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Angelic Storia  作者: 紡生 奏音
Extra edition 3 託される〝想〟〜Roots of 〝Wing〟〜
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    ଓ


 【(かげ)り】により、エルフィナが「本当の願い(・・・・・)」だと思い込まされていたコト。

 ――それは〝力〟を手放すという願いだった。

 全てが「運命」だというならば、この〝力〟さえなければ「運命」は変わっていたのではないか? エルフィナは【翳り(・・)】によりそんな疑問を植え付けられていた(・・・・・・・・・)のである。

 〝力〟さえなければ、「姫」として生まれなかったかもしれい。「普通」に暮らせていたかもしれない。大切なひとと結ばれていたかもしれない。――だとすれば、こんな〝力〟などいらない。エルフィナはそう信じ込んでいた(・・・・・・・)のである。

 当然、説明のつかないことの方が多い。けれど、【翳り(・・)】がエルフィナに取り憑いてしまった時点で、魔法王国は破滅へと着実に進んでしまっていたのだ。



 エルフィナはジェナティスを連れ、教会を訪れていた。

 教会は不気味なほど、静まり返っていた。その上、明かりも一切なく、暗かった。

 けれど、エルフィナはその異常さも気に留めず、教会の奥へと進んでいく。

 不安を覚えていたジェナティスが彼女の名前を呼び、制止したが、もはや彼の声もエルフィナには届いていなかった。何かに取り憑かれたかのように、エルフィナは祭壇の方に歩いていく。

 祭壇の前に(ひざまず)き、エルフィナは祈りを捧げる。

(守護神様、どうか私の〝力〟を失くして下さい)

 ――そして、「偽りの願い(・・・・・)」を掛けてしまった。

【聞き入れよう】

 どこからともなく、そんな声が教会に響き渡った。

 それと同時に、教会に明かりがともる。

 驚いて、エルフィナはすぐに振り返った。

 辺りは黒い衣を(まと)い、武装した者達で埋め尽くされていた。入口近くにいたジェナティスの背後には、彼らの(かしら)と思われるオトコが迫っていた。

「ジェナティス!」

 急いで彼に呼び掛け、エルフィナはジェナティスの元へ駆け寄ろうとした。

 ――が、上から降りて来た【ナニカ(・・・)】に阻まれてしまった。【ソレ(・・)】はエルフィナに馬乗りになり、見た目に反して(・・・・・・・)強い力で彼女を地面に押さえ付けた。

 当然、ジェナティスもエルフィナの元へ急ごうとしたが、後ろにいたオトコに肩を掴まれ、剣を突きつけられた。

「――動くな。 動いたら、お前の大事な姫様が傷付くぞ」

 脅され、ジェナティスは剣の柄に手を掛けたまま、身動きが取れなくなってしまう。

 エルフィナも【ナニカ(・・・)】から逃れようとしたが、彼女から見ればジェナティスが人質にされた恰好かっこうになってしまい、同じく身動きが取れなくなってしまう。

【何を恐れることがある? 今からお前の「願い(・・)」を叶えるのだぞ】

 【ナニカ(・・・)】からの予想もしていなかった発言に、エルフィナは驚愕して、聞き返そうとする。

 ――が、それよりも早く、【ナニカ(・・・)】が動いた。勢いよく、【ナニカ(・・・)】が【短刀】をエルフィナの胸に突き刺した。

「……っ!?」

 エルフィナは声にならない悲鳴を上げ、身体をのけ反らせる。

 実際に【短刀】が胸に刺さったわけではない。――【短刀】が貫いたのは肉体ではなく、エルフィナの「心」だった。とてつもない脱力感とめまいに襲われる。痛みはないが、〝力〟が自分の中から消えていく――エルフィナはそんな感覚を覚えていた。

 しばらくすると、【ナニカ(・・・)】がエルフィナの胸から抜いた。愉快(おかし)そうにクックッと笑い声を上げると、まばゆい〝光〟で輝く【短刀】をめながら、【ナニカ(・・・)】はその場を後にする。

【――あとは好きにしろ】

 その言葉を聞いて、どこからか【オトコ】が現れた。【オトコ】は力が抜け身動きが取れないエルフィナを無理やり起こし、縛り上げると頭のオトコの方へと向かせた。

 未だ、オトコはジェナティスを人質に取っている。【ナニカ(・・・)】がエルフィナを解放しても、カレ自身は「満足(・・)」していないようだった。

「な……にを」

 息を切らしながら、エルフィナは声を上げる。……嫌な予感がする。その上、何か取り返しのつかないことをしてしまったような気がしていた。

「エルフィナ姫よ。 我らが【邪神(女神)】様は目的を達成して満足されたが、【黒きモノ達(オレ達)】はそうじゃない。 ――オレは姫君に用事がある」

 そう話すと、オトコはジェナティスを更に引き寄せ、剣を突きつける。

 エルフィナは止めてと声を上げようとするが、後ろの【オトコ】がその様子を見せつけるかのように、ぐいと背中を押した。

「姫君、アンタがそこにいる【オトコ】――デュロウにそそのかされて(・・・・・・・)、『願い(・・)』を我らが【邪神(女神)】を叶えてもらっている間に、【黒きモノ達(コチラ)】で色々と動かせてもらったぞ。 まず、姫君にとっては悪い知らせにはなるが、アンタの親父――魔法王国(この国)の国王は殺させてもらった」

 オトコの言葉を聞き、エルフィナは目を見開く。……そそのかされた(・・・・・・・)? そこでようやく、エルフィナは囚われた【翳り(・・)】から解放され、正気を取り戻す。

 ――なら、自分はこのデュロウという【オトコ】にまんまと騙され、〝力〟を手放したというのか。その上、守るべき魔法王国(このくに)を危険に晒し、【黒きモノ達(この者達)】に「隙」を与え、父である王をむざむざ殺させてしまったというのか。

「……ぁ」

 エルフィナは自分の犯してしまった過ちにようやく気付き、思わず声を漏らす。そして、【ナニカ(・・・)】が口にした後は好きにしろ(・・・・・・・)という言葉の意味を理解する。

「エルフィナ・ファイラ――魔法王国(この国)唯一(・・)の後継者よ。 王亡き今、『新しい王』が()る。 ――そう、アンタはこのオレ、ヴェスターの妻となって、このオレをその『新しい王』にするんだ。 ……おっと、抵抗はするなよ? コイツがどうなってもいいなら、話は別だがな」

「い……いやああぁぁ――――!!」

 大切なものを危険に晒した後悔に(さいな)まれ、エルフィナは思わず叫び声を上げる。

 抵抗など、できるはずもなかった。エルフィナは気力を失くし、デュロウのなすがままにされる。頭のオトコ――ヴェスターの元へと連れられながら、涙をこぼした。

〝……いで――泣かないで、姫!〟

 ふと、エルフィナの心にそんな〝声〟が響く。反応もできず、うなだれたままでいると、〝声〟が続けて彼女に言葉を掛けた。

〝あの話――建国祭に守護神に願い事をすれば叶うって話、あれは真実(ほんとう)! 「必ず」ってことはないけどね。 ……あのね、今はとても強い【邪神】が近くにいて、誰にもどうすることもできなくて、この国と姫達を助けることはできないんだ。 けど、いつかはきっとこの状況が変わる時が必ず来るから。 だけどね、それまで姫を放っておくなんてこと、私にはできない。 ――だからせめて、あなたの「願い」聞かせてほしい。 私がいなくなった守護神の代わりにその「願い」預かっておくから!〟

 だんだんと考える気力すらなくなっていたエルフィナだったが、その〝声〟――(ヒト)ならざる〝もの〟の必死の訴えに、一縷(いちる)の望みを賭けてみることにした。

(――どうか、わたしたち(・・・・・)の〝想い(・・)〟を未来に)

 返事はなかった。けれど、「何か」がきらりと片隅で(きら)めいたのをみたような気がした。

 その次の瞬間、エルフィナは「意識」を手放す。建国祭前に待ち受けていたものよりもずっと、暗い「未来」がこれから待ち受けている。――そのことを思うと、目の前が暗くなったのだった。


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