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”普通じゃない”人形夫人は年上の旦那様に溺愛されている  作者: 桜祈理


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12 建国記念のパーティー

 去年の騒動で逮捕を免れた、妙に品のある細身の若い男。



 フレデリク殿下の残したメモにあった、ベイロン商会残党のトップと思われる「細身の青年」の情報とも一致する。



 幹部かどうかはわからないまでも、ベイロン商会の中で重要なポストにあった人物が一人捕まっていなかったとは。



「先輩、やつら、どこに現れたんですか?」



 ロドニーの問いに、俺は状況をかいつまんで説明する。話を聞くうちに、ロドニーの顔つきがどんどん暗く沈んでいく。



「先輩」



 低く抑えたロドニーの声は、鉛のように重かった。



「ベイロン商会の重要人物を一人取り逃がした挙句、フレデリク殿下を窮地に追い込んでしまったのは俺たちの落ち度です。詰めが甘かったとしか言いようが……」

「いや、そんなことはないだろ。お前たちはよくやってくれた。物的証拠が少ない中であいつらを一網打尽にできたわけだし、何よりアスタの誘拐を食い止めることができたんだし」



 励ますようにわざと明るい声を出すと、真横に座る可愛い妻も同調する。



「そうですよ、ロドニー様。だいたい、逮捕を免れたなら改心して更生すればいいものを、逆恨みするなんて性根が腐っているとしか言いようがありません。しかも恨むなら、商会幹部の一斉処刑を決めたアンドゥーネ王家を恨めばいいじゃないですか。それなのに我が国に矛先を向けるなどまったくもって理解に苦しみますし、そもそもの話、処罰を受けるだけの悪事を重ねてきたのですから逆恨みなんて言語道断なのです」

「アスタリド様……」



 ふんす、と鼻息を荒くしながらまくし立てるアスタに、ロドニーは苦笑するしかない。



「今日ここに立ち寄ったのは、お前なら何か詳しい情報を知ってるんじゃないかと思ったからだ。悪いが、また手を貸してくれないか?」

「そんなの当たり前ですよ。むしろ俺たちにも協力させてください」

「ただな、西の塔にフレデリク殿下が軟禁されている以上、あまり目立つ動きはしたくない。ひとまずその『細身の若い男』の情報を集めてくれると助かるんだが」

「もちろん、うちの総力を挙げてかき集めますよ。任せてください」

「できるだけ、慎重にな」

「わかりました」



 獲物を狙うようなずる賢い目をして、ロドニーがしっかりと頷く。



 そのとき暗雲立ち込める空気を一掃するかのように、外からひと際甲高い歓声が上がる。マティアスと遊ぶ子どもたちの声らしい。



「楽しそうだな」



 ふと独り言ちると、ロドニーも表情を和ませる。



「小さい子どもを抱えた女性事務員が何人かいましてね。夫と死に別れたり実家との折り合いがよくなかったりで子どもたちを見てくれる人がいないって言うから、商会(ここ)に連れてこさせたんスよ。そしたらなぜか、みんなマティアスに懐いちゃって」

「だいぶ馴染んでたよな」

「そうなんスよ。はじめはアデラも一緒に相手をしてたんですけど、最近はちょっと体調がよくないのもあって、今はもっぱらマティアスの仕事になってますね」



 アデラとは、ロドニーの妻である。もともとはマティアスと婚約していた子爵令嬢なのだが、マティアスが処分を受けたときに破談になって、次期代表であるロドニーと婚約を結び直したあと結婚に至っている。



「マティアスも楽しそうだったし、存外ああいうのが向いてるんだろうな」

「ですよね。女性事務員たちも俺たちもだいぶ助かってて」

「最近は職業婦人も増えてきたと聞きますし、小さな子どもを見てくれる場所があると心強いでしょうね。子どもたちも楽しそうですし、安心できる遊びの場があるならお金を払ってでもお願いしたいという母親は思いのほか多いかもしれませんね」



 恐らくアスタは何気なく言ったのだろう。なんの気負いも意図もなく、ただふっと思ったことを言っただけに違いない。



 でもそのひと言で、明らかにロドニーの様子が一変する。雷に打たれたように呆然として、それから口を半開きにしたまましばらく動かない。



 そして。



「ア、ア、アスタリド様!」

「え? はい、なんでしょう?」

「その案、採用しちゃっていいスか!?」

「案? な、なんの?」

「子どもたちの遊び場ですよ! 確かにこれは、商売になります!」

「え、そう、なの……?」

「そうですよ! 貴族の方々はどうかわかりませんが、平民は結婚して子どもが生まれても生活のためには働かなきゃなんないスよ。子どもが増えれば夫の稼ぎだけじゃ足りないし、アスタリド様がおっしゃった通り、最近は仕事を続けたい女性が増えてるのも事実なんです。信頼できる場所に子どもを預けられれば安心して仕事ができるし、子どもたちも仲間が増えて楽しいだろうし、社会全体の活性化にもつながる。これは大きなビジネスチャンスですよ!」



 商才に長けた次期代表が意気揚々と宣言する。



 その勢いに圧倒されるアスタが不安そうに俺を見上げるから、俺はにっこり微笑んで「いいんじゃね?」と耳元でささやく。





 かくしてこの数カ月後、クヴィスト商会は「クヴィストこども園」なるものを立ち上げて、マティアスがその初代園長に就任する。



 社会全体の風潮も相まって評判が評判を呼び、こども園が一世を風靡するようになるのはもう少し先の話である。






◇◆◇◆◇






 クヴィスト商会を出たあと王宮に向かった俺たちは、エリック殿下とギデオンの待つ王太子の執務室に通された。



「詳しいことはギデオンから聞いた。やっぱり西の塔に行ってもらって正解だったよ」

「今回はフレデリク殿下のお手柄としか言いようがないな」



 弟を褒められてまんざらでもなさそうな王太子は、それでも強張った表情を緩めることはない。



「建国記念のパーティーを狙ってるようだが、フレデリクの予想通りターゲットは俺だろう。今回、陛下と王妃殿下は出席されるがそこまで出番は多くない。俺のほうが狙いやすいだろうし、俺に何かあれば確実に王家にダメージを与えられるからな」

「フレデリク殿下のメモによると、やつらはアンドゥーネの使節団を装うつもりなんですよね? だったら、使節団が到着次第身柄を拘束してしまえばいいのではないですか?」



 ギデオンがそう言うと、エリック殿下は一層難しい顔をする。



「本物か偽物かの判断ができないだろう? 商会の残党が使節団全員とすり替わるつもりなのか、数人だけが変装して使節団になりすましているのか、だとしたら誰がそうなのか、事前に掴みきれるものじゃない」

「あ……」

「それに、もしも殿下のメモ自体が罠で、到着した使節団が全員本物だったら国際問題にもなりかねないだろ? おまけに残党たちの拘束に失敗したら、フレデリク殿下の身も危険にさらされる。事は慎重に、万全を期する必要があるんだよ」

「そう、ですね……」



 自分の浅はかさを思い知ってか、ギデオンがしゅんと項垂れる。



「とにかく今は、情報が足りなさすぎる。ロドニーが言うには、ベイロン商会の幹部と思しきやつの中に去年の騒動では逮捕されなかった若い男がいるらしい。そいつがフレデリク殿下の言う残党のトップだろうから、ロドニーに情報収集を頼んできた」

「さすが、仕事が早いな」

「拘束するにしてもなんにしても、相手の外見や風貌がわからないことには手出しができないだろ? でも西の塔に潜んでいた商会の残党と思しきやつは顔を覚えてるから、見かけたらすぐに拘束できる」

「え、誰が残党なのかわかったんですか?」



 ギデオンの問いはもっともである。俺だって、一見しただけで殿下の使用人なのか残党なのかを見極められるわけはない。



 ただ、俺にはこの上なく心強い、真実を見抜ける味方がいる。



 明かすことはできないものの隣で慎ましく座るアスタに目配せしながら、俺はふふ、と含み笑いをする。



「俺たちにお茶を出してくれた侍従は、多分残党の一人だろう。殿下の侍従にしては、手際が悪くて手つきも雑だったからな。それと入り口付近で荷物の積み下ろしを手伝っていた使用人二人も怪しいと思う。妙にきょろきょろとまわりを窺ってたし、ただの使用人にしてはちょっと体格がよすぎるだろ」

「……す、すげえ、師匠……」



 ストレートに羨望のまなざしを向けるギデオンと、感嘆した様子で瞠目するエリック殿下。



 なんだか手柄を横取りしたようで、居たたまれなくなった俺は隣に座るアスタをチラ見する。でも可愛い妻は、「さすがです」と言わんばかりの甘い視線で俺を見上げている。



 いやいや、さすがなのはアスタだろうよ。なんでそんなに可愛い顔すんだよ。



 なんて言えるわけもないから、俺は素知らぬ顔でアスタの頬に軽くキスをした。






 (そのあとギデオンとエリック殿下には白い目で見られた)
















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