97ー冒険者は歯ごたえのある依頼を受けたい4(太陽視点)ー
非常に楽しかった! グレイブドラゴンとパルチザンドラゴンの群れの討伐依頼は、かなりいい結果に終わったよ。数頭逃げたけど、これは事前に言われていた。グレイブドラゴンやパルチザンドラゴンはオオトカゲの中では賢い種になる。劣勢になれば逃げる程度の知恵はあり、仲間を裏切り上位種から逃げ出す所があると聞いていたんだよ。だから、メルバさんの存在には助かった。メルバさんの的確な狙撃により、多くを撃墜してくれたからね。
ご主人様に用意してもらっていた亜空間収納ガレージバッグへ、持ち帰れそうな遺骸だけ持ち帰ってきた。
残念ながら素材として使えない遺骸もあったので、使える部分だけを選別して持ち帰っている。オオトカゲ系の魔物は、そこそこ手に入りやすい良質な素材を多く得られる。鱗や皮、肉、骨、牙、爪、翼膜、甲殻、眼球、諸々の臓器など。場合によっては毒腺や火炎嚢など、種毎に得られる特殊な臓器もある。
「それでどれぐらいの巣の規模だったんだ?」
「どれぐらい……。かなり大きかったですよね? 二段階存在進化個体まで居ましたからね」
「はっ?! ジャベリンドラゴンまで居たのかッ?!」
「いましたよ。僕が一刀両断しましたけど」
うん。ここのギルマスのガッツおじさんも、ご主人様みたいに“勘”のような物が働くのかもしれない。ガッツおじさんも早くこの件は片づけねばならないと切羽詰まったから、僕を勇者として動員したのだ。国から勇者を借り受ける為の料金はけして安くはない。僕とアカメ一号君との間だから、以前の宰相のようにがめつくふんだくったりはしないけど、それでもかなり高いと感じた。
今、ガッツおじさんもアカメ一号君に凄く感謝している。
ワイバーン亜種のグレイブドラゴンの上位種がパルチザンドラゴンと言うのは説明を受けていた。グレイブドラゴンまでは近接戦闘が主戦闘で、パルチザンドラゴンから魔法攻撃を行うようになる。その分だけ危険度も高く、招集される冒険者のランクも上がってくるのだ。そして、さらにその上の上位種となるジャベリンドラゴンともなると、準特級災害指定種となる。
今回の討伐成果はグレイブドラゴンが129体、パルチザンドラゴンが32体、ジャベリンドラゴンが1体。ギルマスのガッツおじさんは僕達の戦績を聞いて、疲れたような表情をし、本当にほっとしたような表情をしている。ジャベリンドラゴンは小規模の市街ならば一頭で壊滅させる危険種だ。流石に帝都くらいの都市なら、多少の被害で済むだろうけどさ……。
「それでどれくらい買い取って欲しいんだ?」
「そうだね~。僕達は時間停止のガレージバッグを持ってるから、ギルドの都合に合わせるよ。勇者のレンタル料って凄く高いんでしょ? それを取りかえせる程度にタイミングを見計らって買ってくれれば」
「助かるぜ。じゃあ、とりあえずはグレイブドラゴンを10体、パルチザンドラゴンを3体で行こう」
「あれ? ジャベリンドラゴンは買わないの?」
「そいつは買い取り金が高くなりすぎる。いくら時間停止のマジックバッグがあってもなあ……。いつ買えるかわからない。そこまでお前達に迷惑はかけられん」
残念そうではあるけど、今のハルドエン帝国内部の経済はそれ程状態が良くない。これでも最悪の状態からは幾分か持ち直し、ジワジワと回復しつつあるそうだけどね。この辺はアカメ一号君の大きな成果で、彼の手腕で無駄を削ぎまくり、必要な投資に回して何とか持ち直している。ハルドエン帝国はこれまでの一強時代が長く、友好国が無い。ビックリするけど、一国だけで交易をおこなわずに柱が成り立っていた国家らしいのだ。
まあ、僕はそこまで頭が良くないので、経済の話とかお金の流れとか、食料自給率とかはよく分かんない。だけど、これだけはよくわかる。食料も足りてないんだ。
ガッツおじさんのその辺りも聞くと、食料だけではなく、医薬品や生活必需品の一部が足りなくなってきているという。このハルドエン帝国は内陸国で、外縁に大規模な岩塩鉱床があった領地があったのだが、そこが離反独立。かなり岩塩の値段を吹っ掛けてきているそうで、正直かなり困っているらしい。でも、岩塩はその内問題なくなると思う。アカメ六号君がその方向には頑張っているから何とかなる。だけど、喫緊の問題は食料問題。
「孤児院とか、寄付できるルートとかないの?」
「あるにはあるが……。少し前にセルベリエ神殿の関係者がごっそり抜けたんだ。それでセルベリエ神殿もまともに動いちゃない。だから、陰ながらではあるんだが、冒険者ギルドが食料支援はしてる。裏ルートだがな」
「ふーん。だったら、たくさんのお肉が手に入ったら嬉しいよね?」
「お前……」
「うん。加工肉にしてから運び込むから、立場の弱い子供とか、老人からよろしく」
「……感謝するぜ」
臨時収入のような物で、亜竜の肉や素材が大量に手に入った。正直なところ、魔物の森の魔物の方が上質な感じはあるけど、上位種のパルチザンドラゴンとジャベリンドラゴンに関してはそれと遜色ない。ジャベリンドラゴンのお肉は僕達で食べさせてもらうけど、グレイブドラゴンの肉を加工した加工肉は寄付させてもらおう。お金よりも現物の方がいいと思う。
あと、今回の勇者のレンタル料はガッツおじさんのポケットマネーから出ているらしかったので、アカメ一号君に事情を話して返金してもらった。お友達価格だよね。僕としては歯ごたえのある依頼を受けられたし、お肉がたくさん、素材もたくさん手に入った。これだけで利益は十分。それに……一番の利益は主戦力パーティーの二人が一段階の職業進級へと到達したのだ。今回はメルバさんとマーガレットさん。下級職は有力なスキルや職業補正が小さい分だけ、進級する条件が軽いらしい。
メルバさんが遠距離攻撃系下級職レンジャーから遠距離戦闘系中級職“スナイプレンジャー”へ。
マーガレットさんが補助遠距離戦闘系下級職魔法使いから補助遠距離戦闘系中級職“魔術師”へ。
各々がステータスの上昇と、その分だけ強力なスキルの獲得を確認している。二人とも下級職なので、既にマスタリーまで育てていたから、タイミングも最高だ。このままのペースで次はミモザさんとガザンさんも職業進級して欲しいよね。
「ホントに君はお人よしなんだから」
「そう? こんなにお肉があっても持て余すだけだし、どうせ買い取ってもらうにも時間がかかるならさ。有効活用しちゃえばいいんだよ」
「ははは。君のそういう所は元神殿務めの私からすると尊敬に値するよ。どれ、僕も燻製作りを手伝おう。太陽君は肉のカットを頼むよ。私は燻製釜へ入れていくから」
「ありがとう、ガザンさん」
僕と白号が魔物解体用のミスリル包丁で丁寧にグレイブドラゴンを解体していく。眼球や内臓の一部は錬金術の素材に。内臓の一部とお肉は赤身の強い肉で脂身は少な目。干し肉にするにはいい条件だ。魔物は上位の種になればなるほど上質な素材になるようになる。それは肉も同じ。陸上での運動量からかワイバーンよりも脂身は少な目だけど、パルチザンドラゴンの方は焼肉向きかも。
あと、腸もちょっと面倒そうだけど、マーガレットさんが水魔法で洗浄し、錬金術師のエメラルドさんが処理することで腸詰の皮に使う。その間に僕と白号で次々と食肉解体を行っていった。
美味しいお肉がたくさん。その間に緑号と赤号が綺麗に鱗や皮を剥ぎ、肉を削ぎ落したグレイブドラゴンの骨格標本を作って遊んでいた。あと、白号が現場でなます切りにしちゃった部分も使える場所は同様に使う。同様に使ってどうしようもない部分を軽く水で洗った場所は銀魔労のマルクのオヤツになった。真面目なお兄さんではあるんだけど、遊び心もあるガザンさんは僕達の解体との合間を見て、緑号、赤号と一緒に骨格標本を改造して遊んでいる。見たけど、見なかったことにして、僕はせっせと燻製肉を作っていく。脂身が少ないので、腸詰には向かないかな? いや、他の魔物の肉と合わせて合挽きミンチにして詰め込めばいいかな? まあいいや。その辺はメーラさんと相談して決めよう。
「とりあえず、10頭分でいいですかね?」
「いいと思うよ。燻製釜の方は私が見ているよ。休憩してきたらいい」
「はい。分かりました。ところで……、あのボーンドラゴンのキメラにしか見えない造形物は何です?」
「ミニマムゴーレムってのは凄いよね。命無き構造物であればその位階に従った大きさの器物として操れるみたいだよ」
「もう一体ミニマムゴーレムが来たら、アレも動かせそうですね」
「流石にアンデッドと間違えられるのは困るけどね……」
ああ、その懸念はあるね。まあ、アレはミニマムゴーレムやガザンさんのおもちゃとして保管しておこう。それから余談だけど、パペットマスターのジョブを持つマーガレットさんもあの骨格標本を動かせる。しかし、マーガレットさんはアンデッドを使役することはできない。実はこの世界のアンデッドは不浄の魂がどうとか言う魔物ではない。アンデッド…不死者と言いつつも、不可視の魔物が遺骸に取り付いた存在を総じてアンデッドと言うそうだ。また、死霊術や遺骸などを使役する権能やスキル、魔法などとそういった物は暗黒魔法関連で、また別のカテゴリーになる。
死霊術や呪術師、悪魔使いなどは邪法の使い手として一部の国家では見つかっただけで処刑物。ハルドエン帝国では処刑こそされないが、あまり好かれていることはない。呪術師は使い方次第では有力なジョブだと思うけど、使う術の関係上で忌み嫌われている。また暗黒魔術の研究者である事が多く、それも助長して良い印象はないのだ。
僕達もその類いと間違えられるのは勘弁なので、アレは余程の事が無ければ他の人に見せない方がいいだろうね。
「ガザンさんはどのくらいで進級できそうですか?」
「そうだろうね……。かなりあの条件は厳しいから、回数を数えるのは無理だったし。失敗すれば大怪我だから」
「それなんですけど、もしかしたら僕と協力すればできなくないかもしれませんよ」
「え?」
「ようは即死しないようにしたうえで、斬撃や火炎、雷撃のような尾を引く攻撃でなければいいんです。僕のインパクトスラッシュの空振りをガードしてもらえば行ける気がするんですよね」
「そうなると君にもリスクが…」
「僕もそろそろ盾を使っていきたいんですよ。まあ、大きな小手になるでしょうけど」
燻製肉を作る釜の近くで、僕とガザンさんは実験を始めた。
僕の天職である正義の勇者に最初からある攻撃スキルの“インパクトスラッシュ”は、剣や棍棒などの片手or両手持ちの武器での波動攻撃となる。近・中距離に対して非常に扱い易い攻撃系スキルだ。実はこのスキルは使う武器によって放てる波動の種類が変わる。無手もしくは打撃武器なら打撃判定の波動が。刃物ならば斬撃補正のついた波動になる。葉っぱとかでもいろんな波動が出せるよ。面白いスキルでしょ?
それから数時間、燻製肉の様子を見ながらガザンさんと僕は鍛練を続けた。途中、女大工のミミカさんも参加しつつ、お互いのスキルレベルを上げる訓練を続ける。夕暮れ時になった頃、ガザンさんは進級を、僕は盾の武技スキルの訓練をしている途中にそれは起きた。
ガザンさんには珍しく、盾を構えて僕の方へ突っ込んで来る。これは盾の盾技スキルであるスマッシュストライクと予想できた。だけど、雰囲気が違う。ガザンさんが体に纏うオーラがそんな程度の物ではないと、かなり大きな警鐘を鳴らしていたのだ。なので僕は盾技スキルの“鉄壁”を発動。互いの盾が衝突すると、僕の体にとんでもない重さが加わり、下位スキルとなる鉄壁がめくられた。僕はそのまま、慣性に従い空中に体を投げだしながら背中に竜翼を展開してバランスを取り直す。
「い、今のって……」
「ああ! ガラにもなく興奮してしまったよ! ようやくだ! ようやく届いた! 私も今日から英雄級戦力の一員だぞ! 私は“聖盾”だッ!!」
ガザンさんがついに進級した。上位職はかなり進級条件が厳しいので、進級するまでの緊張感や時間間隔はそれだけ長く重い物だったと思う。今回ガザンさんが至ったのは聖騎士から派生するタンクロールユニットジョブで補助近接戦闘系特級職“聖盾”だ。僕が最初に獲得した剣聖の盾バージョンであるが、剣聖が上級職なのに対し、聖盾は特級職だ。
その違いは習熟何度の高さと、その出現頻度の低さ故。聖盾というジョブは大軍を一人で迎え撃てる防衛戦力と伝記などに記され、人間城塞と言える凄まじいジョブなのである。その真価はこれから存分に見せてもらう事になると思うけど、これは凄い。僕を含め、これで英雄級戦力が二人目だ。これからはより一層頑張って行こう。




