18ー新住民の仕事割り振りー
1週間程雨が続いている。転生後約50日経過。新しい住民が加わったが、特に大きな問題は無し。……小さい問題はあるけど。
ただ、これまでの居住施設の規模では新住民が快適に寝起きできる空間的余裕は無い。なので僕はここ最近の仕事を蟻型ゴーレムを活用した居住施設の拡大工事に充てた。新住民の二種族、ミルフィモームとサテュロスは洞窟の外に大型の家屋を建造し、そちらに住んでもらう。各建屋に地下道を作り、僕達が住んでいる本拠点とも繋がっているが、彼女らの主作業場の関係から外に建屋を用意したのだ。ミルフィモームとサテュロスは主にファットテール部隊との共同作業になる。職場も僕らの居住施設よりも菜園や鶏舎、醸造施設に近い方がいい。
「ミルフィモームとサテュロスは直ぐに慣れたようだな」
「そうだね。家事雑事だけじゃなく、農業にもそれなりに慣れていたみたいだから。それより……縄張りの管理は大丈夫なの? ヴィエラさん」
「うむ。今は私がここにいた方が都合がいいのだよ」
「何か考えがあるならそれでいいけどさ……」
ミルフィモームは持ち前の馬力とスタミナ、人に近い身長がある分の効率がファットテール部隊キャラメル班の助けになった。時折見つかる新しい作物を次々に作付けしても対応できるのは彼女らの貢献が大きい。開拓当初と比べ倍以上の規模になっている菜園エリアは、確実にキャラメル班にはオーバーワークだったのだろうな。
サテュロスは醸造施設や加工食品の生産所を主な職場にしている。一部の巧者が貴族屋敷の使用人よろしく、掃除洗濯などから始まり調理や給仕などを行っている。どういう経歴があるのか知らんけど、かなり様になっていておどろかされた……。この両種に関しては仕事に慣れるのが早く、即戦力だ。これなら近いうちに正式移入と言う事になるだろう。
「ルオンエリアスの連中はどうかな? この拠点では人類種に近い生産活動をしている故だが、その中の執務を担当しているのだろう?」
「そうですよ。彼女達はこっちです」
ルオンエリアスの面々は実に優秀だ。これまではメンバーの中でできるからと、ミギワがあの手この手と四苦八苦しながらやってくれた。そのミギワからの引継ぎも終了し、ルオンエリアスの面々で上手く回るようになってくれている。ここに移って来て直ぐに書式の変更から実務の引継ぎも次の日の夕刻までには終了していた。ミギワは現状は室長の扱いだけど、お飾りの室長のような感じ。実務はほぼほぼルオンエリアスの5名が余裕をもって回している。
服装こそ青と白を基調にしレースモリモリのドレスワンピース姿だが、腕の程は十二分にバリキャリ。キリっとした態度も相まってできるOLさんのイメージがガッチガチに固まった。
特に5名のリーダー格であるシュメリエさんはその中でも能力が一段と高く、やり手の社長秘書のような感じ。ミギワも室長を彼女に譲って僕の護衛などの業務に付きたいらしいが……。新参者が完全に一部署を管理する形態になることはまずいとの言葉がシュメリエさんからあり、ミギワはミスなんてありえない収支報告書や、出納の傾向予想書類を確認する作業をしているそうで。
「あれらにこのような特技があるとはな。まあ、私達のような野生に生きる魔物にはこのような仕事は発生しないからな。我が縄張りでは肩身が狭かったのも頷ける」
「いや……。貴女が触れていないだけで多少はあるんですよ? 特に群れを維持する食料の出納管理はミラさんやゼラさんがしてますよ」
「う゛っ……。痛いところを」
「ヴィエラさんはそういうの苦手そうですしね。まあ、得意不得意は誰にでもあります。……ただもう少しミラさんとゼラさんを労ってあげるといいと思いますよ」
あまりにも高頻度で来るからヴィエラさんの機嫌の浮き沈みが直ぐにつかめるようになってしまった……。ショボンとすると耳が垂れて尻尾が微動だにしなくなるからね。いつもなら再浮上させるための一言をかけるが、今回の事はちょっと反省して欲しい。ここに来るなという事ではないし、効率の意味でもヴィエラさんがやるより二人がやる方が効率的な面も否定しない。だけど、もう少し歩み寄ることは必要だし、何度も言うが二人を労ってあげるべきだとも思う。
たまにミラさんもゼラさんも休養に来たりするのだが、愚痴が物凄いからね。僕の拠点とのやり取りが始まってからは彼女らの仕事も楽にはなっているらしいので、僕もヴィエラさんには長としての重みや日々のストレスがある事を伝えてフォローもしている。
それからお三方全員に言いたい。ここを保養施設認定しているのはまだまあ構わない。僕らに負担がかかっているわけでもないし、お土産も十分にもらっている。アダマンタイト以外にも、狩りのタイミングで出た使い道のない素材だとか、山菜やキノコ、ヴィエラさんの縄張りで僕らしか使い道がないであろう資源の情報とか……。だけど、それでも、これだけは言わせてほしい。三人共そろそろ酒の飲み方を覚えろと言いたい。毎回毎回べろんべろんになるまで深酒なんぞするなっ! 泥酔するだけなら寝かせておけばいいけど、意識を失う程飲むし最終的に至るゲロゲロピーは勘弁してくれ……。掃除も面倒だし、なによりもったいないから。
「うう……。す、すまぬ」
「その謝罪は毎度のように客間へかつぎ込んでくれるマサムネとシズカ、掃除をしてくれてたレオパード部隊の皆に言ってくださいね。別に僕はなんら困ってはないので」
「おや、本日もヴィエラ殿が参られていたか。相も変わらずお元気そうだな」
「それは嫌味か? まあ、よい。しかし、お前達もすぐに順応したのう。カリュエルよ」
「ははは! ここの暮らしは最高だからな! 食と住が保証されているのだ。我らもその分働かねばならんよ」
タイミングが良いのか悪いのか、屋内警邏中のカリュエルさんが通りかかった。ユニコーンの3名はアカメカブトトカゲ特殊部隊とはまた違った防衛シフトを組んでいる。彼女らはアカメカブトトカゲ特殊部隊のように小回りが効くタイプではなく、大太刀周りが主体の一騎当千タイプ。天職も“戦乙女”と呼ばれる種族固有のジョブで、武器も大型な物を好んだ。
基本的な生活能力は高めで掃除洗濯料理などは完璧。それに加えて武器の目利きや手入れの方法にも詳しく、部隊指揮や行軍における陣地構成や戦場での経験値が高いちょっと特殊な人員だ。
基本任務はこれまでマサムネやシズカ、太陽が交代でしていた門扉周りの守衛。しかし、今日のような雨天の場合は彼女らでは視界確保が難しいため、洞窟内の警邏を任せているのだ。ちなみに雨天の場合はマサムネやシズカ、太陽が監視小屋に常駐する。彼女らは聖法術に特化しており、魔法はあまり得意でない。逆にマサムネ、シズカ、太陽は魔法が得意なので広域探査の魔法を扱える。雨天時の視界不明瞭状態でも探査魔法は効果的だ。逆に晴れている時に探査魔法を使う程ではなく、魔獣人族の3名よりも目がいいユニコーンの三名が適任なのだ。適材適所である。
「ふむふむ。名采配であるな。流石、マサムネ殿だ」
「だよね。流石マサムネだよね。僕もそこまで気の利いた人員配備はできないし」
「そうか? ご主人様もマサムネ殿と方向性は異なるが、現場指揮の腕は相当なものだと私は思いますぞ」
「褒めてくれるのは有難いけど僕はまだまだ未熟だよ。もっと皆に負担をかけないように成長したいと思ってるし」
「きゅ~ん! うふッ……。うふふふふふ……。かわゆい…かわゆすぎうう! ああ! 抱っこしたい! ご主人様! ご無礼をお許しください! キャッチユー!」
これがいくつかある小さな問題の一つだ。別に嫌ではないが、僕にも羞恥心と言う物があるし、一応前世では20歳を過ぎたいい大人にまで年を重ねた。それもあって気恥ずかしく、何度となく彼女らからの万力ハグを回避している。ドラゴンゴーレムからの経験値によってそれなりに肉体も強化されたので、立体機動したり、不自然なアクロバットで回避するなど……。今のところはお情けで一日一回だけ掴まってあげているけど、それ以上は回避している。
前世ではかなり人見知りだったし、DQNは拒否反応があったけど。それもこのファンタジー世界に来てからはそれもだいぶ改善されている。改善しないとやってけないこともあるけど、今の所はキャラが濃いだけでちゃんと僕の気持ちを理解してくれる人たちばかりだから。甘えかもしれないが、この感じは凄くいい。
何度も万力ハグを繰り出して僕を捕獲しようと試みるカリュエルさんを、奇妙な物を見るような視線を向けるヴィエラさん。カリュエルさんはクールビューティーで、キリっとし真っすぐな佇まいが堅物感を主張している…ように見える。まあ、本性が直ぐに露見したから問題は欠片も無いけど。あと、万力ハグは物理的にやめて欲しい面もちゃんとある。職務中の彼女達は生体武装の“聖装”を展開していて、白色の壮麗な全身鎧姿のまま抱きしめられたら絶対に痛い。
「むーん……。残念ではありますが今は我慢します」
「いや、できれば鎧の時は本当に勘弁してほしい。その生体武装ってペロ助の拳を受けてもへこまなかったんでしょ? その硬さと君達の腕力で締められたらかなり痛いと思うんだ」
「確かに……。お前達ユニコーンは凄まじい筋力をしているしな。いくらユウゼン殿が頑丈でもそれなりに痛みはあるだろうな」
「いや、頑丈とかそういう問題じゃないから。痛い物は痛いし。それから一応僕も男だからね? 気持ちの高揚に繋がって不満の解消になるならある程度は認めるけど、あんまりそういうスキンシップは過剰にしないで欲しい。風紀も乱れるし」
何か変なことを言ったのだろうか? 僕をキョトンとした表情で見つめてくる二人。すると、ニンマリと笑顔を作ったヴィエラさんが油断していたこともあるが、僕をひょいッと抱き上げた。先ほどの話をちゃんと聞いていたのだろうか? ……と、口にする前にヴィエラさんから先手の一言。
日頃職務で疲れているので、僕というマスコットを愛でて癒されたいと言う事らしい。
なるほど、僕はここのマスコットで癒し系のゆるキャラみたいな扱いであると言う事か……。いやいや、確かに日頃の疲れやストレスを溜め込まれても困るからね。発散には協力するとは言ったけど、貴女はまた少し区分が違うだろうて。僕は同居者であり従業員のような立ち位置の皆の福利厚生のためなら許すと言うだけなんだが……。
しかし、何を言ってもヴィエラさんは僕を解放してくれない。この狼もかなり力が強いので、振りほどくにはそれなりに暴れなければいけないのだ。しかし、分かると思うけど、暴れると言う事はそれなりにあちこち触ることになる。うん。転生して直ぐだし、体は幼児の物だから生理的には反応しなくても、精神は20歳を過ぎた成人男性なのでね。精神衛生面上よろしくない。ヴィエラさんも行動の端々に残念さが滲んでいるが、絶世の美女と言われてもおかしくないワイルド系美女だ。前世でこんな展開になってたら喜んでお持ち帰りされただろうけどね。
「むふふふふ……。よきかなよきかな……。ああ~。何だろうか、この暖かで心地よい感覚は~……」
「あ、中毒者が増えてやんの……。これはめんどくさいんやでー」
「そんな外野で観察してないで何とかしてよ。ジェロ子隊員」
「え? 別にええんでない? ヴィエラ氏はもう身内も同然だし、どうせなら中毒にしといてそのまま……にゅふふふふふ」
「こらこら、下世話なジェスチャーはやめなさい。ホントにそろそろ解放してくれませんかね? 一応、僕もまだ仕事中なんですよ」
「むう…。連れないのう。まあ、良い。これからも時折抱かせてもらうからのう」
ヴィエラさんからは解放されたが、ぷくっとほおを膨らませるカリュエルさん。仕方ないのであまり力を入れないことを条件に抱っこを許可。僕を抱っこしている皆は一様に夢見心地となり、ちょっと危険な方向にトリップしてしまう。これに関してはレオパード部隊に調べてもらってあり、一応は原因が分かっている。しかし、これに関しては僕個人ではどうしようもない物で、僕の体から常時漏れ出している漏出魔力が彼女らに干渉して起きる現象なのだ。完全に聖氣で遮断してしまうと言う方法も無くはないが、それだと僕が常時緊張した状態になることになり気疲れしてしまう。つまりはこの現象は今の所どうしようもないのだ。
カリュエルさんには仕事にもらってもらい、なんでかこの場から離れないヴィエラさんを引き連れて僕も自分の持ち場に戻る。ホントにこの狼はどっちが家か解らなくなってきているな……。別に邪魔してくるわけでもないので放置しておけば問題ないけど。その内住み着くとか言いそうで怖いんだよね。




