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”普通じゃない”人形夫人は年上の旦那様に溺愛されている  作者: 桜祈理


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11 第二王子起死回生の一手

〈風の月 九日

  突然ベイロン商会を名乗る賊が複数名侵入し、瞬く間に塔内を制圧した。商会の現トップだという細身の青年は、商会が事実上の解散に追い込まれたことを逆恨みし、処罰を下したアンドゥーネ王家ではなく我がギルサイオン王家に復讐するつもりだと言う。この塔に幽閉されている俺に同情を示し、「協力してくれたら自由の身にしてやる、断るなら容赦しない」とほざいた。俺だって腐っても王族、この国を売るような真似をするわけがない。でも俺は、協力するふりをして逆にこいつらの悪事を暴いてやろうと決意した。


  協力を了承すると拘束を解かれ、塔内では自由に過ごしていいと言われた。押し入ったベイロン商会のやつが何人もこの塔に潜伏している。俺たちの監視も兼ねているのだろう。ここに連れてきた使用人はそう多くはないし、みんな怖がっている。なんとしてでも守らなければ。



 風の月 十二日

  商会のトップがまた現れた。普段は見かけないことを考えると、やつらは侵入経路を確保して自由に出入りしているのだろう。腹立たしい。

  商会のトップに、王宮内部の図面を書くよう言われた。やつらの狙いがなんなのか、はっきりとは掴めない。陛下か? 兄上か? 王宮内部の図面なんて、絶対に外に漏れてはいけない超重要極秘事項だ。どうやって誤魔化そうか、悩む。



 風の月 十五日

  やつらの狙いが、建国記念のパーティーだということまでは突き止めた。そこで何を、あるいは誰を狙っているのかまではわからない。王宮内部の図面を早く書くよう急かされ、焦っている。



 風の月 十六日

  偽の図面を書きながら、この窮地を外部に知らせることを思いついた。本当はすぐにでも兄上に知らせたいが、王宮に手紙を出すとなったら確実に警戒されてしまう。そこでふと、ガルヴィネ先生を思い出した。ほとんど面識はないし、むしろこっぴどく遣り込められた思い出しかないが、あの人なら気づいてくれるかもしれない。兄上に借りた本の真似をして、窮地を知らせる手紙を書く。ベイロン商会のやつらには「いつも手紙のやり取りをしているから、返事を出さないと逆に不審に思われる」と説明した。あっさり書かせてくれたうえ、手紙の中身を確認しても何も気づかなかった。ガルヴィネ先生は気づいてくれるだろうか?



 風の月 十八日

  やつらは建国記念のパーティーに招待されているアンドゥーネの使節団を装って潜入するつもりらしい。王宮内部の図面を書かせようとしているのは、事を起こしたあと速やかに逃走するためのようだ。今年のパーティーは兄上が仕切ることになっているはずだから、狙いは兄上なのか? でもどうやってこのことを知らせればいいのだろう。ガルヴィネ先生への手紙は届いただろうか。



 風の月 十九日

  パーティーが迫ってきて、図面を早く書き上げろと催促されている。最初から正確に書くつもりはなかったが、どこをどう誤魔化せばいいのか。悩む。



 風の月 二十一日

  偽の図面を書き上げた。外から見えやすい部分やパーティーの会場になるだろう大ホール内部などは誤魔化しようがないが、そこからつながる廊下の数や階段の位置などはだいぶ出鱈目である。あいつらも馬鹿ではないしいずれバレるだろうが、時間稼ぎくらいにはなるだろう。パーティーの前に、あいつらの企みを兄上に知らせたい。ガルヴィネ先生は手紙の意味に気づいてくれただろうか?〉





「これ、殿下が……?」



 馬車を止め、一緒にメモを覗き込んでいたギデオンが深刻そうに眉を顰める。



「西の塔に着いたとき、なんとなく変な雰囲気だなとは思ったんですけど……。まさかこんなことになってるなんて……」

「ああ。思った以上にとんでもない状況になってんな」



 アスタも厳しい顔つきで、うんうんと頷いている。



 しかしよくもまあ、あの緊迫した環境の中でここまで詳細なメモを残してくれたもんだ。見つかったらただじゃ済まないってのに、フレデリク殿下のやつ、意外に肝が据わっているらしい。



「ギデオン、お前このメモを持って先に王宮へ急げ」

「え? あ、はい!」

「俺たちもすぐに向かうが、ちょっと寄ってくとこがあるからエリック殿下にそう伝えといてくれるか?」

「え、どこに寄るんですか?」

「クヴィスト商会だよ」






◇◆◇◆◇






 商会の前に着いて馬車を降り、門をくぐると想像もしていなかった光景を目の当たりにする。



 少し開けた敷地内の大きな木の下で、数人の幼子と遊んでいたのはわりとよく知る茶髪の男。



「お前、マティアスか……?」



 俺の声に男は振り返り、そして「あ……」と言ったきり固まってしまう。



「え、ガルヴィネ先生……?」



 どことなく決まり悪そうに笑う、マティアス・クヴィスト。



 去年の騒動で、フレデリク殿下やジェラルドとともに処分を受けた現クヴィスト商会代表の子息である。まあ処分といっても、次期代表の座を従兄弟に奪われたうえ、その後は下っ端としてこき使われていると言ったほうが正しいのだが。



「どうして、ここに……?」

「いや、ロドニーに急用があってな。お前は何してるんだ?」

「あの、子どもたちの遊び相手を……。うちの女性事務員の中に子どもの預け先がなくて仕方なく職場に連れてきてた人たちが何人かいて、ちょっと相手をしたらやたら懐かれてしまって……」

「もう、お兄ちゃん!」

「早くー!」



 話していたら、遊びを中断された子どもたちが寄ってきて早く早くとマティアスを急かし始める。



「君たち、このお兄ちゃんとよく遊んでるのか?」



 興味本位で尋ねてみると、集まってきた数人の子どもたちが口々に話し出す。



「遊んでるよ!」

「お兄ちゃんと遊ぶの楽しいの!」

「今、鬼ごっこしてるんだよ!」

「あとで本も読んでくれるって!」



 無垢な笑顔を見せる子どもたちに、ちょっと、いやだいぶ意表を突かれる。



 マティアスって、意外と子どもに人気があったんだな……。



「ずいぶんと懐かれちゃってんな」

「はあ、まあ……」

「いいんじゃね? お前、学園にいた頃より余程生き生きした顔してるよ」

「え?」

「少なくとも、俺が知ってるマティアスはもっとこう、しらけた目でやさぐれてたからな」



 マティアスはますます決まり悪そうな顔をして、「すみません……」なんて答える。



 あの頃、マティアスと直接話す機会はそう多くはなかった。でも気がつけばいつもフレデリク殿下たちの脇にいて、淀んだ目で佇んでいたマティアス。あんな顔して過ごすより、ここで子どもたちと遊びながら笑って過ごすほうが何倍もいいに決まってる。



 アスタもマティアスと子どもたちとを交互に見比べて、微笑ましそうに少しだけ頬を緩ませる。



「とにかく元気そうでよかったよ」

「はい……」

「ところで先触れも出さずに悪いんだが、ロドニーはいるか?」

「あ、はい、おります。こちらで少々お待ちいただけますか?」



 マティアスは子どもたちにちょっと待つよう声をかけてから、俺たちを応接室へと案内する。



 しばらくすると「先輩! どうしたんスか?」という声とともに、見慣れた人懐っこい笑顔が飛び込んできた。



「連絡くれたら、こっちから侯爵邸に伺ったのに」



 俺の学園時代の後輩で、マティアスの従兄弟でもあり、すでにこのクヴィスト商会の次期代表に指名されているロドニー。



 去年の騒動でベイロン商会の非道ぶりをいち早く察知し、一緒に裏アジトに乗り込んで幹部たちの逮捕にひと役買ったロドニーは、その気安い雰囲気からは想像できないほど怜悧狡猾な側面をも併せ持つ。



 俺の中では『今一番敵に回してはいけない男』である。



「いや、俺たちもちょっと出かけててな。お前に聞きたいことができたんで、急遽寄ったんだ。悪いな」

「そんなの全然いいっスけど……。え、なんですか?」



 なんとなく不穏な空気を察したのか、ロドニーの表情に緊張が走る。



 説明もそこそこに、俺はずばりと切り出した。



「ベイロン商会の残党が現れた」

「は?」



 一瞬驚きを露わにしつつも、すぐに冷静さを取り戻すロドニー。



「あー、まじスか」

「あんまり驚いてないな」

「いえ、そんなことはないんスけどね。でも実は、引っかかってたことがあって」

「なんだよ?」

「去年ベイロン商会の幹部たちが逮捕されたとき、一人だけ難を逃れたやつがいたってことがあとでわかったんスよ」

「難を逃れたやつ?」

「はい。一年前くらいから、商会内で頭角を現すようになっていた妙に品のある細身の若い男がいたんです。そいつはあのとき裏アジトに来ていなくて、だから逮捕されなかったんスよ。そのあとベイロン商会は事実上解散ってことになりましたけど、あれからやつの行方が杳として知れないんです」













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