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僕は無難にニューライフがしたい  作者: OGRE
人類種領区域との関わり
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87ー魔物の森の御用商人3(アカメ六号視点)ー

「いやはや……申し訳ない。前半の貴重過ぎる品よりも後半に向かうにつれ、私が商店で扱って来た品に品質の近い物が多く。お時間を取らせてしまい申し訳ありません」

「いいよ。僕としてはちゃんと物の価値を見て、販売のための資料をしっかり作ってくれた方がいいからね。それと僕もアカメ六号からある程度の構想を聞いてるんだけど、そちらとの意思疎通はできてる?」

「はい。なんでもマスタングに支店を作ることと同時に、帝都での販売網を大きく拡げると聞いております」

「うん……六号君、ホントにざっくり説明しただけなんだね? まあ、土地の管理や店の後ろ盾には君がなるようだから文句は言わないけど」

「主殿よ。商売は時世を読む能力が問われます。その時々、その一瞬で大きな差異が生まれる物。大枠の計画はそれでよくとも、細かい枠組みに関しましては、我が全力をもって組み上げる。ホルスト氏を必ず大商会の会頭に持ち上げるため、我も手を抜かぬつもりだ」


 主殿は商売の事に関してはあまり詳しくないと、以前から言っていた。だからこそ、これまでの付き合いの中で外部の商家と付き合いを持とうとしなかったのだろう。商人はモノノ怪の類いと思わねばならない。自らの利益のためには手段を択ばぬ者ももちろん居る。そして、ある程度全うな商売をする商家であっても、どこかしらで質の悪い物と関わっている商家との繋がりがある物。腹の内を読み合い、無理に押さず、かと言って引き過ぎず……。絶妙な力加減が必要になるのだよ。

 時には圧倒的な資金力で圧し潰すのもアリではあるが、今のホルスト商店にはそのような運営体力はない。なれば、我が巧妙な搦め手を組み込んで裏から操作する。ホルスト氏のようなまっとうな商人と、我のような裏から智謀で御す者が必要なのだよ。ぐふふふふ……。

 ホルスト氏の販売網開拓のため、この生産物は無くてはならない。そして、もう一つなくてはならないのが、ホルスト商店を大きくするうえで必ず必要になる従業員だ。我は事前に話をつけ、この拠点内で商売の経験者や興味のある者を選出している。もちろん、失敗が許されないので、気持ちだけではなく実力面も選考の要素に含んだ。その精鋭をここから借り受けることを主殿に報告する。主殿は特に問題ないと気軽に言うが、ホルスト氏の方が恐縮してしまっているな。ここは投資であると考えて欲しいのだが……。


「ホルストさん。実はね? 僕にもお願いがいくつかあるんだ」

「は、はい。可能な限りでしたらばお応えできるように努力させていただきますが?」

「ああ、いや、そんなに身構えなくていいんだ。僕が情報を欲していることは話したよね? そのために君の商会を隠れ蓑にさせてもらたい一面があるのさ」

「隠れ蓑……ですか?」

「うん。僕は種族的なことは気にしてはいるけど、差別はしない。だけど、どこもかしこも僕のような考えの者ばかりじゃないだろ? だから、君も戯れた小さなゴーレム、彼らが情報を集める集積基地として利用させてもらいたいんだ」


 主殿は先行投資にしても過剰な投資となってしまう事に対し、過剰に反応しているホルスト氏を丸め込むことにしたようだな。言ってしまえばホルスト商店の販路開拓と支店の増加は、主殿にとっても都合がいいと思わせることが重要なのだ。

 実際の所は思わせる…ではなく、それが現状行えうる我々の手札となるから頼むのだ。

 我らが主は転生の折りに何やら面倒なしがらみを背負わされ、それが尾を引いて神族と強い繋がりが切っても切れない。それに最近では明らかに主殿へ強大な力が干渉していることが我々にもわかって来ている。それがどのような目的をもっているのかは我々にはわからない。しかし、主殿がその影響により動きが取りにくくなりつつある。……まあ、元から引きこもりガチなお方であるから、大いなる存在が干渉せずとも変わらなかったかもだが。

 主殿は何か本当に取り返しのつかないヤラカシにより被害を受けなければ…この森や近辺から動く気はあまりないのだ。

 だが、外部の情報はタイムリーに得ておくことに越したことはない。それも主殿が心の中に置いている思惑の一つ。情報戦略は重要だ。我々も情報の重要さは身に染みている。だからこそ、我もそれを推すようにホルスト氏へ、様々な案を伝えていく。


「なるほど……。情報を制す者こそが戦場…いえ、盤面を制すと言う事ですね?」

「その理解で問題ないよ。確かに高火力で焼き払えば、勝利という事実には変わらないかもしれないけど……。その勝利で得られる物が減っては本末転倒。むしろ、もぎ取った盤面を焦土にしてしまっては、そこを再開発する投資ばかりが増え、結果的にマイナスになってしまう。それでは意味がない。だからこその情報戦略だ」

「わかりました。私もその策謀に賛同いたします。それを可能とする人員がこの宮にあると考えてよろしいでしょうか?」

「もちろん。今日、爆発してたでしょ? アレはそれを改良しようとして、いろいろ事情が重なったことで起きた事らしいし。ちゃんとその手の人員や手段はあるよ」


 余程ホルスト氏を気に入ったのか? いつもならば食堂にはあまり集まって来ないミニマムゴーレム達がわんさか集まっている。これは余談なのだが、蒼穹の太守リンドブルム氏から聞いたところによると、天王山の大峡谷に居た野生ゴーレムの数がかなり減ったそうだ。もちろん、そちらに居残っている個体もいるらしいが、かなりの数が強化外装を脱ぎ捨て、この拠点に移り住んでいるということである。

 そのミニマムゴーレム達の中には目新しい仕事に興味のある者が多く、様々なことに手を出してみては、自分の好む仕事に従事するようになるという報告がある。このミニマムゴーレム達は外に出たい開明的な連中の集まりと言う事になるわけだ。ただし、ミニマムゴーレムはあのなりだからな。人の界隈で仕事をするには向かないと思うのだが……。

 そうやって我が呟くと、主殿がニヤリと笑う。

 こういった時の主殿はとんでもないことを言い出したり実行するので油断できない。主殿は食事の席から少し離れた場所に、160㎝程の大きさの人型をした何かを取り出した。主殿のストレージは規格外だからな……。何が入っているか本当にわからぬ。


「これは…衣装取り付け用のマネキン人形ですか?」

「元はね。だけど、思い出してみてよ、ゴーレム種の特性を」

「もしや、ユウゼン殿はこの小さなゴーレム達に商店の職員を任せようと言うのか?」

「流石は賢者だね。大当たり。このマネキンのような人形は魔道具でね。たぶん、現状でも僕しか作れないと思うからかなり時間はかかると思うけど、かなり便利だよ。お、ちょうどいいところにホワイトキャップ! 君に決めた!」


 蟻型ゴーレムに跨って食堂に来たらしいミニマムゴーレムの管理統括であるホワイトキャップ。呼ばれたので蟻型ゴーレムに跨ったまま近づいたところを、ひょいッと摘まみ上げられ、マネキン人形の背部にある小物入れ程度の大きさの空間に押し込まれた。

 ホワイトキャップもわけがわからないと大いに喚いていたが、ホワイトキャップに語り掛けるように、主殿が背部の収納スペースにごにょごにょと伝えている。

 その後の変化は絶大だったと言える。ミニマムゴーレムという種族の雌雄の見分けができなかったが、どうやらホワイトキャップは男性だったらしい。主殿が何を伝えたかは細かくは分からぬが、この拠点の管理統括班の制服を纏った少年の影を残す勝気な男性が目の前に現れる。ミニマムゴーレムは魔道具にも介入して操作できことは我も知っていたが……。これは驚きだ。その細工の細かさもさることながら、あの小さな体躯が人族と共に日常生活する程度の事は、容易にできると思われる大きさに変化したのだ。

 ホワイトキャップは怒り気味に喚いていた声を、今度は喜びと興奮の方向へ爆発させている。体の各部を動かし、自身の意志でどの程度まで動かせるのかを試しているのだが……。


「さすがにマネキンがベースだからか、関節可動域が気持ち悪いね……」

「ですが画期的では? 主殿にしか作れないことを除けば…」

「その点に関しては一部注釈があってさ。ここまで巧妙に人族に似せるには僕じゃないと無理。だけど、露出する部分を似せるだけならそれ程でもないんだ」

「なーる。って、事はじゃんニキをせっつけば、おいら達の仲間を皆、人型程度にはできるってことだな?」

「そうだよ。それにもっと言えば、作ることが難しいのはごく一部だけなんだ。だから、僕はそこだけを作る。それ以外をじゃんじゃんの工房で君達が組み上げれば?」

「おー! ユウゼンの兄貴は最高だぜ!! なあなあ、このレベルの外装はどれくらい作れるんだ?」

「う~ん……。君達の働き次第だね。僕が全部作るとなると、一日三体が限界。だけど、僕しか作れない心核とコックピット部分を君達が組みつけできる程度に作るだけなら頑張れば一日1000体は固いね」


 ホワイトキャップの喜びが突き抜けているし、周りのミニマムゴーレム達の沸き上がり方が尋常じゃない。ハンドライト型の魔道具を両手に持ち、何やら不思議な舞を揃って踊り出した。なんだったか? 確かドルオタ?だったと思うが、彼らの戦意高揚の舞だったであろうか? 我はその喜びはよくわからぬが、主殿がホワイトキャップに仕様書のような分厚い冊子を手渡した。あのマネキンを使う上での注意や定期メンテナンスに関してを細かく記した書類だそうだ。ホワイトキャップは錬金術師系の能力が比較的高く、称号の中に“キャプテンゴーレム”という統率能力を上げる物があると言うので、その辺りもヤツラに任せてしまう腹積もりなのだろう。

 ホワイトキャップとしてはそれは前提としていた事柄らしく、上機嫌に食事を頬張りながら主殿の手渡した冊子を読み込んでいる。

 他のミニマムゴーレム達は主殿の足元に集まり、マネキン人形の増産のおねだりを始めていた。我はその辺りには関わりが無いのだが、ホルスト氏はゴーレムがそこまでの能力を持つとは考えておらず、革新的なこの様相に亜然としている。アルスター氏に関しては、もう既にこの拠点で起きる事案にはそれ程驚かなくなっているな。これだけの順応力があるのだから彼も有能なのだろう。


「これで人手は問題ないでしょ? もちろんのこと、教育はそれなりに必要だし、ゴーレムだけど食事はするから人と変わらないけどね。ただ、外部から雇用するよりも安くつくよ」

「それはとても魅力的なお言葉! 人件費は何よりも大きな物ですからね。しかし、ミニマムゴーレムの皆さんはそれでいいのでしょうか?」

「ミニマムゴーレムは基本的に面白い事や目新しい事、それから自分の生き甲斐とかライフワークになる物事を探してるところがあるからね。三食と娯楽の面さえしっかりしてれば特に問題ないよ」


 そうなのだよな。この拠点では各種族の考え方や生活における動き方など、異なるところが散見している。特に人外種においては下位種の時期は本能のまま動くところがあり、後先考えずに動く。しかし、徐々に位階を上げていくと同時に理性のような物が芽生え、連中はその時期により様々な行動をとる。見ているだけならば実に面白いのだが、それを統括するメンバーからすれば面倒なことこの上ないだろうな。

 我々が食事をしている今でさえ、陸上生活を可能にする魔道具を装着したチビやミニのセイレーンが集まってきている。また、自我や理性と言う面では多種族よりも弱いママンドゴラや、ドライアド・オリジンの幼木などは興味は持てど、特に何かをしてくるわけでもない。見て楽しんでいる感覚と受け取っていいだろう。

 この様々な種族が各々に合わせ、各種族で足りない部分を補い合う生活は人類種の文化としては奇異に見えるのだろう。ホルスト氏は食事よりも周囲を動き回る小さき者や、それらを回収していく年長の人外種、人類種ではあるが珍しいサテュロスなどにも驚いていて忙しそうだ。実はそれ以上に奇異な存在が近くに居るのだがな……。少し距離はあるが、魔物の森の太守達が盃を片手に目新しい二人に視線を向けているのだ。


「アレは新しい住民だろうか?」

「いんや、私が来た時は商売がどうとかって言ってたぜ」

「となればついにユウゼン殿が御用商人を抱えて外界と取引を始めると言う事であろう? 美味いかどうかは別にして、外界の酒も仕入れてもらえそうじゃの」

「その辺りはユウゼン殿の裁量次第であろう? それにユウゼン殿は外に出て行かぬようだし。ワシは安心しておるよ」

「ああ、まあそれはな。ユウゼン殿は一度飛び出したらなかなか帰って来なくなりそうだもんな。せっかく部屋まで用意してもらったのによう」

「それこそユウゼン殿の裁量次第じゃろうて。アチキらとはちごうて、ユウゼン殿はまだ体は成熟しきっておらぬからな。今は伏せの時ぞ、大神の」


 ……。主殿にとってはとても重要な話題を話しておるのだが、主殿はホルスト氏と商談に夢中だな。主殿も主殿で苦労多きお人だ。しかし、我も覚悟しておらねばならぬかもしれぬ。……時折、人族の娘から肉食獣のような視線を受けることがあるのよな。はてさてどうなる事やら。明日か明後日にはマスタングを経由し、各都市を巡って行商しながら帝都への帰途に就く。これからが本番である。

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