Feather 14 ଓ 決着 〜conclusion〜
ଓ
しばらく、沈黙が続いた。
というより、ゼルグが一連の流れを理解できず、呆けていたため、ずっと動いていなかったのである。――長い期間を掛けて練られた計画が無駄になり、何もかもが手のうちだと思っていた状況が一変したのだ。認めたくない、という感情が何よりも強いようだった。
エリンシェが【虜囚】から解き放たれたことにより、強まっていた【力】も全てなくなっていた。とはいえ、「時期」によって強くなっている【力】はそのままだった。
とはいえ、もはやエリンシェの〝力〟がゼルグを遥かに凌いでいるといって過言ではなかった。
――勝敗はすでに決まっているようなものなのだ。
そういうこともあって、ゼルグは認めたくないという気持ちがより強いようだった。
ふと、ゼルグが頭をがくんと落とした。かと思いきや、狂ったように笑い出した。
エリンシェは〝聖杖〟を握り、警戒を強めた。
「あー……残念だ残念だ。 せっかく、テレスファイラを支配できると思ったのに。 どこで間違えたんだか……」
誰に言うでもなく、ゼルグが独りごちる。また狂ったように笑いながら、エリンシェを冷たい瞳で見据えた。
「だけど、タダでは終わらないよ。 せめて爪痕くらいは残してやる」
それでも、エリンシェは動じなかった。最初に動いたゼルグを捉えるように構える。――【鎌】を振り上げ飛びかかってきた【カレ】から一寸も目をそらさなかった。
目の前まで来た瞬間、エリンシェは飛び上がった。そして、視線をカレから【鎌】に動かし、「隙」を狙って、〝聖杖〟を横になぎ払った。
ガシャンという大きな音が聞こえたのと同時に、ゼルグが驚愕の表情でエリンシェと行き違う。
エリンシェは落下する刃をよけ、ゼルグの方へ振り返る。
――地面に落ちたのは【鎌】の刃だった。
武器を無力化され、ゼルグはその場に佇んでいた。
「ウソだ……」
ゼルグがそうつぶやいたかと思うと、なりふり構わず【鎌】の柄だけを振り回し始めた。
ジェイトとアリィーシュはそんなゼルグをひらりとかわし、距離を取る。そして、それぞれが武器を構え、【カレ】の動向を見ていた。
エリンシェも黙ったまま、ゼルグを見つめる。――その表情はどこか【カレ】を憐れんでいるものにも思えた。
「ウソだウソだウソだウソだああああぁぁぁぁ!!」
狂ったように叫び暴れ回るゼルグを避けながら、エリンシェは〝聖杖〟を握り、〝聖光〟を唱える。
……確かに命中はしているはずなのだが、ゼルグは変わらず暴れ続けている。いくら落ちたと言えども、やはり一筋縄では行かない相手のようだ。
エリンシェは少し考え、ジェイトの側へ飛んだ。すぐに、〝彼〟が目配せをして、何かできることがないか尋ねるような表情を浮かべる。
「ジェイト、力を貸して」「――うん」
すぐに返事をしたジェイトに、エリンシェはゼルグを指差す。察したように、〝彼〟が矢をつがえ、【カレ】に狙いを定める。
「封印しようにもちょっと度が過ぎてる。 〝聖光〟も効かないから、別のを試してみる。 ――合図をしたら、矢を撃って」
ジェイトにそれだけ言って、エリンシェは〝聖杖〟を矢に向けた。そして、大きく深呼吸をすると、〝力〟をこめ始める。
(〈フィー〉行くよ)〈はい〉
〝幸いの天使〟にも呼び掛け、エリンシェはより強く矢に〝力〟をそそぐ。
暴れ回るゼルグが目標を見失っていることに気付き、一瞬立ち止まる。
「――今!」
その隙をついて、エリンシェはジェイトに合図を送る。
「〝浄化〟!!」
すかさず、ジェイトが矢を放った瞬間を見計らって、エリンシェは〝力〟を送り続けたまま、大声で唱える。
もはや理性を失ったゼルグに、矢が確実に命中する。
動きを止め、後ろに倒れ込む【カレ】に〝聖杖〟を向け、エリンシェは一か八か続けて唱える。
「――〝封印〟!!」
ゼルグに術が命中した「感触」はあった。けれど、何か、跳ね返されるような感覚があり、エリンシェは思わず後ろにのけぞった。
……足りない。――「何か」が足りていない。それだけははっきりと分かって、エリンシェは体勢を立て直しながら、必死に考える。
決して、独りでは。――独りではゼルグを封印することは絶対にできない。そんな答えがすぐに思い浮かぶ。だとすれば……。
(――フィルネリア、私を「力」を貸して)〈もちろんです〉
まずはフィルネリアに呼びかけ、エリンシェは〝聖杖〟を両手でしっかりと握る。するとすぐに〝彼女〟の思いに応えるように、〝聖杖〟があたたかくなった。
そして、エリンシェはジェイトを振り返る。変わらず、何かできることはないか尋ねるような表情を浮かべる〝彼〟をじっと見つめながら思った。――そうだ、ジェイトがいなければ此処まで来ることは決してなかった。こうしていられるのは〝彼〟の存在あってこそだ。ならば……――。
「――ジェイト、『力』を貸して」
意外だったのか、少し驚いたような顔をして、ジェイトは少しの間佇んでいた。けれど、考え直したのか「分かった」とうなずいてみせると、エリンシェの側に立った。
「で、どうすればいい?」
「――何も。 とりあえず、私のそばにいて。 あとは……私と一緒に〝聖杖〟を握ってくれる?」
言われた通り、ジェイトがすぐに、そばで〝聖杖〟を握る。時折手が触れ、そのあたたかさを感じると、エリンシェは「力」が湧いてくるような気がした。
――やはり、このひとが自分を強くしてくれるのだ。このひとが、そして大切なひとたちがこのせかいで幸福に生きていくためにも、【敵】と戦わなければならない。
そんな決意を固めた時、エリンシェは「力」が更に自分を強めた感覚を抱いた。深呼吸をして集中すると、ゼルグを見据える。
封印は適わなかったが、少なからず損傷は与えたようだった。ふらふらした足取りで、ゼルグは辺りを見回し、目標を探していた。
もう一度【敵】をとらえると、エリンシェはありったけの〝力〟を〝聖杖〟にこめる。
「お願い〝聖杖〟。 どうか、【敵】を封じる力を私に貸して。 ――そして、テレスファイラの幸福を守護する力を私にちょうだい」
つぶやいて、エリンシェはほんの少しの間、目を閉じる。そして、すぐに〝聖杖〟があつくなるのを感じて、目をぱっと開けると、思い切り息を吸い込んだ。
「〝封印〟!」
今度は確かに「感触」があった。……だが、やはり一筋縄では行かないようだ。少しずつ封印を施そうとしているのを拒もうと、ゼルグが激しく抵抗をしているのがわかる。
「……ぐっ!!」
爪痕を残すと宣言していただけあって、エリンシェを巻き込もうとしているようだった。見えない衝撃が襲い、体が吹き飛ばされそうになる。だが、こちらにも意地がある。――必ず、テレスファイラをまもってみせる!
何とか踏ん張ろうとしていると、エリンシェの両手にそっとジェイトが手を重ねた。――〝彼〟はエリンシェのことを支えようと、「力」を注いでくれているようだった。
そんなジェイトの行動に、エリンシェは勇気付けられる。――〝彼〟の思いを決して無駄にはしない。ジェイトの「力」も自分のものに変え、ゼルグにぶつける。
【く……くそっ!!】
ゼルグの怨嗟も取り押さえ、エリンシェは〝聖杖〟に〝力〟を送り続け、もう一度駄目押しで術を唱えた。
「――〝封印〟!!」
その次の瞬間、辺りをまばゆいほどの光が包んだ。
同時に、どっという衝撃がエリンシェを襲い、思わず後ろに倒れ込んだ。そして……――。
ほんの一瞬気を失ってしまったようだったが、光が消えると同時にエリンシェは身を起こした。
隣にはジェイトが倒れていたが、少し呆けていただけで何事もないようだった。ほっとしながら、エリンシェは【敵】の姿を探した。
見ると、ゼルグがいた場所には一つの珠が落ちていた。そして、その周りを魂が一つふよふよと漂っていた。何より、先程までとは違って、辺りは少しずつ明るくなっていた。
「……やった」
エリンシェはつぶやくと、ほっと息を吐いた。
――【敵】との決着は着いたが、まだこれで「終わり」ではない。
安心したのもつかの間、エリンシェは珠を拾い、漂っている魂を引き寄せた。
「これから」のことに思いを馳せ、エリンシェは胸の中でとある人物の名前を呼ぶのだった。




