78ー魔物の森の事を知るためにー
転生から515日。火山の縄張りに住んでいる太守、ゲイ・ボルグさんをボコってから数日。それからゲイ・ボルグさんはかなり大人しくなり、カナンさんを伴って謝罪にも来てくれた。……別に僕は謝られるようなことは何一つされていないが、趣旨としては僕から顔を出させたことらしい。先程も言ったがその程度の事で僕は怒らないし、なんなら僕らが謝るべきなのでは? 僕からすると彼女をボコる計画を立てたカナンさんと僕が謝らねばならないと思うのだが……。まあ、黙っておこう。
できればいろいろなことを聞きたいので、ゲイ・ボルグさんにもいろいろ聴きたい。
特に聞きたいのがゲイ・ボルグさんの縄張りにある資源の話。ゲームなどだと火山エリアって希少鉱石の宝庫っていうイメージなんだけど、実際の所は分からない。その辺りを彼女がよく知らないなら、ザクロさんの縄張りと同様に資源調査を行いたい。そう言う意味でも彼女とはちゃんと話しておきたいのだ。
「いや……。あの拳は効いたぜぇ……。っと、それはいいけど、ウチの縄張りで資源を探すのかい? 火山ってどんなところか知ってるのかい?」
「いや、よくわからないから教えて欲しくてこうやって聞いてるんだよ」
「なるほどなあ。アンタが王の太守と神に認められた理由もよく分かったぜ。んじゃ、とりあえずアタシの縄張りのことをある程度教えてやるよ」
「よろしくなのじゃ!」
「よろしくじゃん!」
「よろしくなん!」
「よろしくなんだな!」
「……なんか五月蠅いのが増えたぞ」
机の下からなんなん一号、じゃんじゃん一号、だなだなペストマスクが顔を出した。その三人組に困惑の表情ではあったが、説明はちゃんとしてくれた。ゲイ・ボルグさんからの説明を聞くところによると、あの活火山の“大炎山”は“火の魔晶石”と“地の魔晶石”が眠っているとかで……。高温の原因は火の魔晶石。それから地の魔晶石の影響があり、資源の関係で言えば魔宝石や魔鉱石の宝庫であるらしい。それから外縁には高濃度の魔素を含む土壌があり、そこには強力な魔物も多数いるとのことで、様々な素材が豊富な場所だと言う事だ。ただし、人類種基準で言えば魔物の森で一番過酷な場所らしいので、資源採取は困難。……だからこそ資源が多く残っているとも言えるんだけど。
これは大当たりだろう。僕からすればアの縄張りで最強の魔物であるゲイ・ボルグさんがあの程度だから、魔物の面での脅威は大丈夫。問題は火山地帯特有の熱される環境だろうけど、それもじゃんじゃん一号が嬉しそうにサムズアップするから問題なさそう。あちらの縄張りにはまだ僕らが得ていない植物などもあるだろうし、特殊な環境だからこその物も、ゲイ・ボルグさんが知らないだけで眠っている可能性も大きい。
それに今なら火の魔晶石を採取する方法もあるし、鍛冶場のさらなるグレードアップのために採取して来てもいいだろう。それから溶岩帯に行けばそこにしかいない魔物も居る。普通は嫌われる類の魔物なのだけど、僕らなら余裕で倒せる。つまり素材の宝庫!
「なあなあ! それよりさ、アンタは大仰な名前してたけど、結局は人型の鬼種だろ?」
「え? まあ、そうだね。固有鬼人種だよ」
「へ~。ここに来てる太守はコレなん?」
「いや、お客さんだけど?」
「マジ?! え? なんでこんな優良物件がお手付きにすらなってないの? え? マジ? 他の太守は正気なんか?」
「……ゲイ・ボルグよ。その辺にしといた方がいいのじゃ」
「カナン姐さんは少し黙っててくれよ! 今いいとこなんだらさ! なあ! ならさ、番としてアタシなんてどうよ? な? 人間型の姿なら割と好かれる見た目してると思うぜえ~?」
何だろう…この展開は……。ゲイ・ボルグさんは確かに粗暴なところはあるが、割といろいろなことを知ってるしそれなりに頭はいいと思ってたんだけど……。露骨に僕を口説き始めた。まあ、彼女も美人だとは思うよ? ツリ目気味で生意気な雰囲気と勝気な性格。それに相まって高校生くらいの外観ながら、かなりいい発育。確かに美人だとは思うけど……。まず、僕は鬼人種でそれなりに欲望に従順な種族ではあるけどまだまだ幼い。前提として僕は進化速度が異常なだけで、本来ならまだまだ幼体の時期になるのだ。だから、仮に気持ちの上で揺れたとしても、ゲイ・ボルグさんが求める僕の遺伝子は得られないんだよね。
あと、自分の背後とか僕と繋がってる太守の皆さんとの関係性とか……。もっといろいろしっかりと調べてから全力で口説いて来るべきだったと思う。
ゲイ・ボルグさんの横ではヤレヤレと両掌を返す似非幼女が居て、さらに彼女の背後には笑顔がとても怖いサンドラさん。がっつり青筋立てているヴィエラさん。両手をワキワキさせながらニタニタしているタマモさん。この3名が既にスタンバっている。
「もう一度言うぞ? ゲイ・ボルグよ。その辺にしとかないといろいろ大変な目に…」
「だ~か~ら~! カナン姐さんはユウゼンを狙ってねえんだろ? なら問…題…なくね? え? 痛っ! いだだだだだだだ! ぎゃああああああ! 頭! 頭割れる!! 果物みたいにわれる~!!!!」
「南無阿弥陀仏……」
「本当に人の話を聞かんバカじゃのう……。では、ユウゼンよ。わらわもペロ助と遊んで来るのじゃ! またなのじゃー!」
ゲイ・ボルグさんはしばらく帰って来ないだろう。だから、僕は今日来ているはずのザクロさんと、僕が長期間派遣していたルバルーの一族や他のピグマエウスドラゴニカの調査報告を聞くことにしていた予定を早めることにした。
まずは今日は既に任意発動型転移陣を通って来ているのは知っているので、彼女が居そうな場所へと向かう。おそらく既にゲイ・ボルグさんとの会談した場所から逃げていたじゃんじゃんの所か、スーパータンジェロ一号の所に居るはずだから。とりあえず大改造した錬金小屋まで向かった。それまでにいろいろ経由したらば、堆肥を運んでいたルバルー達や、世界樹の素材などを運んでいた他のピグマエウスドラゴニカとも会えた。結局、ザクロさんは錬金小屋のスーパータンジェロ一号の作業室で見つけることができた。
メンバーも揃ったので、異界樹の根元に集まって報告会を始める。
いつもなら使わないけど、ピグマエウスドラゴニカの代表達には言語変換の魔道具をつけてもらっている。いつもなら彼らの言語を理解できる妖精族に通訳してもらうが、専門用語や固有の物品名が多く出てくるので今回は魔道具を使う。まあ、ここでなくてもいいのだが……。ピグマエウスドラゴニカはここや世界樹の木陰が好きらしく、ここを希望された。ザクロさん側には側近の二人がおり、僕はルバルーを中心といた、他の四氏族長と並んで座った。
「それでは結構前からしてましたザクロさんの縄張りの資源調査報告会を行います。ザクロさん達がとても気になっている事でしょうから、まずはざっくりした報告から。全5班の際立った調査結果です。かなりの量の資源が北西の外縁側から見つかりました」
「ほ、ホント?」
「ええ。嘘はつきません。しかも我々がずっと欲しがっていた物も混ざっていました。なので、これからは以前よりも食料を多めに出せます。あと、拠点の移転も援助しましょう」
「……ねえ、聞いていい? その貴方が欲しがってた資源って何?」
「魔素遮断鉱石の“アロルライト”です」
それからザクロさんの縄張りの北西方向奥地には、こちらに移住を打診してきた原住民も居た。
これらの点から、ザクロさん達へはそれなりの支援をすることを約束できる。特に大きかったのが先ほど僕が伝えた“アロルライト”だ。この鉱石とアダマンタイト、ミスリルを一定の割合で合金することで、僕が破砕したドラゴンゴーレムのボディに使われていた特殊金属を作るために必要な金属だった。“アロルライト”は別名を“星霊石”と呼ばれ、太古から非常に濃い魔素が時間をかけて特定の石材に定着し変異させた鉱石だ。製錬する必要もないが、“アロルライト”は埋蔵量も少ないだろうし、この段階で見つけられたのは非常に助かった。人間種との取り合いにならなくて本当によかったよ。
それから他にも“ユミニウム”、“カルダホライト”、“精霊石”、“属性魔晶石”などと希少金属や希少鉱石の鉱脈の山だった。これを見つけた時に鉱石神からも何も言われなかったし、使っても大丈夫だろう。それからここに加わる新住民。現在は他のピグマエウスドラゴニカに移住の手伝いをさせているところだけど、その内この拠点に来るだろう。それから鉱石資源だけじゃない。これはどうなるかわからないけど……。
「それからこれは僕が個人的にもらいます。“第八の世界樹アルデラロン”の腐りかけの種です」
「せ、世界樹の…種?」
「そうですね。ゴルゴン族やメドゥーサ族、ラミア族が大昔はエルフ族と戦っていましたよね? その時期の遺物だと思います。かなり危うい状況ですが、僕なら何とかできるかもしれない。なのでもらいます」
「どの道アタシ達じゃどうにもできない物だし差し上げるわ。会議の前に見せてもらった目録からしてもかなり奮発してくれたんじゃないかしら?」
「それは蛇尾の一門に期待している部分があるからです。ここで絶えさせてはいけないと感じたから支援するんですよ」
「ホントに貴方は魔物らしくないわね。でも、貴方のそういう所は好きよ。これからもよろしく頼むわ」
「ええ。こちらこそ」
それから植物系の資源はザクロさん達がほぼほぼ見つけ出しており、目新しい素材はほとんどなかった。あったのは三種類で“ノアールワン”と言う真っ黒いリンゴ。腐っているわけではなく、闇属性の魔素を高濃度で含んでいる毒リンゴ。食べると一時的に三半規管に異常をきたし、盲目や部分麻痺を併発させるヤバいやつ。まあ、かなり限定した生育環境でしか育たないので、めったに見ることはないけど。
次に“ボマーライオン”という外観的には巨大なタンポポ。このボマーライオンは綿毛がしっかりできあがった種の外側に爆発する部分があり、生物を殺して初期の養分とすることで生育する。綿毛には魔物を引き寄せる臭いがついており、下位の野生魔物は意外と引っかかるらしい。北東部の縄張りには結構分布しているのだが、奥地に集中していた。
最後がバンパイアツリー。名前のまんまで魔物や野生動物を捕まえて吸血する植物。以外にも解毒作用が非常に高いそうだ。あと、ちゃんと加工すれば美味しいらしい。見た目は葉が真っ赤で巨大なオジギソウだ。葉の裏側に棘があるので、その棘を得物に突き刺して吸血する。
「その三つの内二つは資料にしか残っていない植物よ?」
「らしいね。僕も資源調査班からその事実を聞いて驚いたし。でも、ピグマエウスドラゴニカ達が感心してたよ。縄張りのあらゆる植物を有効活用するノウハウを持ってることに対して」
「うむ。我らからしても、有意義な書籍を多く持っていた」
「ゴルゴン族は滅びたと思っていたが、これからは霊薬の製作に協力をして欲しい。我ら小竜の一族も無敵ではない。レシピは提供する。……まあ、じゃんじゃん五月蠅い小僧が既に動いてはいるが、経験不足だな。やはり、継代した深い叡智は突発的な天才にも勝ることがある。よろしく頼むぞ」
「我らも滅びに瀕していた。魔物の森の王の元で共に再興を目指そうではないか」
「他の者に全て言われてしまったが、我々小竜の一族は貴殿らの盟友となろう。蛇尾の一門よ。これより、王の太守と共に友好を築いて欲しい」
「それから、族長のザクロ殿。貴殿には我々やじゃんじゃん、スーパータンジェロ一号と共に異界樹の調査も依頼したい。アレも未知の存在だ。我ら小竜も知識提供は惜しまぬ」
資源調査の結果の細かいところはピグマエウスドラゴニカの族長達に頼み、僕はその場から離れた。大まかな希少素材に関しては、僕が何とかしなくちゃいけないから僕の口から報告したけどね……。その他の細々した物の報告は僕ではなく、ピグマエウスドラゴニカの族長達の方が知識もあるし、レポートもしっかりとしていたから。
僕はピグマエウスドラゴニカの調査隊が見つけてきた、腐りかけの巨大な種を再活性させるためにとある場所に向かう。クルオンサータの里にある大地地母神さんの神殿だ。大地地母神さんにお願いするのではなく、僕の聖氣を利用してもらい、死にかけている巨大な種を再活性させたい。
たぶん、彼女にお願いすればできると思う。あくまで僕の聖氣による活性化だから、大地地母神さんの負担にはならないと思うし。
『うふふふ……。本当に貴方は面白いお方なのですね』
『であろう? ワシの言う通り、愉快な男であろう』
『うん? 大地地母神さん、じゃない?』
『お、お久しぶりです。ユウゼンさん。あの、本日はどういったご用件で?』
「あ、いえ、取り込んでいるなら後日でもいいのですけど?」
『ワシらの事は気にするでない。大地地母神に用向きがあるならば願うがよい』
『そうです。私達のような空白の存在など気にすることはありませんわ』
よくわからんが、顔面蒼白な大地地母神さんはそそくさと僕の所に逃げてきた。なんか、苦手な先輩に絡まれてる後輩みたいな雰囲気が滲んでいる。まあ、僕の要件を済ませていいなら、僕が要件を済ませる。“第八の世界樹アルデラロン”の再活性を行いたい旨を伝えた。
しかし、大地地母神さんはクスっと可愛らしい笑顔をした後に、指先をクルクルと回し、アルデラロンの方に金色の粒子を放った。
あれ? 僕の聖氣で再活性してもらうつもりだったんだけど……。まあいいや、僕がポカンとしていると奥で酒でも飲んでいたのだろう二柱の女神が大笑いしているのが解せないが。今度は二柱の女神が僕をロックオンして来た。また新しい神族関連なのかな?




