39ー王の拠点の新体制ー
転生後240日、八か月が経過。僕も存在進化して日々身長が伸びて嬉しい限り。そんな僕は本日も新住民の定着具合を見て回る。楽しい楽しい見学タイム。錬金小屋から一部のメンバーがついてきているが、おまけと言う事で問題なし。これから見に行く場所にはレオパード部隊に似ているが異なる種族のファットテール部隊の面々が居る。
鍛冶場に顔を出すと、灼熱を放つ炉の前でホワイトアウト班のメンバーが異種独特の服装で、独自開発したであろう金属加工を行っていた。
僕の記憶からよくわからん部分をサルベージしたのか、被り物はペストマスクで纏っているのは強出力冷却ファン付きの防護服だ。厚手の手袋や安全靴などすべてが僕の記憶からの持ち寄りの様で、色合いとデザインこそ合わせているが見た目は超珍妙……。作業はし易そうだけどね。
「ん゛? ごじゅじんだな?」
「あ゛ッ! ごじゅじんっ!」
「ぼびでばぜー!」
いや、歓迎してくれるのは嬉しいけど、マスクを取ってくれないとよく聞き取れない。ちょうど作業の切れ目だったのか、炉から離れたファットテール部隊のホワイトアウト班が揃って、ペストマスク風の強出力冷却ファン付きガスマスクを取る。首元にファスナーがついている形で、ファスナーを取るとフードのように後ろに降ろせる。
ホワイトアウト班が行うのは精密な機械部品の鋳造。それから一部の特注鍛造製品を作っている。基本的に完成品ではなく、錬金術部隊から受注した金属パーツの生産が主体。一点物を作ることはこの環境下なのでほとんどないのだが、ここ最近はそれも必要になっているので、量産品と一点物の両方も製造しているらしい。今は人族の女性達に配備する護身用のショートソードと、採取道具となる数打ちのナイフ生産をしている。一点物は基本的に戦闘を主任務にするメンバー用の物だ。ハルドエン帝国から来た聖騎士や神殿騎士のメンバーへ出す武器となる。使いこなせない人に上質な一点物を出す必要は感じないんだよね。人族の女性達もそれで納得していたし。
さて、ファットテール部隊ホワイトアウト班なのだが、彼らも存在進化し人の幼児のような見た目の新種族へと進化した。外見はほぼほぼレオパード部隊と変わらないが、若干違う所がある。ファットテール部隊の面々の額には一本か二本のツノが生えていた。おそらく男性が二本、女性が一本。
「ここにご主人が来るのは珍しいんだな! 今日はどうしたんだな?」
「新住民の定着具合の確認と、君達みたいな存在進化したメンバーの様子見も兼ねてるよ」
「おお! 顔見せ嬉しい! あたしら完全に空気だから、たまには会いに来てくれると嬉しいよ!」
「そうだべ。基本的に鍛冶工房に籠ってるから、ウチら完全に存在が空気なんだべ。たまには遊んで欲しんだべ!」
遊んで欲しいと言う要望は別として、確かにたまには顔を見せないといけないかも。
存在進化したファットテール部隊は“創万童子”という童子鬼系新種族へ昇華。スキル構成は物作りに特化し、物理的に様々な場面と場所に能力を用いることができる。個人の伸ばしたステータス方向に生産能力も傾き、ホワイトアウト班は肉体が頑強でがっしりとし、レオパード部隊より一回りは大柄に見える。
それから僕に興味を持って集まって来たのはこの鍛冶工房で真価を発揮するであろう種族、ドワーフ族の面々だ。ここには今回移住した人族の女性は適さず、違法奴隷として落されていた亜人の中に居たドワーフの少女から女性の六名がここに配属された。ホワイトアウト部隊が嫌がらないところを見ると、彼女らもそれなりの技術力があるのだろう。服装は流石にペストマスクと独特な防護服ではなく、薄手の長袖にオーバーオールと皮手袋、安全靴というユニフォームだ。
「ドゥエトさん。この工房には慣れましたか?」
「すまんねえ。こっちから顔出さなならんのになあ。よっこらせいっと。この子らもアタシらを信用してくれてんのか、待遇もいい。ここにきてよかったとアタシは思っとるでよう」
「それは何より。必要な物や施設、生活の上でのアレコレがありましたら、先住組の誰かに知らせてくれればある程度は揃いますから。これからも頑張ってください」
「あいよッ! 全力で務めさせてもらうがや!」
ドワーフ族の男性はずんぐりむっくりで低身長。まさに筋肉だるまと言う感じで、顔も強面。ここに居るドワーフは女性だけだけど……。ドワーフの女性はその個々人で大きく差が出るらしく、年齢的には大人なのだが、ロリッ子だったり、普通の人族と変わらない生育度合いの人物も居たり、ドゥエトさんのように見た目は中学生くらいなのだが、50歳を超えているというタイプも居る。
ドワーフは体内に内包する魔力にムラがあり、内包魔力の多いドワーフはロリタイプに傾き、少ないタイプは人族に近くなる。だからと言って鍛冶作業の腕にそれが影響してくるかと言えば、それは必ずしも影響せず本人の努力次第。特殊な鍛冶工程になれば話は変わるが、あまりにもロリッ子過ぎても鍛造作業などの体格が必要になる鍛冶作業には向かない。ドワーフのリーダーをしてくれているドゥエトさんのような中学生くらいの外観が一番いろいろな作業に適していると言う事だ。
実はドゥエトさんは“鍛冶の神”からかなり強力な加護を受けている。だからこそ目をつけられて拉致され、奴隷に落されてしまったわけだが……。ここに来た時に調べたがドゥエトさんは魔剣の鍛冶師だ。それなりの設備が必要になるが、ドゥエトさんは年齢分の経験と研鑽から鍛冶師としても一級品。加え、この拠点には希少金属が山のようにある。彼女が他のドワーフの女性を教え込むことで、様々な加工職として能力を高めて欲しいと僕も思う。
「おーい。ノーマル組い! ご主人来てっぞー!」
「あん? おう! 旦那! 次は何を建てるんでい?」
「いや、今日は新住民の定着具合を見に来てるんだよ。あと、進化した君達の様子見もあるんだ」
「なんでい……。建物は造らねえのか。まあ、いいや。俺らは何の問題もねーぜ」
「うん。それは分かってるけど、君が抱えた弟子の女の子達はどうなの?」
「ああ、連中な。今は製材の基礎をノー子とマル子が手取り足取り教えてる。俺は厳し過ぎて追い出された」
「なる……。君は頑固一徹だからね。製材の基礎ってことはまだまだ現場まで出るには時間がかかりそうだな」
ノーマル一号は建築を一手に手がける拠点の棟梁だ。その分いろいろな面に厳しいところがあり、ノーマル班の建築関連事業に興味を持った女性達にもちょっと合わなかったところがある。まあ、それはそれで仕方ないところがあるので、ノーマル班のノー子とマル子が教育係となって、ノーマル一号は外側からその様子を見ている感じに落ち着いたそうだ。
これも一つの形なんだろう。
ノーマル班に弟子入りしたのも全員女性だ。種族としてはほぼほぼ人族。少数ではあるけど、小型獣人種がこのノーマル班の管轄に入った。ほとんどが加工などの労働に従事したことが無い夜の蝶。獣人種の女性達も馬力は人族よりもあれど、元夜の蝶。つまりは全員が未経験……。ここに来た経緯から覚悟は相当な物だが、長い目で見ないといけない。それは僕でもわかる。
工房の奥で一番の基礎である木工の基礎を習っているところだ。鋸引きや鉋掛けなどの製材作業からのスタート。手にマメを作っているし、慣れない肉体労働だ。習熟には時間がかかるだろうが、長い目で見なくてはいけない。タイミング次第では僕も教えることになりそうだし。僕も厳しくし過ぎないように覚えとこ……。
「俺は口調が厳しいってんで、現場から弾かれちまったが……。あの娘っ子たちの努力を評価してないわけじゃねー。そろそろドールハウスを作る段階だろうからな。俺もどんな物を作るか楽しみにしてるぜ」
「ドールハウスって……。物置くらい作らせてあげないのかい?」
「ドールハウスにはドールハウスの需要があるからな。小さい妖精族の家だ」
「ああ、そういうことね。でもいずれは大きな物も作らせるんでしょ?」
「いんや。俺の考えは少し違う。獣人族の娘っ子はまだしも、人族の娘っ子にはかなり時間がかかると思ってる。こればかりは時間をかけて体を鍛えなくちゃならん事だ。早仕事は怪我の元。それは教育も変わらん。だから、人族の娘っ子には家具、調度品、建物の装飾、彫刻なんかを先に学ばせるつもりなんだ」
「うんうん。そう言う事ね。それなら君達に全て任せるよ。僕にも何かあれば頼ってくれていいから」
「おうッ! そんときゃ遠慮はしねーかんな!」
ファットテール部隊の二班はこんな感じだろう。ファットテール部隊の残りの一斑は個々人がバラバラの場所に居るから後回し。ファットテール部隊キャラメル班程に自由にあっちこっちに動き回ってる連中も珍しいからね。実は他にもこの洞窟内の生産道にはいろんな作業場がある。僕らの物を含めた衣服を作っている“お針子班”も新設された。ここは人族の女性を中心にした新設された班で、これまではスーパーマックスノー班がやっていたが、完全に新設された班に手渡された形になる。
それから日常で使う小物を作る“小物製作班”も絶賛フル稼働。ここもほぼほぼ人族の女性が主戦力の現場で、彼女ら自身も使うしいろいろな物を作っている。ホントに何でも作るから小物班。外使いの小物から屋内使いの小物まで本当に何でも作っていた。手先が器用な彼女らにはホントに助けられている。
一応、人族の女性達にも声をかけ、洞窟内の生産道の見学は終了。お針子さん達は僕を見つけると着せ替え人形にしたがる。あまり長居すると捕まえられてなかなか逃げられなくなってしまう。それは小物製作班も同じ。僕をどうにかして捕まえたがるのであまり長居はしない方がいい。なので声をかけるだけで逃げるように洞窟の最奥にある中央ホールへ。今はここは集会所のような使い方で、その奥にあった僕の部屋も外に内容が漏れては困るような会談をする時に使う特別室としてつかっている。その週形状の隅に下階へ降りる会談と、大倉庫へ繋がる迂回路が……。こんな面倒なリフォームをした理由ももちろんいろいろあるんだけど、とにかく下階へ。魔の手が迫ってるから。
「ん? あれ? ご主人なん。どしたなん? ここに来るのは珍しいなん」
「君も今日はここにいるんだね」
「そうなん。人数も増えたことなん。人手があるなら作物も増やせるなん! 美味しい実、美味しいお肉を作るなん!」
「キャラ子とメル子はいつも通り?」
「キャラ子は今日は醸造蔵でぬか漬けの仕込み作業なん。蝶々さん達を連れて絶賛漬物タイムなん! メル子はギガンテスと相談して増産する酒を選定中なん。これまでは実験的にいろんな酒を造って来たけど、そろそろ欲しい酒を決め打ちして作る段階って言ってたなん」
このなんなんパラダイス脳なのは、ファットテール部隊のキャラメル一号。こんなやつでも一応我が拠点の農業大臣のようなヤツ。自身の能力もさることながら、なんなんうるさいくせに教えるのも上手い。正直、彼の功績はとても大きいと思う。外で農作業に従事している女性をあそこまで仕込んだのはこのなんなんパラダイスだ。
本人が超能天気でスーパーフリーダムでなければ、かなり凄いヤツなんだが…これも彼の個性だろう。いつもは異界樹の世話のために魔晶湖の遺跡ダンジョン最上階にある庭園に居るのだが、今日はその異界樹の力を使って作物を増産しに来ているらしい。異界樹の枝から作ったのであろう古めかしいデザインの木製杖を、なんなん言いながらフリフリして歩き回っている。信じられないことにこの行動だけで、作物の若芽が次々に芽吹き土壌に定着していく。これはキャラメル一号の能力ではなく、異界樹の能力。それをキャラメル一号が杖を介して異界樹に念として送ることで、彼の願った通りに作物の種付けを行うというやり方。普通に頑張っている農家からすると致命傷になりかねないチートに見えるが、アレはアレでキャラメル一号だからできることだ。……実は僕にでもできるけど、そこは言わない約束。一定以上の内包氣量をしてないと、一発で使用者が枯れ死んでしまう。異界樹も僕らに協力しているだけで、もらう物はもらっているのだ。
「相変わらずだな……。なんなんうるせー癖に内包魔力だけは俺らの中でもトップクラスだもんな」
「失礼なん! 僕はうるさくないなん! じゃんじゃんレオパとは違うなん!」
「十分うるさいじゃん……。僕と一緒にお口チャックじゃん」
「マジなん? 素直にお口チャックなん」
どっちも甲乙つけがたい程度にはやかましいが、どちらも仕事はできる。
ファットテール部隊も全員が存在進化し、幼児のような見た目にはなっているが……。その中身は希少鬼種の亜目に分類される新種の存在だ。これからこいつらがどうなっていくかは分からないが、このやかましいながらも優秀な部下の手綱を僕も握って行かなければいけないな。とりあえず、やかましいメンバーはもう少し静かにするように教え込もう。




