10.5頁目 「思い出が刻まれたノートは、時に残酷な現実を突き付けてくる」
夏を知らせる蝉の声が田舎のこの町に鳴り響くこの季節に、花崎さんがお友達として今日もご一緒にお昼を食べていました。
先日、いつもお一人でいらっしゃるところをただ外から眺める事しかできなかった私は神崎さんに相談しました。
『ああ、花崎さんの件はボクもどうにかしたいと思っていてね。どうしようかと悩んでいたんだ。たぶん、ボク一人ではどうしようもできないと思うんだ。でもアテはあるよ。今日ちょっと話してみようと思うんだ』
その翌日のお昼休み、唐突に河野さんが神崎さんに話しかけて来たのです。
『おーい神崎ー! 今お前のスマホに送ったんだけど届いてるかー? 何か名取が黙って神崎に送ってくれって寄こしてきたんだけ、あいつお前の連絡先知らなかったのな』
『あーそういえばそうだったな。ありがとう、河野君』
そして河野さんから一つの録音動画を受け取り、神崎さんはそれを再生しました。
そこから流れて来たのは名取さんと花崎さんとの会話。彼女が実は母子家庭で、レンタル彼女というお仕事をされているという内容。そして、密かに噂になっていた援助交際というものが、実はまやかしであったという事実。
それを聞いた神崎さんは「行こうか」と、私の手を取って教室を出ました。
そんな出来事があって、今はこうして花崎さんは私と神崎さんと三人でお話しする機会も増えました。
あの時、神崎さんがご相談する際に選んだ方が名取さんだったのです。河野さんや他のクラスの中心となっている方でもなく、名取さんにお願いしたのは何かしらの意図があったのでしょう。
ですが、そのお相手が名取さんと知った時、私は少し嬉しかったのです。
それは何故か、と自分に理由を聞く必要もありません。今は叶わなくとも、私ならそうしていたからです。
そして今日の放課後、三人で学校を出たところで何やら周りがざわざわとしていたのです。その渦中にいたのは、生徒会長である荒木さんと名取さんだったのです。
神崎さんが声を掛けたのと同時に名取さんは荒木さんから少し離れました。彼が何をしていたのかは分かりません。ですが、彼が私たちを見たその刹那、私と目が合った気がしたのです。気のせいでしたでしょうか。いいえ、それは違うでしょう。
あの時の名取さんは私を見て怯えていたのです。
その一瞬を私は見逃していたら良かったと、過去の私を嘆くのです。
荒木さんと彼に何があったのかは理解する余地もありません。想像すれば答えは容易に出てきそうではありますが、それは名取さんにとってより苦しめるでしょう。
彼のことでしょうから、恐らく自分を犠牲にして最善の策を取ろうとしたのでしょう。ですから、それ以上のことは考えるのをやめるのです。
誰が何を思ったとしても、夏の虫たちがどれだけ叫ぼうと、彼の過去が掻き消されることはないのですから。
そんな、過去を照らし合わせた今日を思い浮かべながら、私はアルバムを捲っていくのです。
思い出と共に綴られた記憶の断片を映し出すこのノートが、現在と過去の乖離を突き付けてくるから。それを否定するために、私はアルバムに貼られた一枚の写真を撫でるのです。




