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ちみっこ魔女転生~使い魔がコアラだったので、たのしい家族ができました~  作者: ゆいレギナ
2章 燃える森の秘密

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13話 新米騎士と森の秘密

 ユーカリの木から、小さな人型の生物が飛び出してくる。

 羽根の生えたそれは……いわゆる妖精でいいのかな?


 髪も肌の色も緑系で統一された、四歳のわたしの手のひらサイズの女の子である。

 しかも、彼女の声らしきものが頭に中に聞こえてくるのだ。


(どうしてこいつがここにいるのよ!? あなたは死んだはずじゃなかったの? アタシが恋しいからって、まさか転生してきたんじゃないでしょうね!)


 わたしは目の前のファンタジーに唖然としつつ、おそるおそる尋ねる。


「コアラ、この子……知り合い?」

「ぐもぐも」

「遠慮してないでさー、ほら、わたしの身体かしてあげるから、穏便にお話していいよ? 穏便にね? 決して爆発させたりしちゃダメだよ? 仲良く、穏便にね?」


 大事なことなので、二度言いました。だってこのコアラ、短気なんだもの。


 というか、この妖精さん、あからさまにコアラに怒っているのだが?

 知り合いじゃないの? 知り合いじゃなかったらホラーだよ?


(ひどいわ、ひどいわ! アタシにヤキモチ焼いてもらいたいのはわかるけど、アタシにはもう新しい男がいるのよ! ユーリっていう美男子でね、真面目で優しくて、あなたとは大違いな――)

「お嬢ちゃん……大丈夫、かい……?」


 妖精さんのヒステリー真っ最中に、ボロボロの姿になって戻ってきたユーリさん。

 いい人だ……こんなボロボロよれよれなのに、出逢って間もない子どものために、爆心地に戻ってきてくれるなんて。たしかに真面目ないい人だ。


 そんなユーリさんに、妖精さんがリンリンと近づいていく。


(ユーリもひどいわよ! アタシの元カレを連れてくるなんて、そんなにアタシのことが嫌いなの? アタシはこんなに好きなのに!?)

「ちょっ、俺に話しかけるな……」


 ユーリさんの不安そうな目でわたしを見やる。


 ご安心ください、ユーリさん。

 もうすでに遅いです。


 そんな慈愛の目で見つめていると、観念したユーリさんが肩を落とした。


「騙してすまない……俺、きこりじゃなくて騎士なんだ。このユーカリの森も俺とこいつが原因なんだけど……話を聞いてもらえるかな?」




「二年前かな……騎士になったときの魔力の再測定で、突如魔力があることが発覚したんだ」


 わたしみたいな特例を除き、パルキア王国の全国民には十歳の誕生日に魔力測定を受ける義務がある。しかし、騎士という兵士より格上の職業につくときに、再度計測し直すことになっているらしい。


 焼け落ちたユーカリの森の中で、今度は朝のお茶タイムである。

 ついでに朝ごはんとして卵とベーコンとパンも焼いてもらいながら、わたしはのんびりと尋ねてみた。


「ユーリさんって、今、おいくつなんですか?」

「十八だね。だから、魔力が発現したときは十六だったかな」


 わたしの魔力発現も二年前。というか、わたしが転生者と気づいたときがそのときだったんだけど……何かの偶然か? それともたまたまか?


 ただ学校の授業も、ごくたまに後天的に魔力が発現する人もいるって言っていたから、後者の可能性が高いだろうな。


「ともあれ、騎士の中でも魔法使いのほうが当然ありがたられるし、出世もしやすいから、使い魔を召喚してもらったんだけど……そして出てきたのが『ユカリ』だったんだ……」

(ユーカリの精霊のユカリよ♡ この安直なネーミングセンスがまたユーリのかわいいところよね♡)


 ユーリさんのまわりでハート型の鱗粉が舞っている。わかりやすくプンプンと鱗粉らしきものを撒き散らせていた。


 その鱗粉が地面に落ちる。すると、そこからニョキニョキと幹が伸び、枝が広がり、葉が生えて。あっという間にユーカリの木が爆誕した。


 え、なにこれ……?

 わたしが唖然としていると、ユーリさんが嘆息しながら教えてくれる。


「ユカリの鱗粉は、ユーカリの木を生やす効果があるんだ……」

(アタシの恋心を爆発させると、ユーカリの木が生えるの。ちなみにアタシを怒らせるとユーカリの木が発火を始めるから注意してね♡)


 なんだ、そのクソ面倒な性質は……。


 だけど、ふと思い出した前世知識がある。

 ユーカリの木の樹皮には発火しやすい成分が含まれており、夏場は火災が起きやすいのだという。だけどユーカリの木に大事な栄養素を根に蓄えていたり、幹の芯が火に強い性質もあり、火災で燃えてもまたすくすくと再生を始めるのだ。たしか、ユーカリにとって天敵のコアラを撃退するためのものだとか?


 そんな木の性質を若干ファンタジーにしつつも維持する精霊は、今、ご主人ユーリさんの頬に抱き付いている。髭がないほうがイケメンだもんね。きっとユカリさんも嬉しいのだろう。


 ユーリさんがやらせたいようにさせていると、ユカリさんから鱗粉が舞い、ユーカリの木がボコボコ生えてくる。


 あっというまに元のユーカリ森林に戻りそうだな、こりゃ。

 ユーリさんは、もう慣れっこ……諦めているようだ。


「精霊は、使い魔の中でも希少だから、最初は大層もてはやされたんだけど……ほら、このとおりボコボコ木が生えるだろ? 駐屯所の中にも容赦なく建物ぶち抜いて生えるから、迷惑だってことで廃村へ出向という体の追放……婚約者からも婚約破棄を言い渡されるし、俺の人生もう終わったなぁって」

(昔の男がろくでもなかったから、今度は真面目そうな男を選んだの♡ アタシの見る目は正解だったわね。大好きな男と二人っきり……アタシ、今、とっても幸せよ♡)


 つまり、『燃える森』が爆誕した理由は、この騎士と使い魔が原因とのこと。

 出向ということは、なんかしらの手続きが残っていそうだけどね。これは面倒事を避けた騎士団とやらが、ユーリさんらの存在を隠蔽しようとしていたのかな?


 謎が解明されたところで、わたしはできあがった目玉焼きとベーコンを載せた豪華トーストを遠慮なくいただく。


 おいひい。人間、とりあえずご飯が美味しければなんとかなる。

 そのくらい逞しくないと、このファンタジー世界をコアラとなんて生き延びられまい。


 モグモグしていると、ユーリさんがトホホと苦笑する。


「お嬢ちゃんには、難しい話だったよね……」

「そうでもないですよ。わたしも似たような境遇なので」

「えっ?」




 そして、ご飯を終えてから、わたしは調査報告をミハエル殿下に送った。

 ユーリさんに近くの町まで連れていってもらって、再びユーカリの森で生活させてもらっていると、お返事は思いのほか早くやってきた。


 その高級そうな便箋には、四歳児でもわかる文章が一文だけ。


『その人を王宮まで連れてきて』


 ほらでた! 無茶ぶり!

 生きているだけでまわりにユーカリの木が爆誕する人と、どうやって旅しろと!?


「ほら、ユーリさん、わたしたちそっくりでしょう?」


 詰んだ……ほら、やっぱり詰んだ……。

 乾いた笑みを浮かべながら涙する四歳児に、ユーリさんも遠い目を返してくれる。


「とりあえず……今日もごはん食べよっか」

「あい」


 ちなみにコアラは、ユーカリのユカリさんの嫌みやヒステリーをまったく気にせず、今日も美味しそうにユーカリの葉をたらふく食べている。


 あーあ、わたしのコアラは今日もかわいいなーっ!!


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