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ちみっこ魔女転生~使い魔がコアラだったので、たのしい家族ができました~  作者: ゆいレギナ
3章 乙女のあこがれ

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15話 幼女と路銀


 あたりまえの話だが、旅にはお金がかかるものである。

 宿代や食事代はもちろん、馬の餌代や馬宿代、本来なら御者さんへの賃金が必要不可欠である。


「僕への支払いはお気遣いなく。すでにいただいておりますので」


 ミハエル殿下が先払いしてくれていたのだろう。この点だけはありがたい。


 ちなみに、森でユーリさんは本当にきこりのようにユーカリの木や葉を売って生計を立てていたらしく、その頃に稼いだお金の残りと、わたしが最初に持たされていたお金を合わせて、宿代などを払っていたのだけど……宿に修繕費も提供している以上、あっという間にお財布は空っぽになってしまった。


 わたしたちはガタゴトと馬車に揺られながら会議である。


「それにしては、ユーリさんの小屋けっこういい物が揃ってましたよね」

「あ~、森に引きこもっている俺を心配して、たまに会いに来てくれるひとがいてさ。その人が毎回色々物資をもってきてくれていたんだよ」

「ぐもおおおおおおおおおお」


 やっぱりコアラが今日も寝ているのはさておいて。

 わたしは左腕のコアラを撫でながら訊いてみる。ちなみにちょっとコアラがゴアゴアしてきた。宿に備え付けのシャンプーの質が合わないんだろうな。いいものを買ってあげたいけど……なんにしろ、わたしたちにはお金が必要だ。


「ユーリさんのご家族ですか?」

「まあ……そんなところかな」


 うーん、どうにも歯切れが悪い。

 やっぱり、どこぞの貴族だったりするのかな。茶葉だけでなく、ご飯のたびに香辛料も使ってくれていたから、それらも差し入れによるものだったのだろう。


 正直いってありがたい限りだ。転生してからも、前世の味覚を覚えているせいで、なかなか美食家になってしまっているからね。侯爵家やエリート学園の食生活は悪くなかったけど、最近の宿のご飯がどうにもスープが薄かったり、パンが固かったりと困っていたのだ。なんだったらユーリさんお手製のご飯のほうが美味しいまである。


 ……でも、たとえユーリさんが貴族だったら、料理スキルはどこで手に入れたんだ?


 うーん、ユーリさんがいいところのお坊ちゃんなら、お金を支援してくれるように頼むのも手だと思ったんだけど……難しそうかなぁ。そもそも、わたしが必要経費ということでミハエル殿下に頼めって話なんだけどね。なんかこう……ね。最終手段にしたいというか。そもそも、わたしがしたくないことを人に頼むのが間違っているな。


 わたしがひとり悶々としていると、ユーリさんが小首を傾げてくる。


「ルルちゃんどうしたの? 馬車酔いでもした?」

「あ、いえ……お金、どうしたもんかなぁと思いまして」


 わたしが話を戻すと、ユーリさんがガクンと肩を落とす。


「俺が不甲斐ないばかりにごめんね。本当はこんなことで子どもを悩ませたくないんだけど……」

「そんなこと言っていると、これから『パパ』って呼びますよ?」

「ごめん、それは勘弁して」


 心底嫌がっているようだけど、十八歳のくせに父親みたいなこと言っているほうが悪い。若者なら、もっとミハエル殿下みたく堂々と理不尽にしていればいいのだ。……ほどほどにね?


 だから老けて見られるんだろうなぁと呆れつつも、わたしは苦笑を返しておく。


「ま、ユカリさんのおかげで、コアラの餌代に困らないだけは助かりますけどね」

「たしかにパルキア王国にはない樹木だから、取り寄せにはお金がかかるよなー」

「ぐもおおおおおおおおおおおおおお」


 そう考えれば、ユーリさんの旅は神、ミハエル殿下の巡り合わせ……でも四歳児に任せることではないよな、うん。王宮まで連れてこいって。これじゃあまるで、わたしが王宮まで連れて行ってもらっているみたいなじゃないか。


 路銀くらい、やはりわたしがどうにかしないと……。


 そのとき、馬車がヒヒーンと急停止。

 すると、ユーリさんが「またか」と腰をあげる。

 案の定、御者さんが申し訳なさそうに声をかけてきた。


「すみません、モンスターです」


 モンスター。これまたファンタジーお決まりの怪物である。

 元の日本よりも自然がいっぱいのファンタジー世界『マジカルティア』で、人間が魔力を持つなら、動物だって魔力を持つ。ということで、魔力を持った自然動物のことをモンスターと呼び、人里離れた場所でよくよく遭遇するのが、この世界の当たり前なのである。


 ちなみに、このモンスターは倒すと魔力の結晶体であるクリスタルを落とすので、クリスタルを集めて換金する『モンスターハンター』なんて職業もあるほど。


 つまり、貧乏なわたしたちに渡りに船なお客様だったりする。


「よーし、じゃあ俺は一稼ぎしてくるから、ルルちゃんは馬車の中で大人しくしていてね」

「あ、ユーリさん。コアラが起きました」

「あ、うん。じゃあモンスター退治が終わったら、食事休憩でも――」

「いえ、そうじゃなくて」


 そう、わたしはコアラが「ぐぐも」と目を開けたから、空気の読めない発言をしたわけではない。


 忘れないでほしい。

 わたしはコアラの飼育係ではなく、魔法使いの卵なのだ。


「わたしも、モンスター退治のお手伝いしてみていいですか?」


 ……ま、わたしもよくよく自分の設定を忘れているけどね。



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