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Angelic Storia  作者: 紡生 奏音
Wing Ⅰ Episode 4 翼――それは〝幸福〟をもたらす〝もの〟
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Feather 12 ଓ 「覚醒」 〜Side 〝J〟 ➳ awaking hero〜


    ଓ


 ――どうか、〝彼女〟の元へ……!

 そんな思いを胸に、ジェイトはペンダントを握る。

 不思議な感覚だった。……自分には〝彼女〟のように「羽」はないけれど、その術――〝転翔ソアー〟を唱えれば、どこへだってとべそうな気がした。けれど、こうして、決して自分ひとりの力では扱えない術を使うことができているのは、あくまで〝彼女〟の「力」なのだ。

 ……あぁ、力が欲しい。力があれば、きっと〝彼女〟のことをすぐそばでまもることができるのに。〝彼女〟だけを危ない目に合わせることは決してしないのに。――決して、エリンシェを独りにしないのに。

〈もうすぐ着きますよ〉

 物思いに耽っていたジェイトの気持ちを知ってか知らずか、〝幸いの天使(フィルネリア)〟の〈声〉が響き渡った。

 ジェイトはうなずきながら、〝疾風の弓矢(ゲイル)〟を手にして、心の準備をするのだった。



 降り立ったのは以前エリンシェがさらわれていた場所と同じところのようだった。

 難しい技を使ったせいだろうか、目が眩んでよく見えなかった。瞬きをしながら、ジェイトは辺りを見回す。

 大きな広間に、壊れた檻が放置しているのがうっすらと見えた。……もしかして、〝彼女〟がとらえられていたんだろうか。

 そんなことを考えていると、その奥から雄叫びが聞こえた。――アリィーシュの声だ。彼女が戦っているということは、あまりよくない状況かもしれない。

 声を頼りに、ジェイトはそちらへと進む。

 ……最悪だ。見ると、アリィーシュとゼルグが応戦していた。そして、その脇には変わり果てた〝彼女〟の姿があった。――黒の衣を(まと)い、瞳を真紅と紫に染められた【彼女】を目にした途端、ジェイトの視界が一瞬にして開けた。

「――エリンシェ(・・・・・)、やれ!」

 気安く〝彼女〟の名前を呼び、アリィーシュを攻撃しろと命令するゼルグに、ジェイトは反吐が出そうになる。【彼女】は【カレ】の言うことを聞いてしまうのだろうかと不安になって、【彼女】の方を振り返る。

 だが、【彼女】は無表情のまま、動こうとはしなかった。その様子を見た瞬間、ジェイトはすぐにほっとする。――まだ、〝彼女〟は完全に堕ちてしまったわけではない。いくら【敵】の【支配(・・)】を受けようと、〝彼女〟はいつもそばにいて――大切な存在でもあるアリィーシュのことを、自分自身の手で傷付けることを頑なに拒んでいるのだ。

 ――それが分かれば、話は早い。何とかして〝彼女〟をよび戻さなければ。

(いや「何とかして(・・・・・)」じゃないな。 ……僕が。 ――僕がエリンシェを必ず助け出す!!)

 そう固く決心して、ジェイトは飛び出そうとした。

 ――その時だった。苛立ちを隠せなくなったのか、ゼルグが動こうとしない【彼女】に思い切り掴みかかろうと手を伸ばした。

「〝彼女〟に触るな!!」

 気が付くと大声で叫んでいた。ジェイトのその声に、アリィーシュがどこか安心した表情で振り返り、「待ってたわよ、ジェイト君」とつぶやいた。

 アリィーシュの意外な言葉に驚きつつも、近くにやって来た彼女にうなずいてみせた。……もちろんエリンシェのことを必ず助け出すつもりではあるが、何の力もない自分に、そんなに過度な期待をされても困る。

 ジェイトの思いを知ってか知らずか、アリィーシュが小さく微笑()みをこぼす。――それはどこか満足な表情にも見えた。

 そんなアリィーシュを脇目に、ジェイトは前に出る。

 唯一こちらを振り返らなかった【彼女】は無表情のまま、ほんの少しだけ目を泳がせていた。

 名前を呼べば〝彼女〟に届くかもしれない。そんな思いをこめ、ジェイトは大きな声で〝彼女〟の名前を呼んだ。

「――エリンシェ、迎えに来たよ!」

 きらりと、その瞳に一筋の「光」が走る。

 届いている。ジェイトはそんな確信を持って、手を伸ばす。

 今度ははっきり目がぐらりと揺らぎ、微かに【彼女】の手がぴくりと動いた気がした。

 ――が、ふたりの間に割って入るように、ゼルグが立ち塞がる。

 ……事はそう簡単には行かないらしい。ジェイトはゼルグを睨みつけた。

人間(ニンゲン)風情がどうしてボクの邪魔をする!? お前のような取るに取らない存在など、黙って支配されていればいいものを……!」

「あなたには決して分からないでしょうね。 確かに〝彼〟は人間(ヒト)ではあるけれど、特別な『()』を持つ存在なのよ。 そんなひと達が、時には大きな『希望』をもたらす。 ――あなたにはそれが決して分からない」

 さらに、アリィーシュが強い口調でそう話しながら、ジェイトとゼルグの間に割って入った。

 ……そんなことはないはずなのに。――自分は決して、何の「力」も持っていないはずなのに。それなのに、アリィーシュは頑なに自分のことを信じ切ってくれている。

 アリィーシュのそんな揺るぎない姿を見て、ジェイトは何とかして、彼女の「おもい」に応えたいと考えずにはいられなかった。

「……大丈夫よ、ジェイト君。 あなたの声はちゃんとエリンシェに届いてる。 だから、どうにかしてあの()を助け出して。 ――そして、どうかテレスファイラ(このせかい)を救って。 それまで、何とか私がゼルグ(ヤツ)を食い止めておくから」

 少しだけ振り返り、アリィーシュが小さな声でそうジェイトに語り掛ける。

 すぐにうなずいたものの、ジェイトは少し彼女の言葉に面喰らっていた。……アリィーシュが言うように、自分にはこの世界(テレスファイラ)を救う「力」なんてものがあるはずもないのに。

 ジェイトの反応を見るとすぐに、アリィーシュは〝ステッキ〟を手に、ゼルグの方へと駆け出した。

 二人はまた応戦を始めた。アリィーシュが上手くやり過ごしているのか、ジェイトとエリンシェから離れたところへゼルグを誘導していた。

 少し経つと、ふたりだけになっていた。【彼女】は無表情のまま、目を泳がせている。……今なら近付くことができそうだ。

 思い切って、ジェイトは【彼女】の方へ駆け出す。動かない【彼女】に手を伸ばし、その肩を掴む。小さく息を呑んで、【彼女】が食い入るようにジェイトを見つめた。

 気が付くと、ジェイトは【彼女】を抱きしめていた。強く、優しくその肩を(いだ)くと、今まで反応を示さなかった【彼女】が、小さく声を漏らすのが聞こえた気がした。

「……ごめん。 ――約束、守れなくてごめん。 あの時、君のことを離さない――どんな時でもそばにいるって、必ず君を守るってそう誓ったのに、君を『独り』にしてしまった」

 ――君のことを「独り」にしなければ、こんなことにはならなかったかもしれないのに。そう思うと、歯がゆくて仕方がなかった。今、たくさんの人達に「思い」を託されていても、必ず〝彼女〟を助け出すと心に決めていても、実際は何もできず、こうして【彼女】を抱きしめることしかできないでいた。……そんな自分が本当に情けない。

 そんなことを考えていると、微かに【彼女】が首を横に振った。

「――ジェイト……」

 はっと息を呑んでいると、依然小さな声ではあったが、今度は確かに【彼女】がそう口にしているのが聞こえた。

 ……あぁ、本当に〝彼女〟に「声」が届いている! そうだと分かっても、やはりどうすれば良いのか、分からずにいた。

〈――大丈夫。 (ペンダント)を主様の元に〉

 ふと、頭の中に〝幸いの天使(フィルネリア)〟のそんな〈声〉が響き渡った。ジェイトは言われた通りに、ペンダントを【彼女】の首に掛ける。

 ――が、何も起こりそうにない。「何か(・・)」が足りないようなそんな気がした。どうすることもできず戸惑っていると、畳み掛けるようにフィルネリアの〈声〉が聞こえて来る。

〈あとはあなた様の「おもい」の丈を伝えるだけです。 ――そうすれば何もかも整います(・・・・・・・・)

 ……まさかそんな。半信半疑ではあったが、〈彼女〉の言う通り、〝彼女〟と――フィルネリアと〝優しき風の勇者(ルイーゼン)〟のおかげで取り戻した「心」の内を打ち明けてみることにした。

「エリンシェ、どうか聞いてほしい。 僕、きみのことがどうしようもなく好きなんだ。 いや……やっぱり『好き』という感情だけでは伝わりそうにないな。 とにかくきみのことが大切で、ずっとそばで支えていきたいって、そう心の底から思うんだよ。 あぁ……ようやく胸の内の『感情』を言葉にすることができたよ。 それもきみが僕の『心』を取り戻してくれたからだよ。 ありがとう、エリンシェ。 だけど、この『きもち』、きみに直接伝えたい。 ――だから、どうか、僕のところへ戻って来てほしい。 ……そうだな、今はとりあえず『これ』だけ。 ――あとは全部済んだら話すよ」

 言い終えて、ジェイトはそっと〝彼女〟の手を取った。そして、その身は堕ちていても変わらずはめられていた右手の指輪を外すと、左手の薬指に付け替えた。


 ――その瞬間、ペンダントが光り輝き始めた。


 あまりのまばゆさに、ジェイトは思わず目を閉じる。

 けれど、その光はとてもあたたかくて。……なぜだろう。「力」が湧いてくるような気がした。

 しばらくして光がしずまり、ジェイトはそっと目を開ける。

 その瞬間、あたたかく優しく手が〝彼〟を包んだ。

「ありがとう、ジェイト。 私も同じ『きもち』だよ」

 ……あぁ、〝彼女〟が帰って来た! すぐに、〝彼女〟を探すが、もはやすでにその後ろ姿しか見えなかった。


 ――〝彼女〟の背中はとても神々しかった。

 大きく広げられた〝羽〟も金色に輝いて見える。


 けれど、ジェイトは物怖じしなかった。――〝彼女〟のことをずっとそばで支えると、もう決めていたからだ。

 〝疾風の弓矢(ゲイル)〟を手にして立ち上がり、ジェイトは前へ出る。そして、確固たる足取りで、〝彼女〟の隣に肩を並べるのだった。

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