閑話 カーライル殿下の事情②
◆
「ルルティアが退学しただと!?」
「正式にいえば異なります。休学されたのです」
オレはカーライル=フォン=パルキア。十歳。このパルキア王国の王太子である。
王太子とは、次に国王になることが約束されている者のこと。お父様とお母様とのあいだに子どもはオレしかいないので、オレは必然的に生まれたときから王太子だった。
――と、そんなことは、今はどうでもいい。
オレが自主退学した直後、ルルティアが学園を休学してしまったという。
ショックだ。ルルティアは魔法の天才なのだ。
二歳にして魔力の発現。四歳にして魔法学園への入学が許され、コアラとかいう面妖な使い魔の扱いに苦戦しつつも、座学はクラストップ。実践魔法だって、コアラさえ起きていれば、オレとの決闘で人並み以上の実力が証明されたばかりだというのに!
今日も部屋で、オレの使い魔であるシェンナに休息をとらせつつも、魔法と帝王学の勉強に勤しんでいたオレ。ベンジャミンからの報告に、オレはペンを落とす。
「そんなにも……オレと離れ離れになったのがショックだったのか……」
「どうしてそういう考えになるんですか?」
ベンジャミンが心底どん引いた顔をしてくるが、オレは王太子だ。
愚かな部下にも丁寧に説明してやる器のデカさを持っている。
「学園で、あいつはオレに毎日会えるようになることを楽しみにしていたはずなんだ! だからこそ、オレが無理を言って同じクラスにしてもらったというのに……」
「そこまでして毎日会いたかったルルティア嬢を、嫉妬を拗らせてイジメていたのは誰ですか?」
「断じてイジメてなど……いや、否定はできん。先日母上にも叱られてしまった……好きな子に悪戯して好かれると思っている男ほど愚かな生き物はいないと」
「真理ですね」
くそ、今日もベンジャミンが辛辣だ。きっと男の日だ。昔、母上が大人の女性には女性特有のツラい日があると話していたことがある。女性にあって、男性にないはずがない。オレにはまだないが、きっと大人のベンジャミンにとって、今日はそのツラい日なのだろう。
だったら、とりあえずオレは寛容であるべきだ。
しれっと聞き流して、話を元に戻す。
「それで、休学したルルティアはいつ王宮に着くんだ?」
「はあ?」
「実家から破門されているのだろう? だったら、来る場所なんてオレの所しかないじゃないか」
よくよく考えたら、やっぱり休学はオレのせいだ。
そう――オレが学園から離れてしまったから、オレのそばに来るために休学したのだ!
愛いやつめ。だけど部屋はどうしようか。オレと同じ部屋でもいいが……やっぱりダメだな。さすがに同じベッドで、オレとルルティアとシェンナとコアラの二人と二匹で寝るのは狭そうだ。
だったら、母上に相談して隣に部屋を用意してもらわなければならない。夜寂しくなったとき用に、間の壁に扉も付けてもらわないとな。
「よし、ベンジャミン。母上はいつなら会えそうだ?」
「何もよくはないですね。ルルティア嬢なら燃える森の調査に向かいましたので」
「燃える森……何の隠語だ?」
「そのまんまの危ない場所ですね」
そして、オレはベンジャミンの話を聞く。
おおよその場所は、王宮から馬車で二週間くらいかかるほど遠いとのこと。そして言葉の通り突如森の木が発火するので、なんらかの呪術師やモンスターが関与しているんじゃないかということ。そんな場所へ、ルルティアは護衛もなしに調査しにいくことになったということ。
もちろん、オレは即座に立ち上がった。
「オレが護衛にいく!」
「まだ使い魔殿がようやく歩けるようになったくらいなのに?」
「うぐっ」
黒猫シェンナの具合は、だいぶ良くなってきた。
餌もしっかり食べられるようになったし、中庭の散歩なら一緒に付き合えるようになってきた。だけど、まだ魔法を使えるかといったら厳しいところ。無理をさせて、まだぶり返しては申し訳なさすぎる。
「オレ、ひとりでも……」
「魔法も使えない十歳のガキが何の役に立てると?」
「うぐぐっ」
やっぱり、ベンジャミンは男の日だ。辛辣すぎる。
それでも、ルルティアの危機に引き下がるわけにはいかない。オレはタンスの中に隠していた秘蔵品を持ってくる。
そう――ブタさん貯金箱だ! 物心ついてから、ベンジャミンの手伝いをするたびに手間賃としてもらった小銭を使うときが来た。なぜブタさんかといえば、そういうものだとベンジャミンが言ったからだ。
「これで、護衛を雇う!」
「悪くない手段ですが、護衛の伝手をお持ちですか? あと金額がいささか足りないかと」
「うぐぐぐぐっ」
護衛を雇うなら、やっぱり魔法使いがいい。弱いやつを雇っても何の意味もないからな。オレには相場がわからないが、元騎士で偉いやつだったベンジャミンが足りないというのだ。きっとその通りなのだろう。
どうする……。
オレは、どうすればルルティアを救うことができるんだ!?
「それなら、僕が行ってあげるよー」
「あ、あなたは――」
そうして開かれた扉に、オレは目を見開く。
ノックの有無など関係ない。だってその御方は、オレの知る限り世界で一番強くて、世界で一番優しくて、世界で一番大好きな御人なのだから。
「ほら殿下、男を見せるときですぞ」
ベンジャミンが、固まるオレを背中を小突いてくる。
オレは弱い。ものすごく弱い。
だからと言って、変な意地を張ってもいいことは何もないと学んだばかりだ。
オレは誠心誠意頭を下げる。
「よろしくお願いします!」
「うん、ルルティアのことは任せて」
その御方は、にこやかにオレのブタさん貯金箱を受け取ってくれたのだった。
これにて2章おしまいです!
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