56ー拠点内の珍事? 新たな小さな住民ー
転生後330日程経過。現状に付き合いのある太守の縄張りを回って必要な措置を相談の上で行ってきた。5つの縄張りには任意発動型転移陣を設置。残り1つの縄張りにはまだ、時期尚早と言うか設置ポイントを選出できなかった。
なのでしばらくは任意発動型転移陣は設置せず、相互的にコンタクトを取り合い、必要な取引きを行う。はてさて、そちらは僕ではなくノーマル一号が主体で話を進める。細かく面倒臭い交渉や相談事は僕任せだけど。
こんな感じで他の縄張りとの付き合いを重視しつつだったけど、僕も拠点の拡充を続けている。特に地下階の整備と洞窟の外に作られた外部農園エリアの外側にある居住区の整備をし始めていた。なんだけど、その途中に変な物を見つけたというか……。その変な物が絡んでくる。重点的に拠点の整備をしているのだが、どこに行ってもそれらが存在していて、俺が歩いているとそれらが足元に集まって来るのだ。
「ねえ、なんなん一号。こいつらは何?」
「だから、僕はなんなん一号ではないなん。キャラメル一号なん! ……まあ、質問には答えるなん。そいつらは“ママンドゴラ”なん。マンドラゴラの変異種で歩く根菜なん。可愛いなん」
「いや、可愛いのはいいんだけど、ママンドゴラ? 正直に言うと踏みつぶしそうで怖いんだよね? 一応、自我あるでしょ? 流石にねえ」
「なん? そんなに? 」
そんなになんだよ。畑の周りだけならまだしも、僕が拠点内にいても走り回っている。走り回っているだけなら別に構わんのだけど、足元に集まられて踏みつぶしそうになるのは困るんだよね。最近は『ぴゃーッ!』とか言いつつ半陸上生活をエンジョイしてるチビセイレーンも居る。だから足元注意なんだよね。
その足元注意の割合が増えるとおちおちその辺を歩いてられないのだ。
女王蟻ゴーレムに跨って歩いていれば踏みつぶすこともないので問題ないが、数が増えてくればそれもいろいろ面倒が増えてくる。ママンドゴラの原種は高麗人参。見た目は某ゲーム会社の人参モドキみたいな形をしているんだけど……。若干こっちの方がホラーじみている。任〇堂の方はかわいらしくデフォルメされた感じだが、ママンドゴラは埴輪だ。ずんぐりむっくりしたピ〇ミンの顔面が埴輪になった感じ。鳴き声もないし色合いは耐性によって変わるわけではなく、元になった野菜の色合いそのまま。サイズはマチマチで3㎝くらいから20㎝くらいまでバラバラ。ぴょこぴょこ動き回って人類種の女性を手助けする生活環のようだ。
もしかしたら僕の仕事を手伝おうとしてくれているのかもしれないが、彼らでは力不足というか体格不足だ。僕の作業は基本的に広範囲を弄るので、能力的にも体格的に足りないとは思う。
「それで聞きたいんだけど。植物型変異魔物ってこのママンドゴラだけなの?」
「他にもたくさん居るなん! 僕の自慢の友達なん!」
いや、それって結構な報告案件……。ちょっとこれは目に余るので、なんなんを捕まえてマサムネと一緒に事情聴取することにした。僕がなんなんの首根っこを掴んで連行していくと、マサムネは疲れたような視線をなんなん一号ことキャラメル一号へ向けた。この雰囲気は僕には報告していないだけで、これまでもいろいろやらかしていたのかもしれない。
僕は足元のママンドゴラのせいで作業が滞る事を説明したのだが、マサムネは大きなため息をつきながらさらに疲れを滲ませてキャラメル一号へ視線を向けた。
マサムネが確認しているキャラメル一号のヤラカシ事案は遡ること30日以上前。30日前からだから大したことが無いと思われるかもしれないが、この拠点は魔物の森の中でも非常に魔素の濃い土地なのだ。魔素が濃いと言う事は生物の変異速度も非常に速くなると言う事なのである。30日を軽く見ると酷い目に遭うのだ。
マサムネが知る限りでもそこそこの数の植物型変異魔物を育てていた。
これまで問題になっていないと言う事は管理はそこそこ丁寧に管理しているのだろうけど……。変異魔物の出現は非常にデリケートな話なのだ。危険性が付きものなのもそうなのだが、周囲の生態系にも大きな変調をきたすしで…、そうそう頻繁に面倒事を起こされても困る。そこからは百聞は一見に如かずと言う事で、異界樹の根元にいつの間にやら作られていた強化ガラス温室に向かう。最初はそこで有用な薬草を育てていたらしいのだが……。どこで道が逸れたのか、変異植物を意図的に作り出すことが楽しくなってきて、どんどん作ってしまったのだそうだ。
「ここが僕の自慢の温室なん!」
「ぴゃー?」
「……今、誰が『ぴゃー』って言った? ここにはチビセイレーンは居ないでしょ?」
「あの子なん! 結構序盤で生まれたドライアド・オリジンなん! ドライアドはアランドールの本にも載ってた特定災害指定種の魔物なん! だけど、この子は普通のドライアドではないなん! 普通のドライアドには自我らしき物はないなん。でもこの子は明確な自我をもっているなん」
……特定災害指定種って。今更ながらえげつないもんを生み出したもんだよ。アランドール氏の著書からの持ち寄りだから少し古い区分だけど、魔物にも危険度によって階級区分がある。その魔物の危険度はこうなっている。
“神威級” X→SSS→SS→S
“災害級” A→B→C
“特級” D→E→F
“上級” G→H→I
“中級” J→K→L
“下級” M→N→O
……とこのように形式的に15段階の危険度指定区分とされている。
これはアランドール氏が記しているところによれば、世界冒険者連盟とか言う団体が冒険者が集めてくる情報から、暫定的に決めている情報から決められているそうで。それから僕らは冒険者ではないから正直どうでもいいけど、災害級以下の魔物は一つの区分の中に“甲”、“乙”、“丙”の三区分があるそうな。ドライアドはこれらの中で災害級に含まれ、冒険者でもかなり高位のパーティーで討伐に向かう魔物なのだ。
そんでどれがドライアドなのかと思えば、そこまで大きくない。直系15㎝の植木鉢に入っているので、上半身?だけで10㎝くらいだと思う。頭に大きな花が咲いているのと体色が濃緑色な事以外は人の体と何ら変わらないように見える。外観上はね……。
キャラメル一号いわく、この子はツバキの一株が変異した個体で、性格的にはかなり大人しく歌が好き。それ以上の事は今までなく、キャラメル一号がちゃんと世話をしているので、しつけができているのだろう。
「ドライアドはこの子を含めて10本だなん。そんで奥に居る子が植物型妖精族のニンフダフネなん。まさか妖精族がこうやって生まれてるなんて初めて知ったなん。心なんなんなん!」
「特定災害指定種が十株? 植物型妖精族ってなに? ちょっと情報量が多すぎるんだけど……」
もう面倒なので、一つ一つ見るのではなく、リストアップしてもらってヤバそうなやつだけ確認した。管理者としては当然のことだと思うんだが、キャラメル一号が意図的に作り出したと思われる植物型魔物や妖精族?などは全て危険性は無し。全個体がキャラメル一号としっかりと意思疎通が取れることも危険性を薄れさせる要因となった。しかし、災害級の魔物やそれに近似する強力な魔物や妖精族の出現を僕に報告していなかったのは問題だ。
小一時間程お説教し、このたくさんの小さな住民の事に関して展望を問うてみることにした。
キャラメル一号は能天気でのほほーんと生活しているが、彼自身はちゃんと利害を考えていろいろしているのだ。そのキャラメル一号が何も考えずにこれらを作り出したのではないと……思いたい。その点に関しては、事後報告となるがキャラメル一号からのプレゼンテーションを受けた。
植物型の魔物と言うのはそこに生育しているだけで土壌環境を好適にする能力を持ち合わせる種が多いらしい。ただ、そのほとんどが自我を持たないので、土壌環境をよくすることを本能的に行うだけの存在となる。そうなってしまうと野生動物や魔物などと近寄る生物を片っ端に殺す危険種となってしまうが……。
「僕が生み出した子達はちゃんと自我を持つ子達ばかりなん! その理由も大枠は確かめてあるなん! もう少しでその確たる範囲や数字、栽培環境を定義づけることができちゃうなん!」
「それって災害級の魔物を自家栽培できるってこと?」
「そうなん! 流石ご主人なん!」
「その技術はここからの持ち出し禁止で……」
「大丈夫なん! そもそもこの拠点内じゃないと成立しない条件なん! ご主人が居ないとダメなん!」
何故に必要絶対条件が僕なのだろうか? ……と、一瞬だけ首を傾げたが、直ぐに理由に思い至った。僕が体から放出する余剰の魔力や聖氣が原因なのだろう。キャラメル一号曰く、僕とペット部隊、サンドラさんとカナンさんの竜の太守クラスになると、周辺の生物に影響を出し始めるそうだ。その中でも僕の影響はかなり大きいそうで、僕の周りに小さなママンドゴラが集まってくるのは、成長のために僕の体から漏れる余剰魔力を空気中から吸うため。言わずもがなだけど、一番濃度が濃いのが僕のまわりだからね。
……それなら他の動物系魔物にも変化があるのでは? と考えたが、動物系魔物の場合もキャラメル一号がレポートに纏めていてくれた。『ついでなん!』といいつつこの心配りには助かった。
なんでも植物の魔物化と動物の魔物化では魔素吸入量に大きな差があり、植物型は呼吸や給水で多くの魔素を吸入できる。普通ならば動けない分だけ、環境からの直接吸入が動物よりも効率よくできるようだ。しかし、動物は魔素を多く含んだ食事を高頻度で行う事で魔物化が促成され易い。もちろん呼吸などでも魔物化は起こるが、それはあまり効率の面で良くないとレポートには書かれていた。
ようは吸収する場所が限定されている動物型の方が魔物化はしにくいが、彼らは動ける。動ける分だけ魔素を多く集めることができること。植物は動けない分だけ全身で吸収が可能なのでその面では効率は高いように見えるが、その定点の魔素濃度が薄い場合はいつまでたっても魔物化はしない。そう言う事になる。
「なるほど……。つまり、この拠点の食事をとるだけで、ここに集まる野生動物も魔物化し易くなるってことか」
「植物魔物の事から推察するとそうなん! あと、ご主人がこの土地の太守になってから、この中央の縄張りの魔物の密度が急激に上がったなん。その点から考えても僕の考えは間違ってないと思うなん!」
「……この知識はマジで外に出しちゃダメなヤツだね」
「そうですな。主殿から漏れだす漏出魔力がある事が前提とは言え、それを疑似的に行う事は可能でしょう。これほど効率的とは言いませんが、魔物の上位種を人為的に育てることが可能になってしまう知識です」
「それは否定しないなん。だけど、どう考えても現実的ではないと思うなん」
僕の漏出魔力を間接的に摂取することで、魔物化が促成されたり、下位種の魔物が強化されることが判明した。魔素密度計を使って細かくグラフ化したレポートを見せてらったが……。確かにこれは机上の空論だろうと思ってしまう。理論上は可能でも、それを可能にするにはコストパフォーマンスが最悪っぽい。最初は野生動物を人工繁殖しつつ、魔物化させることで主に人類種の軍事力強化を心配したが……。下級の魔物でさえ、その魔物を作り出すのにかなりの量の魔力が必要になる。人類種がその魔力を収集する方法は限られるし、それを行ったところで利益が出なければそのプロジェクトを興した意味がない。
それくらいは僕にでもわかるので、かなり安心している。ただ、僕がこの土地から外に出る考えはさらに小さくなったな。僕とその土地を管理する者が友好的ならば赴く程度はするけど、異世界ファンタジー定番の世界旅行なんてことは心の隅からもフッと霧散した。
とりあえずキャラメル一号へはこれからこういう事をする時は事前に言うように強く言い含める。それから生まれてしまっている植物型魔物達の事は責任を持つしかないので、キャラメル一号にしっかりと管理監督するようにとこれも強めに指示。ほぼ命令だ。少なくとも管理不可能な魔物を大量に作り出して住民に害が出るなんてことは無いようにしてもらわねばならない。
「それは言われずともずっと気にしてたなん。僕も自分が生み出した子がこの拠点で悪さするのは望まないなん」
「いや、君がそう思っていてもそうならない場合があるからね? そういうのも考えてくれよ?」
「りょーかいなん。今度からほうれんそうをもっとしっかりするなん」
今回は盛大にやらかしてくれたが、有益な知識も多く見出してくれていたのだ。その功績と相殺してお咎めは無し。ただ、いろいろ対策して欲しい事は多いので、その辺は急いで欲しいと思う。まずは僕の足元に集まるこのママンドゴラ達を何とかする手立てを考えて欲しい。




