35ーハルドエン帝国への報復作戦・四号隊(アカメ四号視点)ー
ぬむん……。待ちぼうけでお腹減った。
僕らはハルドエン帝国の国教であるセルベリエ神教の総本山に潜り込んでいる。この神殿、本当に神殿なのか? と思う程度には対人トラップが多い。僕の作戦はその対人トラップの制御を奪い、神殿に生臭い聖職者を処理してもらう。
「兄さん。別に生臭坊主は本当に生臭いわけじゃないんだよ?」
「知ってる。だけど、変な香水とか酒の臭でめっちゃ臭い」
「……同意」
僕こと四号と一緒に来ているのは五号と六号。年の近い兄弟で全員男。性格的な難もない兄弟だから非常にやりやすい。たぶん三号兄さんの方は苦労したんじゃないだろうか? 三号兄さんの所には問題児の二人が固まったからね。母さんもよくやるよ。もう少し兄さんを労わってあげてもいいと思うんだけど……。
それで三号兄さん達の作戦の方はいいとして、僕達は動かずに早数時間。
なんと言うかターゲットにしている教皇と枢機卿連中なんだけど、思ったより腐敗の度合いが高くて困っている。腐っても聖職者だろうに……。まさか真昼間からお姉さんとよろしくしながらお酒を飲むお店を貸し切って豪遊してるとか思う? 正直、聖職者の風上に置いたら大変なことになっちゃうだろう。あんなのがトップだから教会が腐ってるんだよ。これは長期戦になるだろう…と待ち構えて早数時間。お腹減った……。
いい加減にしてほしい。今、夜の何時だと思っているんだろうか?
この神殿には大きな時計台があり、それで時刻は分かるんだけど、もうすぐ日付が変わるぞ? そんな時間まで聖職者が遊んでるとか……。そんでもってそのお店の女の子をお持ち帰りとかなに考えてんの? アンタの屋敷じゃないんだぞ?
「お腹減った……」
「四号兄さん落ち着きなよ。確かに待たされてイライラしてるし、アイツらは遊んでたのに僕らはずっと待機してたのはムカつくけど、もう少しで作戦が開始可能になるよ」
「うんむ。それじゃやろうか」
「はーい」
「了解した」
普段は無口な六号もイライラしていたのか、彼にしては力のこもった返事だった。
長く無駄な時間を過ごしたけど、これで母さんが教会に籠っている原因も何とかなるだろう。母さんの方はランダムクエストが発生しているのか、室内に居る女性二人を教会から連れ出す作戦を組んでいた。それと同時に宰相派閥や軍事派閥の繋がりやお金の流れ、工作員の準備の仕方をくまなく調べていたんだよね。あの人は本当に時間の使い方が上手い。そんでもって、先に作戦を終わらせた三号兄さんの部隊から八号を抽出して、自分の部下にしたみたい。向こうも動いた。だから、この神殿に用意されたトラップを……腐れ色狂い神官共に叩き込む。
「ぷぎゃ!」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「一人目」
なんで浴場に矢玉を発射する壁面トラップが仕掛けられてるんだか……。飲み屋の姉ちゃんには悪いことをしたかもだけど、色狂いの豚神官はお陀仏。枢機卿の一人を始末完了。
二人目は執務室に飲み屋のお姉ちゃんを連れ込んでイチャイチャベタベタ……。この神殿は色狂いの豚ばかりなのか? 肥えた体つきに悪趣味な装飾品の数々。執務室の割には調度品が豪華すぎるし、何より自分の美化だらけな肖像画なんぞ飾るかね?
今度は飲み屋の姉ちゃんがお花摘みに立ったタイミングでトラップを発動。この神殿ってマジで何を想定して作られてるんだ? 天井がパカりと開いたら中から鎖に繋がれた武器類がジャラジャラと……。言わずもがな豚の部分ミンチができあがった。またも飲み屋のお姉ちゃんには悪いけど、豚狩りはまだまだ続くから悪しからず。
「おー。ここって本当に神殿の宝物庫?」
「絢爛豪華、キラキラテカテカ……神殿には不似合いな装飾品ばかりだな。兄者よ。我は汚職の証拠や隠し財産を接収しにいく、ここは頼んだ」
「え? マジで? 僕一人でこの量を掃除すんの?」
「終わり次第手伝いに来る。では、行ってくる」
「はーい。……にしても、何のためにこんなに金品やら魔道具やらをかき集めたのか。まさか僕を困らせるため?」
五号と六号は大丈夫かな? この神殿はただの神殿っぽくないんだよね~……。この神殿を利用して色狂い腐れ豚神官を狩ってる僕が言えたギリじゃないかもだけど。数時間をかけて色狂い腐れ豚神官を八匹狩ったあたりで、最後のターゲットを探してるんだけど、どこいったんだ? 私室に入ったあとから姿が見当たらな……。稼働する本棚の隠し扉とかベタかよっ!
気配がその中からあるので、中に入って行こう。螺旋階段を降りて行くと空気を劈く乙女の悲鳴。……飲み屋のお姉ちゃんの悲鳴だね。何事も何も無いと思ったが危なかった。と言うか、この神殿の教皇の趣味が猟奇的過ぎるっ!! ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!!! マジでヤバいっ!!!!魔物の僕なのに背筋が凍りついたからね。
間一髪だったかな? 明らかにラリってる目つきの教皇が飲み屋のお姉ちゃんを部屋の片隅に追い込んでいるタイミングで部屋に辿り着いた。
部屋の奥には見れば分かる人類種の女性を剥製にした物が無数に並んでいたんだ。これはマジでヤバい。緊急事態と言う事で悪即斬。教皇の首を特別製のダガーナイフでスッパリ。 返り血を浴びたくなかったから、魔法で凍結させ飲み屋のお姉ちゃんの前に着地。
「た、助けてくれたの?」
「一応ね~。ついで?」
「ついでなのね……」
「うん。でも、無駄に誰かが死んじゃうよりはいいかなーと思ったから。それに……このヤバめな“猟奇変態色狂い腐れ豚教皇”は生きてるだけで害になるだろうし。じゃ、お姉ちゃんは何とかして逃げ……」
「ねえ、貴方と一緒に連れて行ってくれない?」
「ほへ?」
僕が人間とかなら愛の逃避行的なイベントが発生したかもね~。
なんでも彼女は借金の形としていかがわしい飲み屋に売られたらしい。……その飲み屋、三号兄さん達の方の粛清リストに入ってた気がしたけど、まあいいか。恐らく、彼女は店側から教皇に売られた形になっている可能性がかなり高いらしく、このまま店に帰った場合どんな目に遭わされるか分からない。ならば、ついでと言うならそのまま連れて行って欲しいと言う事だった。
成り行きでいろいろお話しする事になった飲み屋のお姉ちゃんことミモザさんと情報交換する。
聞けた話を繋ぎ合わせると、ミモザさんが売られた店…と言うか組織は裏黒い組織と繋がっていて、それと教皇が繋がってる……。これ宰相の資金源じゃね? まあ憶測での話をしていても仕方ないので、宝物庫も兼ねていたらしい腐れ豚教皇のコレクションルームから、ミモザさんにも手伝ってもらっていろんな物を運び出した。裏帳簿とか、隠し財産とか……女性の剥製も一応運び出すことにする。何となくだが、ここに放置するのはダメな気がしたんだよね。
こういう勘のような物は大切にした方がいい。ご主人の勘はよく当たる。僕も……当たるといいなあ。
「それで四号ちゃん。私からもお願いがあるんだけどいいかしら?」
「お願いによる」
「お店の皆とまでは言わないわ。今日、神殿に連れ込まれた子達だけでも一緒に連れて行ってくれないかしら?」
「うーん。あれ? 母さん?」
「お、四号。可愛い子を侍らせてどうしたのさ」
「そんなんじゃないよ。実はカクカクシカジカ……」
母さんは顎に指を当てながら少し考えるような仕草をしたが、すぐにパチンと指を弾いた。こういう時の母さんからはぶっ飛んだ作戦変更が飛び出す。経験からしてそう学んだ。
言わんこっちゃない……。
ミモザさんを助けたのだから、他も助けたらいいと言うのだ。僕の記憶は正しく、ミモザさん達が働いている店は裏黒い組織が運営しており、三号兄さん…厳密には三号兄さんの指示で動いた七号が壊滅させてるはずなのだ。かなり大きな組織であるため、気にして気にしすぎることは無い。神殿に残っている汚い手段で手に入れた品々や金品は残りのメンバーでもなんとかなる。だから、僕がミモザさんを連れてお店で働かされている女の子を助けて来いとのこと。
「母さん……。そんなむちゃくちゃなサブクエスト投げ込んでいいの?」
「いいのいいの。別に彼女達を助けたからと言って何かあるわけでもない。やれるならやっちゃえば? それに“勘”が囁いたんでしょ? そういう勘は大事にした方がいい。母さんは応援しちゃう。グッドラックだぞ」
完全に面白がってるな……。現場に残した五号と六号には悪いけど、僕だけサブクエストに向かうか……。僕は母さんの言葉をミモザさんに伝え、そのまま案内を頼む。
母さんはまた何か思いついたのか? ニヤリと笑ったあとに八号に耳打ちしている。八号も楽しそうにすたこらサーと神殿内のどこかに消えていった。一体何を企んでいるのやら……。母さんの考えることはあまりにもぶっ飛んでるから、僕らには思いもよらない場合が多い。それでいてそこそこの効率を叩き出すから文句も言えないんだよ。振り回されるこっちの身にもなって欲しいが、とにかく僕はミモザさんに急いでもらい、彼女が働いていたいかがわしい飲み屋へと向かった。
~夜明け頃 ハルドエン帝国領北マスタングの街にて~
「それじゃ今いる皆はついて来るってことでいいの?」
「はい。覚悟はできております」
「魔物の森だよ? 君がかなり怖がってた私達のご主人、"魔物の王"が住んでる場所だけど」
「構いません。ここに居る者とは夜中に話し合いました。二号さん達について行かない場合は、二号さんが提案してくださったマスタングの街より前で帰郷しました。他の者は覚悟の決まった者のみになります。処遇は如何様にも」
「思いが重いけど……。まあ、それなら連れてくね?」
結局、母さんの思いつきのせいでなかなかの大集団になっていた。メンバーを連れ込んだ僕が言えた義理じゃないけど、かなりの人数だ。最初に居たのは三号兄さん達が連れ出した違法奴隷の皆さん。次に加わったのが母さんが思いつきで聖女さんに提案した、親しい聖職者達を一緒に逃がしてはどうかと言う言葉から増えた僧侶や聖騎士、神殿騎士の一部。最後に僕が協力し、ミモザさんの横繋がりで逃げ出してきた若い娘さんの集団。ざっと数えただけで500人は居る。諸事情から男性の比率が極端に少ないが、聖騎士や神殿騎士の追加は正直ありがたかった。夜番や周辺警戒の人員が増えたからね。
北方城塞都市マスタングを抜ければあるのは寂れた寒村のみ。この先は人類種が有力な領域ではなく、魔物の方が力関係として強い領域となるのだ。そういう意味でも厳しい土地になるが、大丈夫だろうか? まあ、魔物の森を攻めた遠征軍が駐屯できてたくらいだし何とかなるでしょ。……こんな感じの楽観的な二号母さんの方針で、このまま蟻型ゴーレムに載せてご主人の縄張りを目指す。いつの間にやら王様になっちゃってたご主人。僕らの仕える人はとてもビッグになっていたらしい。体格は小柄だけど。
「ねえねえ、四号ちゃん。貴方のご主人様ってどんな人なの?」
「うーん。一言には難しいんだよね。まず、僕が魔物だから判ると思うけど人ではないよ。ただ、人型の姿をしてるから一見するだけなら人の子供に見えるかも」
「子供? 小柄なのかしら」
「うん。それなりに小柄だね。だけど、ご主人は凄く頭がいいし、とっても強い。勇者だって一捻りだったし、魔物の森に元から住んでた大物達が従うような存在だよ」
「ギャップが凄いわね……」
なんでか知らんけど、飲み屋のお姉ちゃん達に囲まれている。確かに僕らもまだまだ愛らしい見た目かもだけどさ……。いつかは進化して大柄になるかもしれない。僕もペロ助ニキみたいに逞しい雄になりたいと思っているからね。それに僕らもそろそろ進化すると思うのだ。しばらく進化してなかったけど、今回の潜入任務でそこそこの経験値入ったはずだ。
直ぐにとは行かないだろうけど、僕もかっこいい雄になりたい!
まあ、まだ、マスコットキャラクターみたいな扱いだけど……。よく見ると僕以外の兄弟姉妹も女性達に可愛がられていた。二号母さんは陽光の聖女ミレアム・シンシレットさんと、これからについてを話しているらしくフリーだけど……。まだまだ感性の幼い七号と八号は可愛がられているのが嬉しいようで、楽しそうに話しているが……僕と歳の近い兄弟は全員が微妙な表情。特に長兄の三号兄さんなんかは生真面目なのが災いしてたくさんの女性に可愛がられている。まあ、これも仕事だと割り切って乗り切るべきなのだろうか? いや…もう少し遠慮という物を覚えてもらわなくちゃこれから困りそうだ。それについてもゆっくり伝えて行こう。まだ、旅路は少々続くからね。




