16話 コアラとスライム
スライム。
ロールプレイングゲームでお馴染みの、ゼリー状のモンスターである。
元の日本だと、こんな生物はいないけどね。なんらかの原因で雨水に高濃度の魔力が含まれてしまった結果、むにゅむにゅと動き出すということで、この『マジカルティア』だと動物&モンスターの一種とされているらしい。栄養素として魔力を欲して人間しかり、モンスターを食すので、広義で入れてしまっているんだってさ。
人間を食べるといっても、消化するのにかなりの時間を有するため、学園でも二年生の討伐実習の最初の相手に指定されている。なんなら、学園で飼育もされている。そのため、わたしもすでに学習済みのモンスターだったわけだ。
と、そんなわたしの体躯ほどのゼリーが、草原でむにゅんむにゅん飛び跳ねること十数体。
「よし、コアラ! いっちょ吹き飛ばそうか!」
「ぐもっ!」
左腕のコアラがやる気を出して、目を光らせたと思ったときだった。
ユーリさんが慌ててコアラの目を塞ぐ。
「待って、新米魔法使いさん! 小さい子は、まず小石を飛ばす魔法からじゃ……」
「スライムには効果が薄いと学習してます」
だってスライムに、物理攻撃は効きづらい。元は水だからね。なので火力で吹き飛ばしてもらおうと思ったんだけど……きっとわたしたちの周りで蠢いたただならぬ魔力のうねりで、やばいの使おうとしていることがわかったのだろう。どうやらユーリさんにお気に召していただけなかったようだ。
だから二年生の初めに習うのは雷撃の魔法らしい。この魔法でスライムの核を破壊するのだ。ちなみに、三年生になると火炎の魔法を習うので、よりスライムの水分を蒸発させて、退治がラクになるのだという。カーライル殿下が決闘のときに使っていた魔法だね。
今までの経験上、コアラに後者の魔法ができるとわたしは知っている。
「ご安心だくさい、コアラなので」
「まあコアラだけどさ……だからこそ不安というか……」
ユーリさんもその身で経験したからわかるはず。
コアラは爆炎の魔法が使えると。
そして、火力に遠慮がないということを。
そのせいか、やっぱりユーリさんはわたしたちを止めることにしたらしい。
「でも……うん。魔法の練習というなら、なんでも火力任せはダメだと思うんだよ」
そう言いながら、ぽよーんと跳んできたスライムを剣で薙ぎ払ってくれるユーリさん。元騎士ということもあって、剣の腕前には自信があるらしい。案の定、スライムは跳ね返ってはくれるものの、剣はあくまで物理攻撃。スライムがダメージをうけたようには見えない。
一連の流れを確認して、わたしは素朴な疑問をぶつけてみる。
「ちなみに、ユーリさんはスライムを倒すときはどうしているんですか?」
「これでも使い魔を使役できてるくらいだから、剣に魔力を込めることはできる」
すると、ユーリさんは剣をわたしに見せてくれた。
ユーリさんが強く剣を握った瞬間、刀身が黄緑色に光り出す。
その剣で再びぽよんぽよんしてきたスライムを斬ると、今後は跳ね返ることなくバシャンと破裂した。
「ね? 主に騎士はこうして戦うんだ」
「なら、わたしもそれやります!」
四歳児に剣を握るのは難しいかもしれないけど、わたしには心当たりがある。
そう――かつてカーライル殿下を『にゃんこのうらみー!』とお尻ひっぱたいたときのアレである。思い返せば、ユーリさんの剣と同じことをしていたのだろう。あのときは完全にコアラ任せだったけどね。
コアラのバ火力で吹き飛ばすより、幼女の魔力パンチのほうが威力も加減できるはず。そしてユーリさんのメンタルにも優しいに違いない……と、コアラにお願いしようとしたときだった。
「でも加減を誤ると、武器が簡単にぶっ壊れるよ?」
「えっ?」
簡単に武器が壊れる……つまり、幼女のこぶしなんて、あっけなく吹き飛ぶのでは!?
ということは……あの決闘のときも、一歩加減を間違えたら、わたしの腕が吹き飛んでいたということ!?
「コアラああああああ!?」
「ぐも?」
あーもう、今日も「ぼくなにか悪いことしましたか?」顔しちゃってさー。
今日もわたしのコアラがかわいいなー!!





