魔法少女☆悪役令嬢
「リナベル・ルッドワイズロード、お前との婚約は破棄だ!!」
その言葉に私は溜息を吐く。
リナベルこと私はいわゆる悪役令嬢だ。それも、前世の記憶つきの。
婚約者だった王太子がその手に抱いているのは一年ほど前に転入してきた聖女。純粋無垢な彼女はどうして良いか分からない、という顔で辺りを見渡すだけだ。
そして婚約破棄。前世で読んでいた小説通りの展開だった。
そう、私は前世でハマっていた小説「村育ちの聖女と妖精騎士団」によく似た世界へ転生したのだった。
今はその終盤、今まで散々主人公に辛く当たってきた悪女リナベルが報いを受けるシーンだ。
「お前の性根の悪さにはほとほと呆れたぞ! 貴様は退学だ! このことは私の父、国王も承知の上だからな!」
王太子が高らかに宣言する。
い や 本 当 に 良 か っ た ! !
思わずその場でガッツポーズしかねないところを何とか抑える。危ない、気が狂ったと勘違いされて修道院に送られるところだった。
ともかく、どうにかショックを受けて項垂れるふりをしながら、その場を走り去る。
どうしてわざわざこんなことをしているか、どうして婚約破棄、退学で喜んでいるのかというと。
「リナベル、遅いっピ! もう敵は暴れ回っているところっピよ!!」
甲高い声で小鳥が騒ぐ。
そう、私は前世でハマっていたもう一つの作品「魔法少女リリー・リナベル」の主人公でもあるからだ。
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どうにか悪い妖精を倒し、町の平和を取り戻したあと。人気のない寂れた教会の長椅子に腰掛けて魔法のステッキを眺める。
このファンタジーな世界に生まれ、前世の記憶を取り戻してからというもの、この日をどれだけ待ちわびたことか。
ずっと、「村育ちの聖女と妖精騎士団」の悪役リナベルとしての役割から解放されたかった。
なぜって、二足のわらじはあまりにもキツすぎたからだ。
成績優秀な令嬢として学業をこなしながら、正体がバレないように魔法少女として平和を守る日々。
マスコットは絶望的に可愛げがないし、聖女とは運命的に反りが合わないし、ストレスで胃潰瘍の診断を受けた。そりゃ聖女にも辛く当たる訳だ。
少なくとも「村育ちの聖女」には終わりがあることを知っていたし、誰かの役に立つのは嬉しかったから、魔法少女は続けていたけれど。
そんなストレスフルな日々も今日で終わりだ。
悪役令嬢リナベルは舞台から降りた。これからは魔法少女リリー・リナベル一本でやっていこう。
そう誓って立ち上がった瞬間、教会の壁が崩れ落ちる。
「ここにいたか、リリー・リナベル…………今日こそ貴様を倒してやる」
「その声は…………クロノナイト!」
今日くらいは直帰させてほしかった。
そんな思いも虚しく、瓦礫から立ち上る煙の間から仮面をつけた黒騎士が現れる。彼はクロノナイト。時間を操る能力を持つ、妖精幹部の強敵だ。
リリー・リナベルにとっては長年のライバルとも言える。
前世の世界では、その仮面の上からでも分かる甘い風貌で一番の人気キャラだった。
「せっかくの雑魚妖精をすぐに潰されてしまった。本当に貴様は我々の邪魔ばかりする」
妖精幹部は強力な悪妖精に精神を乗っ取られた人間だ。浄化さえすれば元の性格に戻ってくれるのだが。
「仕方ないわ! クロノナイト、相手してあげる!」
「その意気や良し! 叩き潰してくれよう」
私は短縮詠唱で変身するとステッキを構える。
一方、クロノナイトが右手を突き出し、禍々しい気配を放つ。
「まずは貴様の心の闇を増幅してやる…………っ」
途端、頭の中に嫌だった出来事の記憶が溢れ出す。マジでむかつく聖女とのやり取り、別に好きでもなかった王太子とのやり取り、全て頭を掻きむしりたくなる記憶だ。
これがクロノナイトの能力の一つ。時間を操り、忘れたい記憶を鮮明に思い出させるのだ。
だが────────、
「でも今日からは関係ないし!!!!」
効かない。何故なら、もう私は悪役令嬢リナベルではないからだ。
「………………!? 何? 貴様、どうして闇が増幅しない!」
「それは乙女の秘密! さあ、お返しの時間よ!」
ステッキを振りかざし、真心を込めた光を放つ。
「リリー・リナベル・ベリー・ベル! さあ、愛の光よ、仮面を壊して!」
「……………っ!! やめろーーーーッ!!!!」
教会のある森一帯がまばゆい光に包まれる。煌めきがほどけていった後、残ったのは変身を解いた私と仮面が割れたクロノナイトだった。
「クロノナイト、もう大丈夫よ」
「…………俺は、解放、されたのか」
私が手を差し伸べると、彼は恥ずかしそうに手を取った。
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「俺は、正々堂々勝負がしたかった。だが、王太子は搦め手を使ってきて…………」
「あー、分かる分かる。王太子ってそういうとこあるよね」
夕方。町のカフェでクロノナイト────クロード・ナイトレイとケーキをつつく。
「魔法少女が婚約者だったとは驚きだが…………王太子も見る目がない。国を救うほどの優しき心の持ち主を、悪女と呼んで振って捨てるなど」
「まあ、イライラして聖女様に当たったのは事実だし。お互い様って感じかな」
クロードは元々妖精騎士団の副団長だった青年で、王太子にその座を追われたことが原因で心を支配されていたのだった。
彼に自分の正体、つまり王太子の元婚約者であることを明かすと、途端に王太子と聖女の愚痴大会になったのである。まあ、お互い悪役だった訳だしね。
「…………本当に、面倒くさい相手だったわね」
「ああ」
「だけど、もう囚われなくていいの」
「そうだな」
クロノナイトの能力は、彼自身も蝕んでいた。何度も昔のことを思い出し、苦しんで後悔しながら生きてきたという。
そこに救いの手を差し伸べた私に、クロードは大層感謝してくれているようで、何度も私のことを褒めてくれた。
クロードは自分の艶のある黒髪をぐしゃりと揉んで、おずおずと切り出した。
「…………もし良ければ、またお茶をしても良いだろうか。改めて、救ってくれたお礼をしたい」
「ええ、楽しみに待っているわ」
少しだけ胸が高鳴るのを感じながら、私はクロードと別れ、お父様に怒られに家に帰るのだった。
そして、後日王城で行われた舞踏会でのダンスバトルでクロードと一糸乱れぬ連携を披露し、王太子と聖女のコンビを粉砕したのはまた別の話。
新作書きました↓
我が家は代々悪役令嬢〜婚約破棄されるのがお役目なのに王子の器がデカすぎる〜
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