Feather 15 ଓ 〝神格化〟 〜〝apotheosis〟
「すぐに」と宣言していただけあって、エリンシェがその名を呼ぶと、大神・ディオルトはテレスファイラの地に降り立った。
ディオルトはすぐに、エリンシェが珠を手にし、魂を側で保護しているのを目にして、はっと息を呑んだ。
〝もしや……?〟
「――はい。 テレスファイラの地を侵していたゼルグを私が封印しました。 ……ですが、私の〝力〟が足りず、永久封印には至らなかったようです」
すぐにうなずいたエリンシェはそう報告をして、目を伏せた。――そう、ジェイトと〝幸いの天使〟の力を借りて、ゼルグを封印することはできたものの、「手応え」はあまりなく、【カレ】を永久に封じることはできなかったのだと悟っていた。そして、自分のことを「力不足」だと感じていた。
〝いや、十分だよ。 ――この地を守護してくれたこと、深く感謝する。 それで……私を呼んだということは何か用件があるのだな?〟
――だがそれでも、エリンシェにはすでに決心が着いていた。
アリィーシュとガイセルから〝神格化〟の話を聞いた時は途方もない話だと思っていた。けれど、気が付くと、「選択」は決まっていた。
現在でも理由は分からないが、何らかの「縁」で自分に与えられた〝力〟。どう向き合えば良いのか、分からずにいたが、エリンシェはできるだけ「正しい」使い方で〝力〟と向き合おうとしてきた。
そうしていくうちに、エリンシェは〝力〟を大切なひとたちのために使おうと心に決めるようになっていた。そして、いつしか、与えられたこの〝力〟は「そのため」に有るのではないかと考えるようにもなっていたのだ。
もちろん、エリンシェは、最初のうちはかなり戸惑っていた。――まさかそんな、自分が大きな「使命」を背負っているとはとても考えられなかったのだ。けれど、それ以上に、大切なひとたちのことをこの〝力〟で守りたいとそう強く願うようになっていた。
その願いはエリンシェ自身をも強くした。
そして、どんどん強くなればなるほど、エリンシェの中でとある「覚悟」が定まっていた。
――この〝力〟で、大切なひとたちとテレスファイラを守護していこう、と。そして、皆の幸福をまもっていこうと。
そんな「覚悟」は強くなり、アリィーシュとガイセルが〝神格化〟の話を持ち出した時にはほとんど、エリンシェの中で「答え」が決まっていたのだ。
けれど、一方で、決して独りの力ではないことも理解していた。――ジェイトがいなければ、その「答え」にはたどりつけなかっただろう。
……だが、エリンシェと違って、何の〝力〟も持たないジェイトにはそこまでの「覚悟」はできていないだろう。だから、今はエリンシェが一人で背負うだけで良いだろう。
「――はい」
エリンシェはうなずいて、ディオルトの側で膝をついた。
そして、今まで抱いてきた「覚悟」をこめ、彼をじっと見つめながら口を開いた。
「大神様、私、すでに決心しています。 ……私、大切なひとたちが暮らすテレスファイラがすごく大事なんです。 それで、与えられたこの〝力〟でこのせかいをまもりたいって心の底からそう思うんです。 ――そして、大切なひとたちとこのせかいに幸福をもたらせる存在でありたいとそう思っています。 だから、大神様。 ――どうか、この身をテレスファイラのために使ってはいただけないでしょうか?」
背後で、エリンシェの言葉を聞いて、ジェイトとアリィーシュが息を呑んでいるのが分かった。……けれど、エリンシェは一切揺らがなかった。――それほどまでに〝彼女〟の「覚悟」は固くなっていたのだ。
〝……確かに、テレスファイラの守護神はほとんど空席と言える。 そして、貴方の「力」は神に匹敵――いや、それ以上と言っても過言ではなく、今や心も神々と同じ「聖なる心」を持ち合わせている。 ――よって、貴方をこの世界の「守護者」として認めることは可能だ。 ……だが、本当に良いのだな?〟
もう一度、ディオルトが念押しをする。
だが、エリンシェの「覚悟」はやはり揺らがない。――宣言した通り、もうとっくに決心はしていたのだ。
「――はい」
〝よろしい〟
エリンシェの返事にうなずいてみせ、ディオルトはどこからか〝聖杖〟を取り出した。そして、それを強く握ると先端の宝珠を見つめながら、しばらくその場に佇んでいた。
おそらく、ディオルトはしばらく〝聖杖〟と〈会話〉していたのだ。なにせ、〝神格化〟が以前に行われたのは「太古」の時代。現代の大神ですら知らない〝もの〟なのだ。
〝――よし分かった〟
ふと、ディオルトはそうつぶやいて、〝聖杖〟をエリンシェの方へと向ける。
エリンシェははっとして頭を垂れると、「その瞬間」をじっと待った。
〝大神の名において命ずる。 ――汝、エリンシェ・ルイングをこの世界・テレスファイラの「守護者」とする。 その恩恵として、我ら神々の生命の一部を分け与えん。 どうか、その永き生命が尽きるその日まで、この世界を平和と幸福に導き給え〟
「――承りました」
すぐに返答したエリンシェに、ディオルトは小さくうなずき、〝聖杖〟を両手で握った。そして、大きく息をすると、凛とした声で唱えた。
〝「神格化」!!〟
その瞬間、辺りはまばゆい光に包まれたのだった。




