1-異世界転生ー
脳裏に過ぎったのは孤独死と言うワード。最近猛威を振るった某ウイルスさんにやられ、僕は一人寂しく隔離生活。こういう時に自分の希薄な対人関係が大きな弱点になる。脱水、空腹、虚脱感が強まり僕は意識を失った。
『パンパカパーン! やあやあっ! やあやあっ! 初めましてえー! 皆大好き神様ですよー!』
五月蝿い……。
僕には友達など居ない。居ても疲れるし、そもそも人付き合いがそこまで得意じゃないからさ。じゃあ、このいかにも陽キャなウザチャラいヤツは何なのか? 知らんがな……。僕は体調が悪いんだ。寝させておくれよ。
『いやいや……。君、よく見たまえ。君はもうあちらの世界では永眠してるよ?』
鬱陶しい! ……が、確かに僕の居たはずの場所から、妙に明るい白一色な空間に移動しているのも事実。この事態について知っているのが、目の前の陽キャでパリピであろうチャラ男だけならば問わねばならない。
『のわぁー! やめ、やめえ! いだいいだいいだいいだい! 顔が、顔が変形するうぅ!』
「ならば僕に分かり易く簡潔に答えろ。ここはどこだ?」
『か、顔! 顔離して! 教えたくても教えらんないから!』
それもそうか。とりあえず、顔面は解放してやったが気は抜かない。案内されたコタツには対になるように座椅子が置いてあった。それに座るようにと言われたので、座って待っていたらお茶と茶菓子を持ってきやがったぞ……。似合わねー……。サラッサラの金髪にホストかと見紛う白スーツが卓に茶菓子を置き、自らも座る。なんかギャップが凄い。というか、どっちかに寄らんもんか?
『あー、様式美みたいなものがあるんだよー。僕ら神様も見た目からわかりやすい方がいいでしょ? 僕は光の神様。これでも高位神族の一人なんだからねー』
「それで僕はどうしてここに?」
『あー、気づいてない感じ? 正確には君と君のペットちゃんを異世界にご招待するために、幽体離脱の瞬間を狙ってここにお招きしたの』
それからは光の神からの詳しい説明が長々と続いた。
先程までの剽軽な口調は鳴りを潜め、職務に忠実な若手会社員の謝罪のような、やりにくい雰囲気が続く。光の神に過失があるわけではないのだが、関係者になるので対応してくれているらしい。
あくまで光の神が僕の担当であるだけで、光の神の過失ではないのだが……。光の神からはとても丁寧な措置を提案された。僕は本来なら死ぬはずではなかったらしい。しかし、神族と呼ばれる存在のヤラカシが原因で死んでしまった。それと同時に僕の同居トカゲやヤモリも餓死と言う最悪な最期を迎えることに……。
『だから、君以外にも複数居る明らかに運命が歪んだことで死に至った魂に救済措置を施してるんだ。君の担当は僕。この世界の創造に関わった代表者の名代としてある程度のわがままなら聞いてあげられるよ』
優しい声音に変わった光の神は僕と同居トカゲ数匹を“異世界転移”もしくは“異世界転生”させてくれるという。原理や摂理、主となる軸はよく分からないけど、死ぬはずでなかった僕を別の世界で生きていたことにし、今回の事案に対しての補填としたいらしい。
『君は理解が早くて助かるよ。それでどうしよう。勇者になりたい? それとも賢者? 聖女…は無理だけど、聖人にはなれるよ』
「わがままと言うのは能力傾向を自分で決める事も含まれるのか?」
『もちのろーん! むしろそれが最大の旨みだよね! この世界では不遇だったけど、僕らの後ろ盾で強くてニューゲームが可能なわけさ!』
……残念ながら僕は別に強さには魅力を感じない。
なので光の神と事細かに可能不可能を詰めて、2つの能力傾向を得るに至った。僕の性格としてはこれが1番適して居るだろう。光の神はつまらなそうにしているが、僕の性格からあまり目立つ事を好まない事を知っているのだろう。さっきからちょいちょい心の中を見透かされてる感じあったし。
『じゃあ、1つ目の権能を創造の神の名代として君に授けるよ。ゔゔんっ! 我は光を司り運命の指針を握る管理者。我が権限の許す魂へ思うがままの心を宿す! 一つ名は“製作者”』
緑色の球体が僕の胸に吸い込まれていき、何か暖かな物が定着した感じがした。その後に光の神からはサービスと言う事で、肉体に様々な耐性をつけてくれる“剛健の加護”と言う特殊なステータスオプションを付与してくれた。
僕が選んだ製作者と名付けられた固有特性は、傾向としては戦闘系ではないし、地味なスキルの多い生産者系の物なのだとか。なので、少し余白ができたらしく、その残りは生存能力を上げる方向のサービスをしてくれたようだ。
『それじゃ、次は君達ね』
僕に何らかの形で補填があるならば、僕の同居トカゲ達にも補填がある。光の神曰く、一寸の虫にも五分の魂という言葉があるように大きさや種族、寿命や容姿などと様々な違いがあるのは当たり前。しかし、その幾年生ける物の全てに魂という物があり、その大きさに違いがあるだけで根幹は同じ。
哲学的な彼の話には興味はないが、僕の同居トカゲ達やヤモリ達にも選択肢が与えられて各々決めたらしい。
光の神が言うには僕程こだわりが無いらしく、ある程度光の神が用意していた選択肢で落ち着いてくれたそうで。僕が養っていたトカゲ達にも様々な能力が与えられ、魂の大きさに比した能力傾向を得た。
『それじゃ、君達とはこれでお別れだね。次の世界では良き生を歩んでくれることを願っているよ』
「最後に言わせてくれない?」
『ん? やっぱこの見た目は似合わないって?』
「そう。絶対に合わないからやめた方がいいぞ。別にホストみたいにギラギラする必要はないだろう。アンタらしく暖かな慈愛の光に合った柔らかい恰好がいいぜ。絶対」
僕の最後の記憶は苦笑いする光の神が、真っ白い空間の中心で小さく手を振る姿だった。
~異世界転生後~
異世界転生って言うと、普通なら赤ん坊の姿で親元にいる状況で意識が覚醒する物だと思うのだけど、僕の場合は大きく違った。確かに赤ん坊?の姿であるのは間違いないのだ。
しかし、僕が転生したのは人の赤ん坊ではなかった。
それだけでなく僕達が転生した場所は、人跡未踏の言葉が似合う鬱蒼とした森林の中。親らしき存在も周りになければ文明物の影すらない。これは一体全体どういう事なのだろうか? と、最後に苦笑いしてやがった光の神の顔をもう一度握り潰したい衝動にかられた……が。
『やあやあ。意識は覚醒したかい?』
「この声は。光の神か?」
『へ~。転生後だと言うのに直ぐに応答てきるってことはかなり高位の種族に転生したんだね』
「その辺は良く知らんが、これはどういうことだ? 異世界転生のテンプレは親元に転生じゃないのか?」
僕が問いたいのはそこ。そこを突かれて声を詰まらせた光の神だったが、真剣な声音になりそこからはしっかりと説明してくれた。光の神の権限は僕を任意の能力を付与した上で、空きのある世界に転生させるところまでなのだそうだ。
しかし、僕の魂は光の神が創造の神から聞いていた話とは違うルートを辿って転生。光の神はこれは拙いと独断で僕の魂の着地点に急行してくれた。光の神もこの作為と悪意の見え隠れした行動には憤りを感じているとかで、本来なら規則違反なのだが創造の神に無理やり許可を取って、僕達のナビゲーターをしばらくしてくれるという。
「なるほどな。なら僕はこれから自由に生きていればいいんだな?」
『うん。神族関連の問題が降りかかりそうな時は僕やこの世界での担当神族が報せるし、可能な限り防除やサポートをするから。遅くなったけど、転生おめでとう。君の新しい生活に幸多からんことを願っているよ』
そう言って光の神が脳内に直接語りかけてくるような言葉が途切れた。同時に何か暖かな繋がりが切れたような感覚も受けたので、光の神とのコネクトも切れたのだろう。
はてさて、転生してすぐから面倒な事になった。
人間の赤ん坊ではないから、生き物としてはかなり強靭なのだろうか? 現状がどんな種族で、どんな身体能力なのかもよく分からない。ファンタジー的テンプレート通りなら……“ステータス”かな?
「お、出た。声も出たな。この体はどうなってんだか……」
僕の詠唱?に反応し、固有ステータスが詳しく表示される。本当にタブレットみたいなデザインで薄い板なんだな……。面白いけど、こればかりはゆっくり調べて行かなくちゃならないだろう。ゆっくりね。焦らず。
~プロフィール~
名前 ユウゼン シロイ
種族 固有鬼人種
出身 魔境の森
性別 男
年齢 0才(生後半日)
レベル 0
称号
・異世界転生者 ・魔境の頂点
加護
・剛健の加護(大地地母神)
~ステータス~
(残り振り分けLv.ポイント:0)
Lv.0体力 2949
Lv.0生命力 40(/min)
Lv.0筋力 1089(補正無し)
Lv.0防御力 503(補正無し)
Lv.0魔力量 15000(補正無し)
Lv.0魔回復量 209(/sec)
Lv.0魔攻力 1321(補正無し)
Lv.0魔防力 308(補正無し)
Lv.0俊敏性 69(マイナス補正→転生直後)
Lv.0精神力 108(補正無し)
Lv.0異常耐性 ∞(プラス補正→加護により完全耐性取得)
高いのか低いのかは現状分からん……。わからんけど、この体で生まれ、普通にニューゲームではなく無難にニューライフして行かねばならない。それから僕の周りをちょこまか走り回って居る仲間達も養わなければならないのだ。ここは僕が頑張るところだろう。
「キュっ!」
「お前らも普通に動けるのか……」
「グオ。グオウ…ッガグウ」
「ダメだ。理解不能や……」
僕の友達であり、同居トカゲであり、僕が養っていたペット達が僕の周りをぴょこぴょこしている。本当に生まれたばかりのなのか、どの個体も卵の殻を食べていた。
僕の飼っていたトカゲ達は柔らかい卵殻から生まれてくるはずなのに、全ての個体が硬い卵殻をバリボリやっている。
見た目は前世のまんまなのだが……。生まれた段階で絆の様な物があり、彼らのステータスを事細かに見ることはできる。……できるけど、こういうのってこの世界のスタンダードを知らないんじゃ意味無いんだよね。
僕のトカゲの種類を挙げると、“アカメカブトトカゲ”、“フトアゴヒゲトカゲ”、“マダガスカルダイビングスキンク”、“サルバトールモニター”、“オオヨロイトカゲ”。以上がトカゲ軍団。残りはヤモリ軍団で“レオパードゲッコー”、“ファットテールゲッコー”、“クレステッドゲッコー”だね。いずれもちょっと問題ありだったり、何かしら理由のある個体の集まりなんだけど、それはいずれ個体や集団をピックアップした時に教えよう。
「キュッ!」
「どうしたどうした……。何がしたいんだ?」
「キュ、キュクウ! キュッキュケウ!」
「ギュオ……」
まだハイハイしかできない僕の片手を引っ張るアカメカブトトカゲの一体。飼育動物からこの世界で生き残って行くためなのか、“魔獣人族”と言う新しい種族に昇華した彼らのパワーは凄まじい。単純な体積の格差をものともしない馬力……。
そこに片目が潰れているオオヨロイトカゲの一体が仲介するように割って入ってくれた。そのオオヨロイトカゲは大きな木の洞の地面に文字らしきものを書いていく。
『近くにゴブリンの巣がございます。主殿の身の危険に繋がりかねないと考え、可能ならば掃討し不可能ならば間引きを行いたく』
「なるほど……。あ、ちょっと待って。君らに危険はないよね?」
『そこはクレステッドゲッコーのヒノエとキノトが偵察から帰還後に判断して頂きたく。我らは主殿の剣であり盾にございます。いかようにもご命令を』
なんというか……凄く思いが重いな。
まあいいけど、クレステッドゲッコー達が帰ってくるまでは隻眼のオオヨロイトカゲであるマサムネと筆談での対話を試みる。ホウレンソウは大切だ。いきなり異世界転生のイベントが発生。はてさてどうなるやら……。こうして僕の波乱に満ち溢れた?異世界生活が始まったわけだけども、僕は僕で生きて行かねばならない。僕の同居者であるペット達も含め、慎重に道を選んでのったりまったりと普通にニューライフを……たぶん楽しめることだろう。




