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Angelic Storia  作者: 紡生 奏音
Wing Ⅰ Episode 4 翼――それは〝幸福〟をもたらす〝もの〟
87/151

Feather 13 ଓ 「至」 〜〝reaching〟〜


    ଓ


 「誰か」が呼んでいる声がきこえる。

 いや……「誰か」ではない。――そのひとはとても大切な存在(ひと)だ。

 【闇】を打ち破ってもいまだ抜け出せずにいた〝彼女〟は、そのひとに逢いたいと切に願わずにはいられなかった。

 けれど、完全に【闇】を打ち消すには「何か(・・)」が足りないのだ。

 まだ「カラダ(・・・)」は自由に動かせずにいたが、ふと目の前に「何か」――いや「誰か」の姿が目に映った。

 その瞬間、視界が揺らぐ。……あぁ、このひとだ。――私はこのひとに逢いたかったのだ。

 すぐにでも、そのひとの手を取りたいとそう思った。けれど、「カラダ(・・・)」は少しだけ動いただけで、いまだ言うことを聞かない。

 どうすることもできずに佇んでいると、そのひとが駆け出して、こちらに手を伸ばすのが目に映った。

 ――気が付くと、そのひとに強く抱かれていた。

 優しく、あたたかい感触。……あぁ、私はこのひとの元へかえろうとしていたのだ。

 このひとに――〝彼〟に応えたい。そう思うと、微かにではあったが、声を出すことができた。

 それに気付いた〝彼〟がはっと息を呑んだ。

「……ごめん。 ――約束、守れなくてごめん。 あの時、君のことを離さない――どんな時でもそばにいるって、必ず君を守るってそう誓ったのに、君を『独り』にしてしまった」

 そして、さらに強く、ぎゅっと抱きしめられたかと思うと、〝彼〟はとても悔しそうな声で謝罪の言葉を口にした。

 ……違うのに。――あなたは何も悪くないのに。そう強く思うと、首が小さく横に動いた。


 ――私、あなたのところへかえりたい!!


「――ジェイト……」

 強くそう願うと、本当に小さなものではあったが、声を出して〝彼〟――ジェイトの名前を呼ぶことができた。

 ……けれど、まだ(・・)足りない。

 そんな直感を(いだ)いていると、不意に、ジェイトにより首元にペンダントが掛けられた。

〈――(あるじ)様、あなたの(めい)に従い、〝彼〟に「心」をお返ししましたよ〉

 次の瞬間、〈彼女〉――〝幸いの天使(フィルネリア)〟の〈声〉がきこえた。

 「半身」であるフィルネリアが手元に戻ると同時に、〝力〟がみなぎってくるのを感じた。……あともう少し(・・・・・・)

〈あとは〝彼〟次第です。 ――じきに「その瞬間(・・・・)」がやってきます〉

「エリンシェ、どうか聞いてほしい」

 フィルネリアがそんなことを話し終えると同時に、ジェイトがふと「おもい」の丈を口にし始めた。

 その一言一句を聞いているだけで、〝彼〟が本当に「心」を取り戻したのが理解できた(わかった)。――失われていた「好き」という以上の感情を取り戻している。


 ――ジェイトの「おもい」を実感した瞬間、〝彼女〟の中で〝何か〟が覚醒し(めざめ)始めた。


 ……けれど、まだ(・・)動けない。

「――だけど、この『きもち』、きみに直接伝えたい。 ――だから、どうか、僕のところへ戻って来てほしい。 ……そうだな、今はとりあえず『これ』だけ。 ――あとは全部済んだら話すよ」

 そう言って、ジェイトが〝彼女〟の手を取った。

 右手に〝彼〟からの指輪が残っていたことに安心していると、ジェイトがその指輪を外すのが分かった。そして……――。

 ――次の瞬間、ジェイトは指輪を左手の薬指に付け替えた。


 ――その意味を理解し、〝彼女〟はさらに〝覚醒〟する。


 全身にどんどん〝力〟がみなぎってくるのが分かる。

 ――これなら、テレスファイラ(このせかい)と大切なひとたちをまもることができる!

 そう確信した瞬間、ペンダントがまばゆい光を放った。


    ଓ


 ――そして、〝彼女〟は【()】を打ち破った。


 漆黒の衣を脱ぎ捨て、〝彼女〟は立ち上がる。

 振り返って、閉じていた目を開いた〝彼〟の手を取り、優しく包んだ。

 ――〝彼〟はとても大切な「もの」をくれた。そんな〝彼〟のことを、〝彼女〟は愛おしくおもっていた。

「ありがとう、ジェイト。 私も同じ『きもち』だよ」

 率直に、そんなおもいを〝彼女〟は少しだけ打ち明ける。

 ――〝彼〟が言ったように、あとは全てが終わってから。まずはテレスファイラ(このせかい)を【敵】の脅威から救わなければ。

 〝彼女〟は立ち上がり〝羽〟を広げると、前へ出る。

(……行くよ、〝幸いの天使(フィルネリア)〟)〈――はい〉

 〝聖杖ケイン〟を手にしながら、フィルネリアに呼び掛けると、〝彼女〟は【(ゼルグ)】を見据えた。

 【(ゼルグ)】がこちらに気付くより先に、〝疾風の弓矢(ゲイル)〟を構えた〝彼〟が隣に並んだ。

 少しだけ、〝彼〟の方を振り返ると、勇ましい表情(かお)をしているのが目に入った。


 ――あなたとふたり一緒なら、きっと乗り越えられる。

 

 微笑をこぼして、〝彼女〟は〝聖杖ケイン〟を【(ゼルグ)】に向けて構えるのだった。


    ଓ


 ――その「輝き」は何よりもまばゆいものに思えた。

 

 ……やはりあの時、〝彼〟に賭けてみて良かった。アリィーシュは心の底からそう思っていた。

 まぎれもなく、【虜囚(・・)】から逃れられない〝彼女〟を助け出すのは〝彼〟だ。――〝彼女〟と共に(・・)、この場を切り抜け、テレスファイラ(このせかい)を救うのも間違いなく〝彼〟だ。

人間(ニンゲン)風情がどうしてボクの邪魔をする!? お前のような取るに取らない存在など、黙って支配されていればいいものを……!」

 そうだと分かり切っているのに(・・・・・・・・・・)、ゼルグは〝彼〟のことをただの人間だと愚弄(ぐろう)する。……いつの間にやら、すっかり落ちた(・・・)ものだ。

「あなたには決して分からないでしょうね。 確かに〝彼〟は人間(ヒト)ではあるけれど、特別な『()』を持つ存在なのよ。 そんなひと達が、時には大きな『希望』をもたらす。 ――あなたにはそれが決して分からない」

 気が付くと、〝彼〟と【(ゼルグ)】の間に割って入って、アリィーシュはそう明言していた。

 〝彼女〟とは違って、〝彼〟は何の〝力〟も持たない人間(ひと)である……はずだった。けれど、いつしか〝彼〟は「()」を持つまでに成長していた。――そして、その「()」のおかげで、〝彼〟は〝彼女〟をそばで支え、共に歩めるほどにまで「強く(・・)」成っている。それだけではない。やがて、その「()」は……――。

 ……けれど、まだまだ「其処(・・)」に至るまでには、もう少し――ほんの少し時間が掛かりそうだ。それまでは「希望」が(つい)えないように、誰かが手助けをしなければならない。


 ――その「役割」を担うのは当然自分だ。


 〝ステッキ〟を手にし、アリィーシュはゼルグを睨みつけた後、少しだけ振り返って〝彼〟に声を掛ける。

「……大丈夫よ、ジェイト君。 あなたの声はちゃんとエリンシェに届いてる。 だから、どうにかしてあの()を助け出して。 ――そして、どうかテレスファイラ(このせかい)を救って。 それまで、何とか私がゼルグ(ヤツ)を食い止めておくから」

 ――〝彼〟に確固たる「信頼」を口にして伝えた後は振り返らず、まっすぐに【(ゼルグ)】に向かって行った。

 アリィーシュの攻撃は先程までと同じく、【鎌】で食い止められた。――が、ゼルグには少し前まではあった絶対の「自信」がなくなっていた。だんだん自分の思い通りにならないことに、苛立ちや困惑を覚えているのだろうか。やはり、落ちてきている(・・・・・・・)

 畳み掛けるように、アリィーシュは攻撃を続ける。そして、だんだん押し切っていき、ふたりから距離を取った。

 ――あとは信じるだけ。そう思った直後だった。

 とても強い光が辺り一面に広がった。

 あまりのまばゆさに思わず攻撃の手を止め、アリィーシュは光の方へ振り返る。――その瞬間、大きく息を呑んだ。


 ――其処にはひとりの「()」が降り立っていた。


 いや、そう思い違いをしてしまうほど、〝彼女〟は神々しく、美しい姿をしていた。

 ――見事に【闇】を打ち破り、金色に輝く〝羽〟を広げ、〝聖杖ケイン〟を手にして、〝彼女〟は【(ゼルグ)】を見据えていた。

 少し経つと、その隣に勇ましい表情を浮かべ、弓――〝疾風の弓矢(ゲイル)〟を手にした「英雄」が肩を並べた。


 ――新たな「境地」に至ったふたりの姿に、アリィーシュは思わず見惚れてしまっていた。

 少し経って我に返り、アリィーシュはゼルグから離れ、ふたりの隣へと飛ぶ。そして、ふたりと共に【(ゼルグ)】を見据えるのだった。


 ――そしていよいよ、長い戦いの決着がつこうとしていた。


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