔法だ。

 その中だと、わたしにもユカリさんの姿や声が見聞きできるというもの。


 なんともこのユカリさん、得意は結界や防護の魔法だという。だから、このユーカリの木々に囲まれた野宿場所にはモンスターはもちろん虫すらも入ってはこれないらしい。


 自信満々に胸を張るユカリさんに対して、コアラは「ぐも……」と何か言いたげな目をしているけどね。


 ともあれ、ユーリさんや御者さんたちの寝息が聞こえたあとも、珍しくコアラが起きている。

 これは、前世の夢を叶えるチャンスではないか?


「コアラ……二人でちょっとデートしない?」

「ぐも?」


 ユーカリの木に登ってもしゃもしゃしているコアラに、わたしはにっこりと笑いかける。


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