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Angelic Storia  作者: 紡生 奏音
Wing Ⅰ Episode 4 翼――それは〝幸福〟をもたらす〝もの〟
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Feather 14 ଓ 決着 〜conclusion〜


    ଓ


 しばらく、沈黙が続いた。

 というより、ゼルグが一連の流れを理解できず、呆けていたため、ずっと動いていなかったのである。――長い期間を掛けて練られた計画が無駄になり、何もかもが手のうちだと思っていた状況が一変したのだ。認めたくない、という感情が何よりも強いようだった。

 エリンシェが【虜囚(・・)】から解き放たれたことにより、強まっていた【力】も全てなくなっていた。とはいえ、「時期」によって強くなっている【力】はそのままだった。

 とはいえ、もはやエリンシェの〝力〟がゼルグを遥かに(しの)いでいるといって過言ではなかった。

 ――勝敗はすでに決まっているようなものなのだ。

 そういうこともあって、ゼルグは認めたくないという気持ちがより強いようだった。


 ふと、ゼルグが頭をがくんと落とした。かと思いきや、狂ったように笑い出した。

 エリンシェは〝聖杖ケイン〟を握り、警戒を強めた。

「あー……残念だ残念だ。 せっかく、テレスファイラ(この世界)を支配できると思ったのに。 どこで間違えたんだか……」

 誰に言うでもなく、ゼルグが独りごちる。また狂ったように笑いながら、エリンシェを冷たい()で見据えた。

「だけど、タダ(・・)では終わらないよ。 せめて爪痕ツメアトくらいは残してやる」

 それでも、エリンシェは動じなかった。最初に動いたゼルグを捉えるように構える。――【鎌】を振り上げ飛びかかってきた【カレ】から一寸も目をそらさなかった。

 目の前まで来た瞬間、エリンシェは飛び上がった。そして、視線をカレから【鎌】に動かし、「()」を狙って、〝聖杖ケイン〟を横になぎ払った。

 ガシャンという大きな音が聞こえたのと同時に、ゼルグが驚愕の表情でエリンシェと行き違う。

 エリンシェは落下する()をよけ、ゼルグの方へ振り返る。

 ――地面に落ちたのは【鎌】の刃だった。

 武器を無力化され、ゼルグはその場に佇んでいた。

「ウソだ……」

 ゼルグがそうつぶやいたかと思うと、なりふり構わず【鎌】の柄だけを振り回し始めた。

 ジェイトとアリィーシュはそんなゼルグをひらりとかわし、距離を取る。そして、それぞれが武器を構え、【カレ】の動向を見ていた。

 エリンシェも黙ったまま、ゼルグを見つめる。――その表情はどこか【カレ】を憐れんでいるものにも思えた。

「ウソだウソだウソだウソだああああぁぁぁぁ!!」

 狂ったように叫び暴れ回るゼルグを避けながら、エリンシェは〝聖杖ケイン〟を握り、〝聖光オレオール〟を唱える。

 ……確かに命中はしているはずなのだが、ゼルグは変わらず暴れ続けている。いくら落ちた(・・・)と言えども、やはり一筋縄では行かない相手のようだ。

 エリンシェは少し考え、ジェイトの側へ飛んだ。すぐに、〝彼〟が目配せをして、何かできることがないか尋ねるような表情を浮かべる。

「ジェイト、力を貸して」「――うん」

 すぐに返事をしたジェイトに、エリンシェはゼルグを指差す。察したように、〝彼〟が矢をつがえ、【カレ】に狙いを定める。

「封印しようにもちょっと()が過ぎてる。 〝聖光オレオール〟も効かないから、別のを試してみる。 ――合図をしたら、矢を撃って」

 ジェイトにそれだけ言って、エリンシェは〝聖杖ケイン〟を矢に向けた。そして、大きく深呼吸をすると、〝力〟をこめ始める。

(〈フィー〉行くよ)〈はい〉

 〝幸いの天使(フィルネリア)〟にも呼び掛け、エリンシェはより強く矢に〝力〟をそそぐ。

 暴れ回るゼルグが目標を見失っていることに気付き、一瞬立ち止まる。

「――今!」

 その隙をついて、エリンシェはジェイトに合図を送る。

「〝浄化(エクソサイズ)〟!!」

 すかさず、ジェイトが矢を放った瞬間を見計らって、エリンシェは〝力〟を送り続けたまま、大声で唱える。

 もはや理性を失ったゼルグに、矢が確実に命中する。

 動きを止め、後ろに倒れ込む【カレ】に〝聖杖ケイン〟を向け、エリンシェは一か八か続けて唱える。

「――〝封印コンテイン〟!!」

 ゼルグに術が命中した「感触」はあった。けれど、何か、跳ね返されるような感覚があり、エリンシェは思わず後ろにのけぞった。

 ……足りない。――「何か」が足りていない。それだけははっきりと分かって、エリンシェは体勢を立て直しながら、必死に考える。

 決して、独りでは。――独りではゼルグを封印することは絶対にできない。そんな答えがすぐに思い浮かぶ。だとすれば……。

(――フィルネリア、私を「力」を貸して)〈もちろんです〉

 まずはフィルネリアに呼びかけ、エリンシェは〝聖杖ケイン〟を両手でしっかりと握る。するとすぐに〝彼女〟の思いに応えるように、〝聖杖ケイン〟があたたかくなった。

 そして、エリンシェはジェイトを振り返る。変わらず、何かできることはないか尋ねるような表情を浮かべる〝彼〟をじっと見つめながら思った。――そうだ、ジェイトがいなければ此処まで来ることは決してなかった。こうしていられるのは〝彼〟の存在あってこそだ。ならば……――。

「――ジェイト、『力』を貸して」

 意外だったのか、少し驚いたような顔をして、ジェイトは少しの間佇んでいた。けれど、考え直したのか「分かった」とうなずいてみせると、エリンシェの側に立った。

「で、どうすればいい?」

「――何も。 とりあえず、私のそばにいて。 あとは……私と一緒に〝聖杖ケイン〟を握ってくれる?」

 言われた通り、ジェイトがすぐに、そばで〝聖杖ケイン〟を握る。時折手が触れ、そのあたたかさを感じると、エリンシェは「力」が湧いてくるような気がした。

 ――やはり、このひとが自分を強くしてくれるのだ。このひとが、そして大切なひとたちがこのせかい(テレスファイラ)幸福(しあわせ)に生きていくためにも、【(ゼルグ)】と戦わなければならない。

 そんな決意を固めた時、エリンシェは「力」が更に自分を強めた感覚を(いだ)いた。深呼吸をして集中すると、ゼルグを見据える。

 封印は適わなかったが、少なからず損傷は与えたようだった。ふらふらした足取りで、ゼルグは辺りを見回し、目標を探していた。

 もう一度【(ゼルグ)】をとらえると、エリンシェはありったけの〝力〟を〝聖杖ケイン〟にこめる。

「お願い〝聖杖フィルネリア〟。 どうか、【(ゼルグ)】を封じる力を私に貸して。 ――そして、テレスファイラ(このせかい)幸福(しあわせ)守護する(まもる)力を私にちょうだい」

 つぶやいて、エリンシェはほんの少しの間、目を閉じる。そして、すぐに〝聖杖ケイン〟があつくなるのを感じて、目をぱっと開けると、思い切り息を吸い込んだ。

「〝封印コンテイン〟!」

 今度は確かに「感触」があった。……だが、やはり一筋縄では行かないようだ。少しずつ封印を施そうとしているのを拒もうと、ゼルグが激しく抵抗をしているのがわかる。

「……ぐっ!!」

 爪痕ツメアトを残すと宣言していただけあって、エリンシェを巻き込もうとしているようだった。見えない衝撃が襲い、体が吹き飛ばされそうになる。だが、こちらにも意地がある。――必ず、テレスファイラ(このせかい)をまもってみせる!

 何とか踏ん張ろうとしていると、エリンシェの両手にそっとジェイトが手を重ねた。――〝彼〟はエリンシェのことを支えようと、「力」を注いでくれているようだった。

 そんなジェイトの行動に、エリンシェは勇気付けられる。――〝彼〟の思いを決して無駄にはしない。ジェイトの「力」も自分のものに変え、ゼルグにぶつける。

【く……くそっ!!】

 ゼルグの怨嗟(えんさ)も取り押さえ、エリンシェは〝聖杖ケイン〟に〝力〟を送り続け、もう一度駄目押しで術を唱えた。

「――〝封印コンテイン〟!!」

 その次の瞬間、辺りをまばゆいほどの光が包んだ。

 同時に、どっという衝撃がエリンシェを襲い、思わず後ろに倒れ込んだ。そして……――。


 ほんの一瞬気を失ってしまったようだったが、光が消えると同時にエリンシェは身を起こした。

 隣にはジェイトが倒れていたが、少し呆けていただけで何事もないようだった。ほっとしながら、エリンシェは【(ゼルグ)】の姿を探した。

 見ると、ゼルグがいた場所には一つの珠が落ちていた。そして、その周りを魂が一つふよふよと漂っていた。何より、先程までとは違って、辺りは少しずつ明るくなっていた。

「……やった」

 エリンシェはつぶやくと、ほっと息を吐いた。


 ――【(ゼルグ)】との決着は着いたが、まだこれで「終わり」ではない。


 安心したのもつかの間、エリンシェは珠を拾い、漂っている魂を引き寄せた。

 「これから」のことに思いを馳せ、エリンシェは胸の中でとある人物の名前を呼ぶのだった。

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