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3頁目 「汗ばんだ背中が後ろの木に水分を与える」

ごめんなさい。モチベが上がりません。誤字が多いかもです。

「で、俺を咎めたって謝罪のレパートリーは変わんないぞ」


「だからボクは君に謝罪を求めている訳じゃない。今の一連の流れを見てどう思ったのかを聞きたいんだ」


 一連の流れとは、たったいま神崎が後輩の女子から告白を受けた出来事のことだ。好きな相手に思いを伝える、結果神崎は相手を振った訳だが、その行為自体について俺は特に思うところがない。しかしどうやら神崎は俺の反応が気になるらしく、こうして木陰で二人っきりの尋問をされている。


「いやまあ、女子同士で告白するなんて本当にあるんだなーくらいにしか思っていないが」


「そうではない。ボクが彼女を振った事実についてだ」


「はあ? んなもん聞いてどうすんだよ。神崎はあの子のことが好きじゃなかった。だから振った。ただそれだけのことなんじゃねーの?」


「そうだな。結果的に言えばそれだけのこと。それ以上でもそれ以下でもない」


「……何が言いたいんだ?」


 どうもイマイチ彼女の心理が掴めない。言動からするに後ろめたい気持ちがあるかもしれない。だけどそれはもう後の祭り。一瞬でも時が過ぎ去れば後戻りはできない過去の出来事。それでもどこか彼女の歯切れは悪く、顔を俯かせて、指を絡めた親指がもじもじと交互に入れ替わっている。


「君は、恋愛をしたことがあるか」


「それは好きな人がいたことがあるのか。それとも付き合ったことがあるのかで話が変わってくるな」


「前者だ」


「なるほどな。勿論いたさ。あ、これ過去形ね。中学の頃の話だから。つか、高校生の年齢なら、普通は好きな人くらいいたことあるだろ」


「――どんな人だ!? 君はどんな人を好きになったんだっ!?」


 突然に迫られる美顔に驚き、半歩後退りしてしまう。

 目をキラキラさせてどこか嬉しそうな表情……ではない。それはどこか真剣な眼差しで、咄嗟についた付け焼き刃の嘘なんて看破されそうな、穴が空く程の鋭い眼光。


「至って普通の、大人しい女の子だったさ。人は自分には持っていない相手に惹かれるもんだろ? まあ単純に可愛いからとか胸が大きいとかあるかもしれないけど。俺は純粋にその子の事が気になったんだよ」


「……へえ。失礼ながら、君は少しばかり性根が歪んでいる男の子という印象だったが、意外と真っ当な内面もあるんだな」


 顎に手を当て、なにやら納得した様子でニヤつく。

 それについて俺は不本意でならない。


「人を見た目で判断するのはいいけど、もうちょっとマシな観察眼をしたほうが良いのでは?」


「見た目ではない。今までの君の言動や行動を総合的に評価した結論だ。しかしこれは改めなければいけないな」


 外見よりも内面で判断してくれたことに関して思わずドキッとしたが、総体的にランクが下の評価を受けたのは心底、心が痛む。ならば逆にこちらもお前を評価してやろう。

 見た目は良し。これまでの数少ない会話や今までの彼女の行動を含めて判断する。教師や生徒にも好かれ、先の人目につかない出来事でさえもお手本のような振る舞いをした。あ、やべ。めっちゃ良い女だな。


「お前が俺をどう思ってるのかよーく分かったよ。でも、だからこそそんなこと聞いてどうするんだ? 次は神崎がアンサーする番だぞ」


「……ボクはさ、今まで誰かを好きになった事がないんだ。これまでに何度か告白を受けた事があるけど。男の子からも女の子からも。あ、でも女の子からの方が多いかな。ボク、これでも意外と女の子からモテているんだ」


「さり気ない自慢を挟むな。止めてくれ、俺の男としての誇りをこれ以上踏み躙らないでくれ。誇りが埃になっちゃうから」


「たぶん君は、そういうところだと思うよ……」


「……確かに」


 今のは完璧に俺が悪い。

 こればかりは今も相変わらず会話の腰を折る事は抜群に調子が良い。これが俺のコミュニケーション能力の崩壊を加速させている要因の一つと言えよう。脳から送られてくる言葉よりも先に脊髄反射で出てしまう悪い癖。

 神崎の顔を見てみろ。あのクールな神崎がいつにも増してクールになっている。目のハイライトが死んでいると言っても過言じゃない。人の感情を強制的に殺すことに関して長けているこの短所は、アピールポイントとして履歴書に書けば場合によってはぶっ刺さる職業があるのでは。採用されるとしたらそれはさぞ社会に反している職業だろう。


「まあ別にいいんじゃね? このまま大人になっちまったら変に拗らせるかもしれないけど、知らない方がいい感情もあんだろ。好きな人が出来たらできたで己との聖戦が始まるからな。寧ろ羨ましいくらいだ」


「でも何というか、好きな人がいる人って輝いて見えるだろう? 人生が充実しているというか。そのためなら頑張れるというか」


「っは、それが叶わなかったらどうすんだよ。それまで糧としていたものが突如として崩れたら。支えとしていたものが無くなったら何を頼りに頑張るんだよ」


「やっぱり君は捻くれているな。少しはポジティブ精神が無いのか? それは時間が解決してくれるだろう。たかが恋の一つが成就しなかっただけで人生そのものが崩れるものじゃない」


 最もな正論で空腹が満たされるが、何も知らない純粋無垢な乙女にはこの発言が関の山。

 確かに殆どの出来事は時間が解決してくれるだろう。じゃあその殆どの枠から外れた人たちは。その人に今の神崎の持論を説いても果たして立ち直れるのだろうか。感情のシーソーによる傾き具合は人それぞれ。一切戻らなくなったシーソーの傾きを平行にするためには同じ問題の重さで解決するしかない人だっている。

 まさに個を捨てて全を救う思考。だがその考えは俺寄りだ。その思考回路だけは共感できる。


「……そうだな、神崎の言う通りだ。参ったな、またしても論破されたな。口喧嘩最強でも目指してるのか?」


「君が論破されに来たんだろう。人の心はそこまで脆弱じゃない」


「なるへそ〜」


 恐らく、かなり彼女は頑固な性格をしているのだろう。何か絶対に曲げない芯の部分があるような。押しても引いてもブレない強靭な芯が。


 だが強靭であればあるほど、折れた時は修復不可能にまで木っ端微塵に粉砕される。


「ーーところで君は、どのようなシチュエーションで告白されたいんだ?」


「……え?」


「だから、君が理想とする告白のシチュエーションだ。どんな風にされたいんだ?」


 余りにも切り替えが激しい話題の変更に若干の間が空いてしまう。

 もしかして神崎も俺と似た会話のレールの敷き方をするのか。


「いきなりそんなこと聞かれてもな……う〜ん、なんだろうな〜」


 脳みそフル回転で今まで完全攻略してきたギャルゲーの記憶回廊を辿る。自分の理想とする告白のシチュエーション。それに神崎の聞き方は受け身の話だ。もし告白されるならという、そんな経験がない俺にとってはどんな回答を述べても引かれるだろう。


 どうやら直ぐに答えは出そうにないため、シンキングタイムを延長する傍ら、神崎にも聞き返してみる。


「逆に神崎はどうなんだ? どんな告白をされたい?」


「ボク? そうだな……ボクはーー」


 これは、俺の生涯において起こるはずのない状況。

 いきなり俺の方に身を翻した神崎は、徐ろに右手を俺の頬を掠めて後ろにある木に手をついた。


 それは言わば壁ドンに酷似した現象。


「あの、これは一体……?」


「何って、壁ドンさ」


「い、いや、今って告白されたいシチュエーションの話だよな? え、なに、お前強制的に告らせようとしてんの?」


「何を言っている。ボクから壁ドンしといて何故相手から告白を受けるんだーーこれはボクがしたい告白のシチュエーションだ」


 俺は、年齢による平均身長よりも少し高い。よって神崎よりも頭一つ分身長が高いわけだが、神崎はそんな俺を不敵な笑みを浮かべながら見上げ、俺の顎に手を当ててクイッと下げる。

 薄目になった彼女の瞳に吸い込まれそうになり、この一瞬、俺は固唾を呑むことしか出来ない。まるで金縛りにでもあったかのようにーー。

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