これだから関西弁の人間は苦手なんだ!
私は関西弁に対して、いや関西弁を話す人間に対して苦手意識がある。
きっかけは大学に入学したばかりに始めたバイト先での出来事だった。初めてのバイトで右も左もわからないまま、ただひたすらに教えてもらったことをこなすだけで私は精一杯だった。お客さんがいなくなったテーブルの食器を持ってきたトレーにのせ、キッチンへと運ぼうとしていたとき、ある1人の男性が私に声をかけてきた。
「ここって喫煙所ある?」
ラフな口調に思わずこんな知り合いいたっけと思う。しかし、その質問の内容が私を店員と捉えて発せられてものだと気づき、その男性が客だと気づく。いきなりため口で聞かれたことに驚きつつ、イントネーションで関西出身の人だと気がついた。とっさに反応できず「えっと・・・・・」と言葉にならない言葉を発してしまう。バイト始め立て特有の緊張感、労働からくる疲労、そして男性の高圧的な態度。あらゆる条件によって私の頭はパニックになっていた。
「あるん?ないん?」
たたみかけるように質問される。まるで何かしらのタイムリミットに迫られているようで私はさらに恐縮してしまった。何か答えなければと頭をフル回転させる。
「すいません。ちょっとわからなくて・・・」
「え?従業員じゃないん?」
必死に絞り出した言葉は男性にとって必要としていたものではなかったようで、責められるような口調に反射的に、「まだ入ったばかりなんだよ!」という悪態が口から飛び出そうになる。しかし、知らないものは知らない、このままでは埒が明かない。ぐるぐると思考の渦からなんとか先輩に聞くという打開策を思いつき実行しようとした。
「他の従業員に聞きに行ってきます」
「喫煙所だけで?早うしてな。」
へっとあざ笑うかのような表情、まじかこいつみたいな声色。
「うわ無理。」その瞬間、人生で一番ドン引きしたであろう。お客さんに失礼のないように。丁寧な対応で。バイトの先輩に何度も言い聞かせられた教訓がかろうじて私の理性をとどめていた。頭の中で「関西人注意」の赤い文字がチカチカと点滅している。この瞬間、私は今後一切、関西人と関わらないというルールを自分に課したのだ。
それなのに、どうして私は今関西弁の男に話しかけられているのだろう。
「なあ、三田ちゃん今月空いとる日とかある?」
隣でスマホを持ってこちらの予定を聞きだそうとしているこの男は、授業でたまたまグループを組み知り合った北井だった。知り合ったといってもそんなに話してはいない。グループ活動なんて今の時代、スマホでやりとりさえ行えば、わざわざ話し合いなどしなくてもうまくいく。だから、そこまでの面識はお互いないはず。しかし、なぜか北井はそんな話したことのない女に対してこうして話しかけに来た。
「あ、ほら授業の発表終わったやん。せやからグループのみんなで飲み会でも行こうって話してて」
行きたくない。思わず間髪入れずに言いそうになったが、ぐっとこらえる。先ほど言ったようにグループのメンバーとは面識はほとんどない。名前と顔を覚えているくらいですれ違っても挨拶すらしない。そんなメンバーで行く飲み会などほぼ拷問である。どうにかして断らなければ。
「申し訳ないんですけど今月、バイトが忙しくて・・・」
「え!一日も空いてないん?」
嘘だろ、普通はここでみんな引き下がるぞ。早々に会話を切り上げようと思っていたがまさか会話が続いてしまい、私はどうにか言い訳を探す。しかし、見つからない。
「今、みんなが空いとる日だと来週の月曜日の夜やねんな。18時から」
「あ!その日私、授業があって」
よし!と思わず心の中でガッツポーズを決める。授業があるのは事実である。この調子で残念そうな顔をして乗り切ろう。しかしその思惑はあっけなく散ることになる。
「その日、祝日の振替日やから授業休みやで?」
あ、もしかして知らへんかった?北井がそうこちらに問いかけてくる。そうだった今週日曜日は祝日のためその振替日が来週の月曜日に当てられていた。私はそのことを今この瞬間すっかり忘れていた。
そして私は墓穴を自ら掘ってしまった。授業がないということは私はその日18時空いているということだ。授業があると勘違いしていたのならば、いまさらその時間帯にバイトがあることを言うのもおかしい。いや授業終わりにバイトがあると言えばまだ挽回できる!そうだそうしよう!
「あ、だけど授業後に・・・」
「授業ないってことは行けるやんな?」
有無を言わない圧だった。思わず言いかけた言葉を引っ込める。これだ。これが私が関西弁を苦手とする最たる理由だ。本人にその意図があるのかどうかは定かではないが、彼らの語気には彼らの意見を通す力がある。そして、私はその力に滅法弱い。
「・・・そうだね」
「えー!じゃあ来週の月曜日に行こうな!」
後でまた連絡するわー!と北井は手をひらひら振りながらその場を後にしていった。笑顔で去って行くその足取りは軽いものだった。一方の私はというと気分が落ち込む一方であった。自分の意見をしっかり言えなかった自己嫌悪、そして苦手な関西弁を話す人間にまた気圧されてしまったことの悔しさ。そして行きたくない飲み会のめんどくささ。あらゆる感情がぐるぐると頭の中で回っている。
これだから関西弁の人間は苦手なんだ!!
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