Feather 13 ଓ 「至」 〜〝reaching〟〜
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「誰か」が呼んでいる声がきこえる。
いや……「誰か」ではない。――そのひとはとても大切な存在だ。
【闇】を打ち破ってもいまだ抜け出せずにいた〝彼女〟は、そのひとに逢いたいと切に願わずにはいられなかった。
けれど、完全に【闇】を打ち消すには「何か」が足りないのだ。
まだ「カラダ」は自由に動かせずにいたが、ふと目の前に「何か」――いや「誰か」の姿が目に映った。
その瞬間、視界が揺らぐ。……あぁ、このひとだ。――私はこのひとに逢いたかったのだ。
すぐにでも、そのひとの手を取りたいとそう思った。けれど、「カラダ」は少しだけ動いただけで、いまだ言うことを聞かない。
どうすることもできずに佇んでいると、そのひとが駆け出して、こちらに手を伸ばすのが目に映った。
――気が付くと、そのひとに強く抱かれていた。
優しく、あたたかい感触。……あぁ、私はこのひとの元へかえろうとしていたのだ。
このひとに――〝彼〟に応えたい。そう思うと、微かにではあったが、声を出すことができた。
それに気付いた〝彼〟がはっと息を呑んだ。
「……ごめん。 ――約束、守れなくてごめん。 あの時、君のことを離さない――どんな時でもそばにいるって、必ず君を守るってそう誓ったのに、君を『独り』にしてしまった」
そして、さらに強く、ぎゅっと抱きしめられたかと思うと、〝彼〟はとても悔しそうな声で謝罪の言葉を口にした。
……違うのに。――あなたは何も悪くないのに。そう強く思うと、首が小さく横に動いた。
――私、あなたのところへかえりたい!!
「――ジェイト……」
強くそう願うと、本当に小さなものではあったが、声を出して〝彼〟――ジェイトの名前を呼ぶことができた。
……けれど、まだ足りない。
そんな直感を抱いていると、不意に、ジェイトにより首元にペンダントが掛けられた。
〈――主様、あなたの命に従い、〝彼〟に「心」をお返ししましたよ〉
次の瞬間、〈彼女〉――〝幸いの天使〟の〈声〉がきこえた。
「半身」であるフィルネリアが手元に戻ると同時に、〝力〟がみなぎってくるのを感じた。……あともう少し。
〈あとは〝彼〟次第です。 ――じきに「その瞬間」がやってきます〉
「エリンシェ、どうか聞いてほしい」
フィルネリアがそんなことを話し終えると同時に、ジェイトがふと「おもい」の丈を口にし始めた。
その一言一句を聞いているだけで、〝彼〟が本当に「心」を取り戻したのが理解できた。――失われていた「好き」という以上の感情を取り戻している。
――ジェイトの「おもい」を実感した瞬間、〝彼女〟の中で〝何か〟が覚醒し始めた。
……けれど、まだ動けない。
「――だけど、この『きもち』、きみに直接伝えたい。 ――だから、どうか、僕のところへ戻って来てほしい。 ……そうだな、今はとりあえず『これ』だけ。 ――あとは全部済んだら話すよ」
そう言って、ジェイトが〝彼女〟の手を取った。
右手に〝彼〟からの指輪が残っていたことに安心していると、ジェイトがその指輪を外すのが分かった。そして……――。
――次の瞬間、ジェイトは指輪を左手の薬指に付け替えた。
――その意味を理解し、〝彼女〟はさらに〝覚醒〟する。
全身にどんどん〝力〟がみなぎってくるのが分かる。
――これなら、テレスファイラと大切なひとたちをまもることができる!
そう確信した瞬間、ペンダントがまばゆい光を放った。
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――そして、〝彼女〟は【鎖】を打ち破った。
漆黒の衣を脱ぎ捨て、〝彼女〟は立ち上がる。
振り返って、閉じていた目を開いた〝彼〟の手を取り、優しく包んだ。
――〝彼〟はとても大切な「もの」をくれた。そんな〝彼〟のことを、〝彼女〟は愛おしくおもっていた。
「ありがとう、ジェイト。 私も同じ『きもち』だよ」
率直に、そんなおもいを〝彼女〟は少しだけ打ち明ける。
――〝彼〟が言ったように、あとは全てが終わってから。まずはテレスファイラを【敵】の脅威から救わなければ。
〝彼女〟は立ち上がり〝羽〟を広げると、前へ出る。
(……行くよ、〝幸いの天使〟)〈――はい〉
〝聖杖〟を手にしながら、フィルネリアに呼び掛けると、〝彼女〟は【敵】を見据えた。
【敵】がこちらに気付くより先に、〝疾風の弓矢〟を構えた〝彼〟が隣に並んだ。
少しだけ、〝彼〟の方を振り返ると、勇ましい表情をしているのが目に入った。
――あなたとふたり一緒なら、きっと乗り越えられる。
微笑をこぼして、〝彼女〟は〝聖杖〟を【敵】に向けて構えるのだった。
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――その「輝き」は何よりもまばゆいものに思えた。
……やはりあの時、〝彼〟に賭けてみて良かった。アリィーシュは心の底からそう思っていた。
まぎれもなく、【虜囚】から逃れられない〝彼女〟を助け出すのは〝彼〟だ。――〝彼女〟と共に、この場を切り抜け、テレスファイラを救うのも間違いなく〝彼〟だ。
「人間風情がどうしてボクの邪魔をする!? お前のような取るに取らない存在など、黙って支配されていればいいものを……!」
そうだと分かり切っているのに、ゼルグは〝彼〟のことをただの人間だと愚弄する。……いつの間にやら、すっかり落ちたものだ。
「あなたには決して分からないでしょうね。 確かに〝彼〟は人間ではあるけれど、特別な『力』を持つ存在なのよ。 そんなひと達が、時には大きな『希望』をもたらす。 ――あなたにはそれが決して分からない」
気が付くと、〝彼〟と【敵】の間に割って入って、アリィーシュはそう明言していた。
〝彼女〟とは違って、〝彼〟は何の〝力〟も持たない人間である……はずだった。けれど、いつしか〝彼〟は「力」を持つまでに成長していた。――そして、その「力」のおかげで、〝彼〟は〝彼女〟をそばで支え、共に歩めるほどにまで「強く」成っている。それだけではない。やがて、その「力」は……――。
……けれど、まだまだ「其処」に至るまでには、もう少し――ほんの少し時間が掛かりそうだ。それまでは「希望」が潰えないように、誰かが手助けをしなければならない。
――その「役割」を担うのは当然自分だ。
〝杖〟を手にし、アリィーシュはゼルグを睨みつけた後、少しだけ振り返って〝彼〟に声を掛ける。
「……大丈夫よ、ジェイト君。 あなたの声はちゃんとエリンシェに届いてる。 だから、どうにかしてあの娘を助け出して。 ――そして、どうかテレスファイラを救って。 それまで、何とか私がゼルグを食い止めておくから」
――〝彼〟に確固たる「信頼」を口にして伝えた後は振り返らず、まっすぐに【敵】に向かって行った。
アリィーシュの攻撃は先程までと同じく、【鎌】で食い止められた。――が、ゼルグには少し前まではあった絶対の「自信」がなくなっていた。だんだん自分の思い通りにならないことに、苛立ちや困惑を覚えているのだろうか。やはり、落ちてきている。
畳み掛けるように、アリィーシュは攻撃を続ける。そして、だんだん押し切っていき、ふたりから距離を取った。
――あとは信じるだけ。そう思った直後だった。
とても強い光が辺り一面に広がった。
あまりのまばゆさに思わず攻撃の手を止め、アリィーシュは光の方へ振り返る。――その瞬間、大きく息を呑んだ。
――其処にはひとりの「神」が降り立っていた。
いや、そう思い違いをしてしまうほど、〝彼女〟は神々しく、美しい姿をしていた。
――見事に【闇】を打ち破り、金色に輝く〝羽〟を広げ、〝聖杖〟を手にして、〝彼女〟は【敵】を見据えていた。
少し経つと、その隣に勇ましい表情を浮かべ、弓――〝疾風の弓矢〟を手にした「英雄」が肩を並べた。
――新たな「境地」に至ったふたりの姿に、アリィーシュは思わず見惚れてしまっていた。
少し経って我に返り、アリィーシュはゼルグから離れ、ふたりの隣へと飛ぶ。そして、ふたりと共に【敵】を見据えるのだった。
――そしていよいよ、長い戦いの決着がつこうとしていた。




