Wing Ⅰ Epilogue ଓ 続く「物語」 〜〝Storia〟
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とある場所のとある一室。
ひたすらそこで、誰かが筆を走らせていた。
その部屋は静かだったが、外では慌ただしい物音が響いていた。けれど、彼女は気にも留めない様子で手を止めず、夢中で「何か」を書いていた。
ふとそこに、誰かが扉を叩く音が聞こえた。
ようやく、彼女は作業を止めて、背伸びをした後「はーい」と返事をする。
「ミリア」
彼女の名前を呼びながら、中に入って来たのはカルドだった。
カルドは微笑みながら振り返る彼女――ミリアの傍らに筆が置かれているのを目にして、ため息を吐く。
「……おいおい。 『誰か』さん達のせいで、今日の式が大変なことになってるってのに、また書いてたのかよ。 いい加減エリンが怒るぞ、少しは手伝ってやれ」
諌めるようなカルドの言葉にも全く動じず、ミリアは不敵な笑みを浮かべる。
「もちろん理解してるわよ。 だけどね、カルド。 ずっとそばであの娘のことを見て来たせいか、私すごく思うのよ。 ――大切なものをずっとまもってきたあの娘の想いは、誰かに伝え、遺していくべきものなんじゃないかって。 だから、私、あの娘の『軌跡』を『物語』として書いたの」
――そして、その「続き」をまさに現在書いているのだ。
とはいえ、ミリア本人としてはそれほど「物語」を多くに広めるつもりはなかった。だが、〝彼女〟の「物語」を広めた中に、今や凄腕の情報通として活躍しているレイティルがいたせいで、彼女がうっかりミリアの書いた「物語」が多くの人達に広まってしまったのである。
当人である〝彼女〟はひっそりと世界を守護するつもりだったようだが、そのことを聞いて困惑した様子を見せたものの、それはそれとして受け容れることにしたようだった。
そして、その日は〝彼女〟と〝彼〟の結婚式だったのだが、それもレイティルがうっかり周りに広めてしまったせいで、ふたりを祝福したいと駆け付けた人間が増えてしまったのである。
……とはいえ、片棒を担いだことには代わりはないか。
そう考えて、ミリアはもう一度背伸びをして、筆記用具を懐にしまった。
仕方ないなと言わんばかりの表情を浮かべているカルドの元に駆け寄り、ミリアは言う。
「とりあえず行こうか」
――まだ書き切れていない「軌跡」はたくさんある。ひとまず、この式を無事に終わらせることにしよう。
ミリアはカルドと目配せをしてうなずき合うと、これから描くことになる〝彼女〟の「軌跡」のことを思いながら部屋の外へと駆け出したのだった。
――そう、〝彼女〟の「物語」はこれからも続いていくのだ。




