69ー拠点の増築とエルフ族の移入ー
異世界転生してから420日くらい経過。流石に人口の面で拠点が手狭に感じ始めていたので、資源採取の面では若干マイナスになるのだが、洞窟の拠点がある小山の上部を丸々切り拓くことにした。美観の上で森の部分も残したりはしているけど、これから増えてくるであろう住民のための土地を作った。理由としてはこの小山の範囲はそれ程大きくないと既に分かっていたのと、新住民を受け入れるついでに僕の拠点を人族が住んでも問題ない“街”に作り変えてしまおうと考えたからだ。
僕の拠点には実に様々な種族が住んでいる。人類種に含まれる人族、獣人族、ドワーフ族、エルフ族、小人族、翼人族。魔物に含まれる魔狼系、魔狐系、セイレーン系、竜系、ゴーレム系、魔植物系。特殊グループに含まれる妖精族、魔人系などなど。正直に言って異文化コミュニケーションとかそういう概念なんかすっ飛ばし、異種族コミュニケーションを意識して生活せねばならない。……必ずしも言葉が通じるとは限らないし。
「こ、ここが王の太守様が治められている桃源郷なのですか?」
「あの、ヴィエラさんからどんな説明を受けたかは知りませんけどね? 僕の拠点は多少環境がいいだけの場所です。けして桃源郷ではありませんよ」
「で、ででですが……。せ、せせせ世界、世界樹! 世界樹があります!!」
「どれの事です?」
「え? あの一際大きな…」
「ああ、アレは世界樹ではないですよ。異界樹と言うんです。鑑定魔法は使えますよね? 鑑定してみてはどうですか?」
魔物の森中央のこの場所から見て北方。ヴィエラさんの縄張りのご近所さんだったエルフの集落の内、あれからいくつも面談を行って代表者の資質を測り、こちらとの利害を突き合わせて仮移入の可否を決めた。最初は3つの集落だけを編入させるつもりだったところを、3つの集落の長達が信用できる者や…どこからか情報が漏れ、おこぼれに預かろうとした集落の長の面談を行ったんだよね。結果としては18の集落、総勢1000人を超えるエルフ族を仮移入させることとした。
そのエルフ族側の代表をしてもらって居るのが、リィン・カルツァさん。全18の集落の中でも最年長であり、エルフ族の上位種である“エルダーエルフ”に存在進化している超ご長寿のご婦人だ。見た目はどう見ても30代前半だけど……。本当にこの世界では見た目と年齢が合致しないな。
それからそのリィン・カルツァさんのお嬢さんという、テメリウ・モーテルさんとカレイド・リアナさん。お孫さんのジュゼア・トエルさん、ヒリテス・メルムさん、ファネン・ルルロさん。……さらに下の係累はこの場には呼ばれていない。とりあえず、リィン・カルツァさんが総代表で、娘さんやお孫さんが小集団の統括を行うと言う事だ。
「本当に信じられない居地ですね。まさか、世界樹が4株、異界樹…でしたか? それが1株。妖精族が住み着いてるかと思えば、世界樹の番人まで住み着いているなんて」
「リィン・カルツァさんは知ってるんですね」
「ええまあ……。恥ずかしながら、長く生きて参りましたので。ですが、どちらも長い間、見ることすらなかった種族であったのですよ」
「僕も彼らがどこから来ているのか厳密なところは知らないんですよね。特に妖精族はどこからともなくどんどん増えてますし」
「そ、そうなのですね? それで、我々はどのような職務に付けばよろしいでしょうか?」
「それなんですけどね……。皆で一斉にコレ…とはならないんですよ。とりあえず、見学しましょう。百聞は一見に如かずですから」
とりあえず、僕の拠点でも危険地帯でない場所は、丸一日かけて集団を分けて見学してもらった。外に出ているメンバーも居るので、案内を行うコンシェルの選出に難儀したけど、エルフ族の拠点見学は終わった。一部はお客さんのはずの太守の面々が担当したりもしてるし……問題が無かったかと言えば若干の問題はあったけど……。とにかく無事に?拠点見学は終えることができたよ。
エルフ族の皆さんは困惑しきりだったけど、ほぼほぼ想定通りだったと思う。
何を話しかけても『ぴゃー!』と元気に返答するチビやミニのセイレーン。
〇△×が書かれた看板や最近では顔文字を書いた看板で意思表示するミニマムゴーレム。
意思疎通ができない15㎝以下の妖精や、そもそも言語が異なるピグマエウスドラゴニカ。
なんなん五月蠅い農場の主。
じゃんじゃん五月蠅い錬金工房の主。
だなだな五月蠅い鍛冶工房のペストマスク。
のじゃのじゃ五月蠅いリンドブルム。
そもそも僕という幼児?が拠点の主と言う点に皆さんが大きく困惑していたと思う。
「なんというか、情報過多です」
「でしょうね。なので、ゆっくりと慣れて頂くことをお勧めします」
「お時間をいただけるのですか?」
「僕は魔人に含まれる“鬼人”派生の種族ですが、無理難題を突き付けたり、種族に上下をつけて雑に扱うことなどしません。……真面目に働かない愚図は遠慮なく叩きだしますが、個々人にはペースと言う物がありますので」
「お心遣いありがとうございます。そうですね。皆に伝えておきます」
エルフは集団行動が得意な種族のようで、鶴の一声による挙動の早さには目を見張る。これを活かせば何かできそうな気もするけど、まずはエルフ達の自主性に任せてみたいと思う。あまりにもこの拠点とマッチしないならどこかしらで、その時点から方向修正をかけて行けばいいだろうし。
今回のエルフ達の移入理由は、同族による面倒事を回避するためだ。
僕からすれば彼女らからエルフのコミュニティーが、どのような状態かを知る意味もある。情報を集めるのは当然だし、僕が送り込んだヒノエとキノトとの擦り合わせも必須だ。そろそろクレス隠密班の二人は帰還予定だし。僕は僕ですべきことをするだけだ。エルフ達は長い目を見て行かねばならないのだから僕が今すべきは、ヴィエラさんの縄張りの防衛力強化にある。ペロ助さえいれば何事も無く勝つとは思うけど、もう少し下準備は必要だと思う。
「主殿。ご報告があります」
「あれ? マサムネ、何かあった?」
「はい。主殿が動き回っていた間に天王山の大峡谷へ向かっていましたシズカと太陽が存在進化致しました」
「おっ? という事は中型種以上のメンバーが全員第2段階存在進化したってことか。これはいいタイミングかもね」
「良いタイミングとは? エルフの件、これ以上の何かが起きるとお考えなのですか?」
「考えてるなん!」
「主殿……きゃつの真似はおやめ下さい 」
「考えてるじゃん!」
「お戯れはそのあたりで……」
マサムネに呆れられたので、声真似付きのなんじゃんコンビの真似はやめて、ガチトーンでユグドラシル・エルフ王国がほぼ確実にやらかす前兆をマサムネに教えた。僕は努めて笑顔を作っているが、マサムネは真っ青な表情で僕の言葉に耳を傾けてくれている。仕方ないとは言え、今は超えておらずとも、その内は許せる範囲を超えてしまう事は否定のしようがない事実だ。
悲しいかな……。何事にも偏った考えの者は居てしまう物だ。
神族と親しくしているとこういう時に便利だよね。大地地母神さんから連絡があった。第一の世界樹ユグドラシルの魂核完全移行が完了と同時に、以前の大樹は役目を終えたそうだ。それからそのユグドラシルの変調を引き起こしたのが、どういう伝わり方をしたのか知らないけど、僕が何かをしたかのように伝わっているらしい。碌な調査もせず、完全にその責任を僕に添加し、僕を邪悪の象徴“魔王”だといい討伐作戦を考えているそうなのだ。
僕に神託を降ろして来た大地地母神さんのいい口からして、今回も何か作為めいた物が蠢いている。それが神族関連ならば光神ウィスプライトから僕にコンタクトがあるはず、それがない以上は地上に存在するなんらかの物もしくは者が僕に対して何等かの悪意を持って動いている。だから、今回は割と本気でヒノエとキノトに調査を行わせ、その後に繋がる物にも制裁を…それよりも悪意の度合いが高い場合は粛清、救いようがない場合は相応の力をもって消し去る。
「主殿はやはり人間はお嫌いですか?」
「うん? いや? 人間が嫌いかどうかと聞かれればこの世界に来てからは、割と好きになれたと思うよ。だけど、だからと言って、僕に悪意を向ける人間まで好きになれるかと言えば……無理だね」
「さようですか」
「どうかしたの?」
「いえ、わたくしはこの土地に人間が入って来た時に疑念を感じました。しかし、主殿が受け入れた人間と生活している中で、人間と言うのは必ずしも腐ってはいないと感じましたから」
「ふふふ。そうかい。いいんじゃない? それはマサムネのいいところだと思うよ」
「主殿は……」
「もう一度言うけど、別に人間が嫌いなんじゃないんだ……。ただ! ただ……、僕や仲間に対して悪意を向ける対象を許せる程、僕の器は大きくないんだよね」
僕は戦争、疫病、無差別テロなんかと等列になるくらいには、DQNや食わず嫌いが大嫌いだ。
僕は歩み寄る者に蹴りを入れるような、愚かなことはしない。どんな相手でも一度は話をしてみようとは思うんだ。だけど、僕に対して何の歩み寄りも無く敵視してくるようなクズを、無条件で受け入れられるような仏心はもってない。それだけのこと。それから僕は目には目を歯には歯を……。剥かれた牙には爪を伸ばし、首根っこを断ち切らせてもらう。地球に居た頃の僕はそれだけの力をもっていなかった。だから亀のように引き籠るようになっていったけど、この世界に来た僕には……力がある。
無暗にこの力を振りかざすことはしない。面倒だし。
だけど、この先、相手が踏み込んでくるようならば僕は僕の持ちうる手段を投じ、相応の落とし前を求めるだけのこと。マサムネが考えているような大変なことにはならない。僕は基本的には争いは無い方がいいとは考えているから。だから、ヴィエラさんからの打診にはちゃんと受け答えはしたし、拠点を拡大してまでエルフを1000人くらい受け入れた。
「それは回避できないことなのでしょか?」
「大地地母神さんの話では無理そうだね」
「一気呵成とも言いますが、何故こうも火の手の回りが速いのか……。主殿はその辺りもお考えなのですね?」
「うん。おおよその流れは掴んでる。でも、確たる証拠がない。だから、動かない。少なくとも今はね。……ユグドラシルで情報を集めきって、確たる情報が集まったらば」
「粛々と淡々と処理なされるのですね?」
「そういう事になるね」
マサムネはとても真っすぐと言うか、僕の考えることや受け取る感情をしっかりと受け取り、共感しようとしてくれる。そういう意味ではとても配慮の利いた腹心で、幅広く様々な方面に優秀な人材だ。本当にマサムネが居てくれてよかったと思うところだ。
僕とマサムネが異界樹の前で立ち話をしているところに、ドロンとヒノエとキノトが揃って現れた。これは演出ではなく妖術の転移術式で、“夢走りの術”という術だ。僕も使えるけどあまり燃費は良くない微妙な術である。ただ、あの術は消える際と転移先に魔法陣の出現や発光が起きることもないので、目立たずに移動するのには凄く便利なんだけどね。そのヒノエとキノトが珍しく返り血を浴びていると言う事は見つかったのか?
「珍しいね。君達がへまをするなんて」
「違う。僕らはへましてない。ちょっと面倒事に巻き込まれたからやむなし」
「そうそう。ヒノエの言う通り。報告の前にご主人に一つお願いがある」
「お願い? これまた珍しいね」
「この子に霊薬の投与か異界樹の贈り物を食べさせてあげて欲しい」
これは……毒物かな? かなり容体が悪い。息も弱く、手足の痙攣にもう焦点が合っておらずこのままでは数分ともたずに死に至るだろう。
僕はすぐさま亜空間ポーチから真製エリクサーを投与した。何故二人がこのエルフを助けたのかわからないけど、彼らにも何かの考えがあるはずなのだ。これで容体は徐々に安定することだろう。それだからこのエルフの事も込みで、ヒノエとキノトからの報告を受ける。
そこからはあまり信じたくないことがポンポンと語られ、もう頭が痛かった。エルフという種族はそこまで愚かなのか? それともそこまでユグドラシル・エルフ王国には“間諜”が根深く食いついていると言うのだろうか? 僕は視線で二人に問うたが……。
「「頭が痛いのは分かる。ご主人の考えてる通りの両方の悪循環がぐるぐる駆け巡ってる。もうユグドラシルは内乱真っ只中だよ」」
「はあ……。これも異世界転生の強制発生型イベントかなんかなのかな? それじゃ、もっと詳しい報告は明日の朝一から聞くよ。ヴィエラさんの縄張りで会議だ」
「「りょ!」」
「御意のままに、我が君」
これは僕が考えていた以上に面倒事の根は深そうだ。こうなってくると、僕が手を伸ばさなくてはいけない国家は……。うん。まあ、これも明日の会議で決定することか。僕は僕で穏便にことが済むように様子を見るほかないんだよね。




